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Pass8 強引な勇者様<<戦車>>

囚われた人達を救出するアレフとレーシュの2人。


ですが脱出にはまだまだ時間が必要みたいで・・・

ほぼ生き残っておられる女性を解放出来たみたいです。


残念だったのは、幾人かが亡くなっておられました。

また最早喋る事もままならないまでに衰弱して、回復魔法でも手に負えない程の傷を負わされていた方も、死を賜る事となったのでした。


せめて、アレフさんに名前だけは教えて頂けたのなら、無残に苗床状態で死なずに済んだのに。


「俺は神ではないのだからな・・・」


アレフさんも残念だったのか、神ならぬ身を嘆いておられ・・・


「口落とせないのなら仕方がないじゃねぇか」


・・・いつか天罰がくだりますよ、絶対に!


省の無いアレフさんはこの際ほって置いて。

ワタクシは亡くなられていた女性へ、弔いの祈りを捧げることにしました。


魔物に因って苗床にされ、無念の死を遂げられた方に。


この人達が連れて来られたのはいつだったのでしょう?

一体何日、こんな酷い目を耐えて来られたのでしょう?


ワタクシには分かり兼ねますが、どんな苦痛を受け続けた後の最期であったのか。

死を迎える瞬間まで、助けが来ると願われた事でしょう。


「願わくば、魂が安息の地に辿り着かれますよう・・・」


聖龍神の慈悲に縋って、祈りを終えました。


ワタクシ達が此処に来た時に居た魔物の赤子達は、次々に解放されていく女性達にも興味を惹かれないようで、逃げ去るのに必死だったのです。

ワタクシが祈りを捧げ終えれた時には、コロニーの中には一匹たりとも存在してはいませんでした。


「歩ける方は、歩けない方を助けてあげてください」


生き残っていた全員で、脱出するのです。

数えてみたら8名。そして亡くなられた方は4名。

他にも遺骨があるかもしれないのですが、悠長に構えてはいられないようでした。


「いいか、魔物の残党が居るかも知れないんだ。

 生きて帰りたければ後ろなんて振り返らず、前だけ観て進め」


アレフさんが断言したからです。


生存者を一纏めに集め、脱落者が出ないように務めて。

ワタクシ達はアレフさんの後を歩いて行きました。

でも、やはり苗床にされていた8名の足取りは重く、そしてどんどん・・・


「あ?!」


ワタクシが振り返った時には、8名の内6名しか見当たらなくなっていたのです。


「いつの間に?脱落してしまわれたの?!」


慌てて後方を振り返ったのですけど、通路は暗くて見渡せない状況なのです。


「レーシュ、諦めろ」


肩を貸していたケートさんに言われるまで、ワタクシは探しに行こうか迷っていたのです。

もしも魔物が残っているのなら、独りで探しに行くなんて無謀というよりは、自殺行為なのです。


「もしも生き残りの魔物に捕らえられてしまったのなら。

 今度という今度は、孕まされるだけじゃぁ済まなくなってるんだぞ」


ケートさんが教えてくれたのは、魔物の習性でもあったのです。

仲間を殺された恨みを、捕まえたモノへと叩き込む。


それこそが悪魔の僕として生み出された魔物だと。


「一息に殺される方がマシなんだろうな・・・」


自分が受けてしまった辱めの何倍もの苦痛を思ったのか、ケートさんが震えたのです。

肩を通してでも分かるくらい、脅えているのです。


「行きましょうケートさん」


ここはケートさんやアレフさんの言う通り。

振り返らずに前へと進むしかないのですから。


残念でしたが、二人を探しに行くのは思い留まざるを得なくなりました。



アレフさんはどんどん先を行ってしまいます。

手に持っている松明が、立ち止まりもしないで動いていたから分かるのです。

あの灯りが観えなくなっては大変だと、みんなを激励しながら追いかけます。


どうやら魔物の生き残りは、アレフさんを警戒して灯りの届く範囲では襲っては来ないみたい。

一番遅れていた二人が襲われてしまったのが、それを裏付けている気がします。



目の前にゴブリンの死骸が転がっているのが判りました。

そしてよく見れば落とし穴もあったのです。


ここはアインさんに初めて逢った場所だと分かりました。


「みなさん、後少しだと思いますから。頑張りましょう」


ここは入り口から、そう離れた場所ではないと思い出したのです。


そして何度目かの激励を言った時でした。


松明の灯りとは違う光が見えたのです。


「出口だ!」


ワタクシの前を歩いていた女性が、狂喜の声を張り上げたかと思えば。


「出口よ出口!」


手を貸していた人をほっぽり出して駆けだしたのです。

投げ出された女性は、その場で倒れ込んでしまいます。


「あ?!待ってください、手を貸してあげて」


自分さえが助かれば良いとでも思ったのでしょうか。

それとも陽の光に、我を忘れてしまったのでしょうか?


走り出した女性を、アレフさんは停めもせずに見送ります。

停めたって無駄だと思われたのでしょう。

それともこんな場面に何度も遭遇したとでも言うのでしょうか。


「いや、彼の執ったのは正論だ」


「え?どうして。なぜ追いかけて連れ戻さないのですか?」


冒険者として、また賞金稼ぎとなって久しいケートさんから聴かされたのは。


「分からないのか?

 ここにはまだ魔物が残っているんだぞ。

 それならば、表に出ていた奴等がいても不思議ではないし。

 戻って来た魔物と鉢合わせしてもおかしくは無いんだ」


騒ぎ立てながら表へ飛び出したら、待ち構えている魔物に狙われてしまう。

これだけの地下迷宮だったのだから、外に出ていた奴等が居たって不自然ではないと言われたのです。


おまけに、


「一人が飛び出して行けば、奴等は警戒してしまうだろう。

 まぁ、もし戻って来る奴等が居ればの話だけどな」


奴等なんて言われるんですよ。

複数の魔物が戻って来るのなら、ワタクシ達はどうなるのでしょう?



日の光を強く感じました。

今の今迄緊張していたからなのでしょうか、丸一日経っていたのを悟らされたのです。


昨日の昼下がりに突入し、あれやこれやで一日が過ぎていたというのに。


「眠さなんて感じていなかったなぁ」


疲れはあるものの、眠さは感じていなかったのです。

それだけ緊張の連続だったということでしょう。

(主の広間で気絶していたのは内緒ですよ)


ワタクシも飛び出して行った人を悪くは言えないのかもしれないですね。

日の光を、こんなにも愛おしく感じてしまうのですから。


「飛び出して行った人はどうされたのだろう。

 あんなに燥いでいたのに、声が聞こえなくなった」


先に歩いていた人が言ったのです。

声が聞こえなくなったのだと。


それが悪夢の再来。

ケートさんが危惧していた最悪のシナリオだったのです。




「どうしたのですアレフ様?」



松明を消して、外を伺っているアレフさん。


「運が悪かったなあの子も」


帽子を深く被り直し、ワタクシに指で教えて来たのです。

外に出た女性がどうなったのかを・・・


「ひぃッ?!」


そこには。

飛び出した瞬間、悲劇に見舞われた女性の姿が転がっていたのです。

頭部を一撃で潰されて魂切れている、無残な姿が。


「まさか、オークが外に居たなんてなぁ」


全身を毛に覆われた野獣、オークが女性を殺したらしいのです。


「ど、どうされますか?」


まともに闘って勝てる相手ではないみたいなのです。


「今は動かない方が良い。もう少し様子を観るぞ」


でも、待っていて良い話が来るとは思えないのですが。


「もっと仲間が帰って来たらどうするのです?」


ワタクシの心配は其方です。

一匹でも大変な相手なのに、他の魔物達が帰って来たらと思うと心配で堪りません。


「いや、他に居るのなら全て寄り集めた方が得だぜ」


「そんな事を言っていても大丈夫なのですかッ?」


アレフさんの異能は確かに凄いの一言でしたけど、相手が魔物となると分からないのです。


「まぁ、任せておけって」



洞窟の内部にも残党が居て、外にはオーク。

この状況を観ても慌てないのは流石ですが。




「なぁレーシュ。

 あんたの御主人さんはどんな手品を見せてくれるんだい?」


ケートさんはアレフさんの異能を観ていなかったんでしたっけ。


「召喚術師なんですよ、ああ見えても」


「召喚術師?ああ、サモナーのことね」


横文字に疎いワタクシも、その程度の名称は知っています。


「しかも、ワタクシとぶつかる前までは黒の召喚術師だって名乗ってましたから」


そうなんですよね。

地下迷宮の主であった蛇女と対戦した勝ったんだと思われます。

その時まではアインって名乗られていましたけど。


「黒の召喚術師だってぇ?!まさか、魔王を宿すと言われた奴なのか?」


ケートさんが恐怖に顔を引き攣らせて教えてくれたのですが。


「ほぇ?魔王を宿した?

 いいえ、彼は魔王なんかでは無かったですけど?」


アインさんはちょっと偏屈でしたが、ワタクシを助けてくだされたのです。

悪魔王が人を助けたりするものですか。


「待て、私が言ったのは魔王を宿した奴って話だ。

 黒の召喚術師は血も涙もないと言われているんだぞ」


「だったら、人違いですね。

 だってケートさんも助けて頂いたじゃぁないですか」


血も涙もないって、どう言った出来事から言われたのでしょう?

黒の召喚術師とは名乗られましたが、魔王を宿しているなんて聞いてませんよ。


アレフさんと自分で名乗る前の話でしたけど、彼はとても悪魔だなんて思えませんでしたから。


ケートさんと喋っていたら、そこへアレフさんが。


「おい、魔法シスターのメレク。もうそろそろ潮時だぞ」


脱出に向けて準備をしろって。


「オークはどうする気なのです?」


「いいや、オークだけでは無くなったぞ」


え?!

ということは、アレフさんの想像した通り?


「奴等、どこかの村にでも盗みに入ってやがった様だぜ?

 俺達にはちょうど良いモノを持ち帰ってくれたんだ」


岩の影から観ると、小鬼ゴブリン達を従えたオークが衣服を大量に持っていたのです。


「どうやら新しく生まれる魔物に着させようとしていたみたいだな」


ケートさん達を横目で見たアレフさんが教えてくれました。


「それも、今となってはこちらの願い通りになったんだがな」


もう、新しく生まれる魔物はいないのだと。


「あれを!奪い取るぞ」


そう言ったかと思えば、アレフさんが帽子を脱ぎ去ります。


「魔法シスターは女の子達を一塊に集めておけ!」


「一体何をなされるのですか?」


ワタクシはアレフさんが何を考えているのかなんて分かりようがないのです。


「秘密!」


なのに、秘密だなんて?!



アレフさんは洞窟から飛び出すなり召喚術を放つらしいのです。

一体どんな?


「Ⅶ番!奴等を轢き殺せ!」


Ⅶ番?それってタロットでは確か?


「戦車よ!魔物を一匹残らず轢いてしまえ!」


そうでした!戦車と呼ばれる戦神の異能?!


帽子から物凄い地鳴りを伴って現れ出たのは、怖ろしい面構えの戦車いくさくるま

獅子の顔を前面に描いてある、鋼鉄の四角い車だったのです。





 ギャギャギャっ!




その重量物が地面を引っ掻き、前に居る者を圧し潰すのです。





 ギャリギャリギャリ!




オークもゴブリン達も、逃げることすら出来ずに圧し潰されるのです。

その光景は、魔物と云っても眼を覆うばかりの惨状を呈していきます。



「ギャ~。ギャ~ッ!」


逃げるゴブリンが車体に飲み込まれて、血しぶきを残して地面にめり込んでしまいます。


惨劇は僅かに1分とは係らなかったでしょう。


「よしッ!戻れっ」


戦車のカードを帽子から引き抜き、アレフさんが歩き出します。


「よし魔法シスター、みんなを連れて来るんだ」


で、ワタクシに命じるのです。


「運が良いぞ、殆どの服が女性用だ」


血に塗れてはいるみたいですが、何とか着れるようです。


「そうですか、それじゃぁ森を抜けても歩いて行けますよね?」


裸で村まで帰らされるのは酷だと思っていましたので。

女性達は恥ずかしい目に晒されなくて済むみたいです。


それは彼女達にとって何よりの僥倖だと言えたのは・・・


皆さんを連れ出した時、陽の光で女性達の姿を観たのです。



「あ・・・ああ」


思わず声が出てしまったのです。

痛々しい姿に、女性としてこれから生きていけるのかが心配になるくらいに。


こんな姿に成っても。

生きて帰れるのなら、幸せだとも言えました。


もし、高い能力者に治療を受けられるのなら、傷付けられた肉体は元通りにまで快復できるのですから。


でも、ワタクシだったのなら?

生きていられたかは分かりません。






「おい魔法シスター。何を拗ねているんだよ?」


酷い勇者様もいたモノです。


「街が見えて来たのに、ずっと怒りっぱなしじゃねぇか?」


「当たり前ですッ!」


そうです。

ワタクシはあまりの理不尽さに怒っているのです。


「なんだぁ~?洞窟の入り口を閉じたのがそんなに気に入らねぇのかよ?」


アレフさんが質したのですけど。


「あれのどこが塞いだだけなのですか?

 もしかしたら他にも生存者が居られたかもしれなかったのに?!」


「ふむ?落盤したのは俺の所為じゃねぇぜ?」


モノは云いようですね?

あんな異能を洞窟に叩き込むからでしょう?


ⅩⅥ番の異能。

塔を描いたタロットは神罰を下したようですが。


「まさかなぁ、山の上から押し潰すなんて・・・あはははッ!」


「あはははッ!じゃぁありませんッ!」


ワタクシが神罰を下したくなるじゃありませんか、アレフさんへ。

アレフさんは追手が来ないようにするんだと言って、洞窟を潰しちゃったのです。

勿論、その中には遺体や魔物の残党が居る筈なのですが。


「良いじゃねぇか。これでこの街も村も、一安心だろうぜぇ」


「まぁ。確かにそうなんですけど」


いいえ、良くはありません。

聖龍神に仕えるワタクシは、無益な殺生を赦しませんので。



助け出した村娘と思われていた女性の多くが街出身者で、こうして送り届けに来た次第なのです。


「ケートさんは病院に連れて行けたし。

 後は街長まちおささんに報告すれば良いのよね」


ワタクシとアレフさんは事の次第を報告してから旅立つ事にしたのでした。


「ねぇ、アレフ様。

 この後は何処へ向かわれる予定なのですか?」


旅の道連れにさせて貰うのも、目的地次第でしたので。


「ワタクシは最果ての地にまで行く予定なのですけど。

 アレフ様はどちら迄?」


もう直ぐ道も行き止まり。

つまりは街長の居る役場なのでした。


「ねぇ、アレフ様ってば?」


返事が返って来ないので催促してみました。


「ねぇ?なぜ答えてくれないの・・・」


振り返ってアレフさんが立っていないのを見てしまいました。


「え?!」


そうなのです。

アレフさんはいるには居たのですが、立ってはいなかったのです。


挿絵(By みてみん)


「え?!ちょ、ちょっとぉッ?!」


数人の男の方に取り巻かれて、倒れ込んでいるのでした。

ダンジョンから脱出できたレーシュの前に現れるのは?


一体何が街で待っていたのでしょうか?

折角救った人達の上にも、闇が消えてはいなかったのでしょうか?


次回は、人が人ではなくなったと言う経緯と。

レーシュの秘密が少しだけ・・・観れるかな?


次回 Pass9善か悪か<<力>>

人が悪魔に魂を売る。その時アレフは彼を取り戻していた?!




http://sbnb.livedoor.blog/

只今「さば・ノーブのblog」にて、一話分程先行公開しておりますよ。

良かったら覗きに来て下さいねぇ~

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