Pass7 穢されて<<恋人>>
魔物のコロニー・・・
人を貶め孕ます魔物から助け出す事が出来るのか?
アレフに任していいの?
魔物達のコロニー・・・
洞窟の岩が剥き出しになった部屋の中で、女の人達が繭の様な物に取り巻かれて吊るされているのです。
吐き気を催す程の悪臭。
眼を背けたくなる光景。
人族の女性を苗床とする魔物が仲間を増やす為に造った場所で、ワタクシは観てしまったのです。
ワタクシを憎んでいる瞳を・・・
「ケート・・・さん?」
彼女は半身を繭に閉じ込められて喘いでいるのです。
「はーッはぁーッ・・・う・・・ううっ・・・く」
苦しそうな息の中、苦悶の声が零れ出ているのです。
側壁から垂れ下がった繭に、身体の大部分を絡め獲られているのです。
その繭と思しきモノがなんなのか、ワタクシにだって想像がつきました。
それが苗床なんだって・・・
うう~おお~ああ~~
誰の呻きなのか。誰が苦悶の声を出しているのかなんて分かりません。
コロニーに女性の声が漏れる度に、何かが産まれ出てくるような錯覚に捕らわれてしまうのです。
これが・・・魔物の苗床って場所なのでしょう。
「ケートさん?ワタクシです、レーシュですッ!」
澱み切った瞳に訴えかけると、血に塗れた様な瞳を向けてくれたのでしたが。
「助けに来たのですよ?ここから出て治療しましょう」
助けには来ました。
でも、こんな惨状だったなんて思いもしませんでしたけど。
僅か数時間前には、ワタクシを置き去りにして魔物達と闘っておられた筈なのに。
目の前の繭に絡め捕られているケートさんは別人のようです。
利発そうな顔立ちだったのに、一体何があったのか?
快楽に墜ちた堕婦の様に嗤いを浮かべ続けては悶えるのです。
「ケートさん?」
助けに来ましたと伝えても、反応は返って来ないばかりか。
「ひ・・・う?ううんッ?!」
繭の中で何をされているのでしょう?
包み込まれた躰に、何が起きているというのでしょう?
苦悶の呻きと快楽の喘ぎを繰り返すばかりで、人とは思えない程の有り様なのです。
「ケ、ケートさん!しっかりしてください!」
呆けた顔を向けて、澱み切った瞳でワタクシを睨むケートさんに掴みかかってしまいました。
露出していた肩を掴んで揺さぶると、少しだけ我に返ったのかワタクシを観ると。
「うああ?!おまえ、お前はッ?
どうして生きていられるんだよ?
なぜ此処に居るんだよ!なぜ犯されずに済んでいる?
なぜ・・・孕んでいないんだぁ!」
信じられない阿鼻雑言と怨嗟をワタクシにぶつけたのです。
「どうして・・・私がこんな目に遭わされなきゃならなかったんだよ?」
そして・・・ケートさんは自らの不幸を嘆くのでした。
絡め捕られている下腹部へと視線を落として。
「もう大丈夫ですから。ここから出ましょうケートさん」
ワタクシにだって言いたい事はあったのですけど、彼女を観ていると言うのが馬鹿げているんだと思えました。
それにワタクシは聖龍神のシスターなのですから、今更過去の間違いをとやかく言うのが憚れるのです。
「そうですよねアレフ様」
周りの状態を確認していた黒の召喚術師だったアレフさんに質してみますと。
「そうだぜぇ、俺様が呪縛を解き放ってやるからなぁ」
厭らしい顔を向けて来られるのは何ですけど、このアレフさんは特殊な方法で救ってくださると仰られたのです。
「俺に名を教えろ!そうすればタロットで助け出して見せるぜ」
そうなのです。
アレフさんもタロットを使うんです・・・って。
今初めて聞かされましたけど?
「こいつで・・・人間に戻してやるぜ」
腰のホルスターから引き出されたカードに描かれてあるのは?
「Ⅵ番。
恋人を意味するカードだが、信頼を顕すって意味もあるんだよな」
「信頼ですか・・・」
アレフさんから聴くと、なんだか胡散臭く思えちゃうんです。
「なんだ?カードの意味が不満なのかよ?」
「い、いいえぇ~。そんなつもりでは」
ワタクシが手を振って誤魔化したら、アレフさんが帽子の中に放り込んだのです恋人のカードを。
「観てろよ下僕シスター!
これがアレフ様が勇者と呼ばれる秘術なんだぜぇ!」
帽子の縁に描かれた魔法陣にステッキを擦り付け、
「出でよ俺!汝の力で女子達と良い関係になろうぜぇ!」
訳の分からない呪文を解き放ったのです。
どんっ!
・・・と。
現れ出て来たのは?
「うひゃぁッ?!」
確かにアレフさん・・・達。
「ぴやあぁッ?」
でも、帽子から飛び出て来るなんて非常識?!
「ニャはぁッ?」
でもって。現れたアレフさんモドキは色とりどりだったんですけど?
「うははははははッ!そ~れそれ!
どんどん女の子達を口落とせ!」
・・・何を言うんですか、この変態。
現れ出て来たアレフさん・・・のような魔法の化身。
幾重にも折り重なる色が帽子から抜け出すと、各々が目当ての繭に飛び縋り・・・
「ほらぁ?お名前はぁ?俺にだけこそっと教えろよ?」
半分意識を喪い掛けている子達に・・・迫っているのですけど?!
「ニャ?ニャにをやってるんですかッ!」
ワタクシにはとても普通の術には思えませんし、非常識且つ罪深い行いだと思えたのです。
「ムフ・・・ムフフ・・・ムフフフフ」
ワタクシが吠えても、アレフさんには聞こえていないみたい。
と、言いますか。
トラップしちゃってませんか?
厭らしい笑い声を呟くアレフさんをジト目で観ちゃいます。
ああああ~~~
突然向こう側で女の人が歓喜の声を張り上げたのが聞こえてきました。
「ひゃっ?」
シスターだったワタクシには、女性が感情を高ぶらせた声ってのを聴いた例がなかったので。
驚くというよりは、なんだか恥ずかしく思えたのです。
「あ、あ、ア、アレフ様ぁ?これはいつまで続くのでしょうか?」
恥ずかしさと驚きで、ワタクシの心臓は暴発しそうになってしまいました。
いっそのこと、アレフさんに任せてこの場から逃げ出してしまいたくもなります。
「まぁ~だまだ!」
「・・・・分かりましたよ」
聞くだけ馬鹿でした。
確かにまだ、数名しか助けられていないみたいですので。
居場所が無いとはこういうのを言うんでしょうか。
男女の交際に疎いワタクシには、刺激が強過ぎるように思えます。
「はぁ・・・外で待てば良かったのかな?」
溜息を溢してしまった時、ワタクシの目の前をカードのアレフさんが横切ったのです。
カードのアレフさんって言うよりは緑のアレフさんって言えば良いでしょうか。
身体全体が緑色のアレフさんが、口落としにかかったのは。
「あ!その人はケートさんです。ケートって呼んであげてください」
知ってる人を口落とされるのは観ておられませんし、意味がないと思えましたので。
「ケート・・・君の名は・・・ケートで良いんだね」
緑のアレフさんが、女たらしの声で囁くと。
「はい・・・」
なぜだか顔を赤らめるケートさん?
なぜぇ?
「今から君は・・・ボクのモノになるんだよいいね」
おええぇ~~~キザにも程がありますよぉ?!
ワタクシにはキザ過ぎると思えたのですけど、ケートさんには誘惑の天使にでも思えてるのか。
「はい・・・・ポ」
真っ赤に顔を染めて認めるんですよ?
そして・・・緑のアレフさんが?!
「わぁッ?!」
観てはいけないモノを観てしまいました・・・
ケートさんにぃいいいいいいいいいいいぃッ?
ケートさんのぉおおおおおぉ?!
唇を奪っちゃった・・・・のです。
「さぁ!これで君は今よりボクのモノと成れるんだよ」
「あああああ~~~~!!」
歓喜の声を張り上げるケートさん。
と・・・?
包み込まれていた繭からずるりと身体が抜け出たのです。
も、勿論ッ!ケートさんの、です!
「ケートさん?!」
やっとワタクシも正気に戻りました。
倒れ込んだケートさんの身体を抱き起し、気を付かせようと呼んでみたのです。
その時、ワタクシはケートさんに不思議なものが付けられているのに気が付いたのです。
彼女の下腹部。
お臍の下あたりに・・・
「何なのこれは?」
紋章のようですけど、禍々しく思えます。
「これが・・・魔物の子を孕まされた証。
私はアイツの・・・ワーウルフの子を宿らされてしまったのよ。
これは悪魔の眷属が宿った証なの」
気が付いたケートさんが教えてくれたのです。
そして赤黒い紋章が薄れていくのにも気が付きました。
「さっきね。
神様の天使が私の罪を祓ってくだされたのよ・・・だから。
だからもう、孕まされてはいないことになったの」
そう教えてくれている間に、ケートさんの下腹部から紋章が完全に消えてしまいました。
紋章が消えた・・・ならば?
ケートさんの心の傷は?
「でも、この躰に受けてしまった穢れだけは元に戻せないのよ」
それを望む事は出来ないのでしょうか?
彼女達を完全に元へとは戻し切れないのでしょうか?
どんどん解放されていく女の人達を見て、ワタクシは神様に問いかけたのです。
「どうか、彼女達に御稜威を。
願わくば、穢れを赦したまえ」
欲望に溺れる魔物達。
穢された女性達。
そのどちらにも、神の御加護が訪れますように・・・って。
魔物の呪縛から解いたアレフ。
やっぱり本当の勇者なのでしょうか?
助け出される娘達。
だけどまだダンジョンからの脱出は一筋縄ではいかなそうで。
次回 Pass8 強引な勇者様<<戦車>>
付き従うレーシュ等生存者は、ここが魔物の住処であるのを再認識させられるのです・・・