Pass6 救い<<教皇>>
角がぶつかって気絶していたアインさんは、
目覚めた後にはアレフを名乗るヘンテコ勇者様になっていたんです。
しかも、自分の異能で囚われの女性を救うのだと言うんですけど?
黒の召喚師さんとは、まるで違うんです。
アインを名乗っていた召喚術師さんとは真反対のアレフさん。
どこか怖い感じだったアインさんに比べると、アレフさんは脳天気にも見えるんです。
「さぁ!俺様を待っている子達に会いに行こうではないか」
コロニーへと向かうアレフさんが、囚われの女性達を解放してくださるのでしょうか?
呑気に見えるアレフさんを疑う訳ではありませんが、なんだか心配になってしまうのです。
だって・・・黒の召喚術師だったアインさんとはかけ離れ過ぎてるから。
「気になるのはもう一つ。
アインさんだった時には右目は金色だったのに、今は両目とも蒼いから」
そうなのです。
ワタクシとぶつかって気絶する前までは、オッドアイでしたのに。
軽薄そうな感じになってしまったアインさん・・・モトイ今はアレフさんでしたね。
その彼の両目が、どうした訳か両方とも蒼い瞳に変えられていたのですよ。
「何故なのかは分からないけど、ワタクシとぶつかったからじゃぁないよね?」
まさかとは思うのですけど、角が額に食い込んじゃったのが原因なのでしょうか?
「そんなことで眼の色が変わる訳がない・・・筈だもん」
ワタクシの角には不思議な力が籠められているのだと、スクエア神父様が仰いました。
でも、ぶつかっただけで他人の眼の色を変えれる訳がないと思いました。
いくらなんでもおかしいでしょ?ヘンテコになっただけならいざ知らず。
「魔法僧侶、置き去りにされたいのか?」
考え事をしていたワタクシを、アレフさんが呼びました。
ハッと我に返ったワタクシは、慌てて後を追いかけます。
「ま、待ってくださいアイン・・・いいえ、アレフさん」
こんな墓場で置き去りにされるのはまっぴらですから。
すると答えたワタクシに、アレフさんが向き直って。
「アレフさんではない。アレフ様って呼べ」
「はぃい?」
いきなり様扱いしろと?
「当たり前だろう?俺様は勇者なのだからな」
「勇者・・・様なのですか?」
どう見たって勇者になんて見えないのですけど?
「そうだ!俺様は魔戒の異能を持つ勇者様なんだぞ」
・・・魔戒ですか?
「あのぉ~?それってどんな力なのでしょうか?」
目が覚めた時からずっと伺ってましたけど、魔物に毒された女性を解放出来るとか仰られてましたが。どうやるのかを教えて頂きませんでした。
「そう、そこだ。
俺様を監視するとかほざいたお前も眼にする事になるぞ。
俺が堕ちた娘達とムフフな関係になって人に戻す処をな!」
厭らしい嗤いを浮かべるアレフさん・・・様。
でも、想像する事さえ出来ないシスターのワタクシ。
「そのぉ~?ムフフとはいかなる召喚術なのでしょうか?」
男女の営みなら、なんとなくですが分かりますけど。
ムフフとはいかなる行為なのでしょう?
「お前・・・マジメに訊いてるのかよ?」
「はい。大まじめですけど?」
知らないから訊いてるんじゃありませんか。
ワタクシが精一杯のアピールで教えて欲しいと頼んでも、アレフさんは呆れたように肩を竦めるだけでした。
「なんですか?!なぜ笑うのです?」
失礼じゃないですか。知らないから訊いたのに、笑う事はないじゃないですか?
少し怒り気味に質してみました。
すると・・・
「お前、本当に魔法僧侶になりたての新米なんだな。
魔戒の旅をしていたら、野党や盗賊にだって鉢合わせただろうに」
ずけずけと悪口を言われてしまいました。
しかも、未熟者だって言い切られたようなものです。
まぁ・・・確かにそうなんですけど。
「先程から魔法僧侶って呼ばれてますけど。
ワタクシは聖龍神のシスターで回復魔法位しか授かっていません」
シスターとしても、冒険者としてだって駆け出しには変わりがありませんが。
魔力を主軸に魔物達と闘える、魔法使いの僧侶ではないのです。
「どこが違う?
しっかり魔法を使えれるじゃぁないか」
「で、ですからッ!シスターですって言ってるじゃないですか」
勇者アレフさんには魔法僧侶も、御使いのシスターも同じ事なのでしょう。
「ふむ。ではこう呼ぶ事にしよう、お前は魔法シスターだ」
「あううう~。変わらないじゃないですか」
確かにワタクシは回復魔法を使う事が出来ますが、他の魔法なんて授かっていません。
他に授かった物と云えば、御教えが載っている経典ですか。
尊い教えを授かって人々に広められるくらいなものです。
「普通にシスターって呼んで貰えないのですか?」
「そんなのどこにでも居る奴等と同じだろうが。
勇者に従うのは、それなりの奴に限られているんだぜ?」
だからって・・・呼びかた位なんとでもなるでしょうに?
ワタクシがジト目でアレフさんに文句を言おうとしていたら、逆にアレフさんが訊いて来ました。
「そう言やぁ、お前の名を聞きそびれていたぜ魔法シスター」
「え?!言ってませんでしたっけ?レーシュ・・・レーシュ・アドナイって・・・」
咄嗟に訊かれたワタクシは、シスター名を名乗ったのでしたが。
「レーシュ?それがお前の名なのかよ?」
鵜呑みにならないアレフさんに、驚きました。
「え?法名って解かるのですか?」
で・・・うっかり訊き返しちゃいました。
「そうか法名なのか。じゃぁ本当の名は?」
どうしてそんな処まで訊くのでしょう。
なぜ、ワタクシの名を知りたがっているのですか?
ワタクシが言い難そうに口を噤んでいましたら、アレフさんが言ったのです。
「仮の名では闇落ちした時に救えないからな。
与えられた本当の名でしか、邪悪に染まった魂を穢れから救えないんだ」
え?!
「俺様であろうと、仮の名前を呼んでやっても魔物の支配からは救ってやれないんだぜ?」
ええっ?!それって言うのが?
「名前さえ知れれば、俺の呼びかけで魔物に蹂躙された魂でも人へ戻せれるんだ」
「そうだったのですね!凄いじゃないですか」
初めっからそう言ってくだされば良いのに。
ムフフって言うから、てっきり厭らしい事だとばかり・・・
「まぁなんだ。
相手が教えてくれなきゃ何にもならないんだけどな。
教えてくれなきゃ抱いて喋らせるまでの話だけどさ」
ニヤリと哂うアレフさんが、またもや良からぬ目をされているのです。
「やっぱり・・・厭らしい事をするんですね?」
そうは言ってみたモノの。
アレフさんの異能が素晴らしいのには間違いなさそうなのです。
「ふぅ。
しょうの無い人ですね・・・ワタクシの名はメレクといいます。
エルフの杜で名付けて頂いたのは、メレク・アドナイ。
東方の神話に出てくる神の名を頂いたのです」
そうなのです。
ワタクシはエルフの家族を頂いたのです。
本当の家族ではなかったけれど、お父様には特に大切に育てて頂いたのを思い起こします。
幼き折、ワタクシは杜の中で育まれて来た・・・
・・・・懐かしいです。
「メレク・・・なかなか良い名ではないか。
俺様の下僕には高貴過ぎるがな」
ワタクシの感慨など余所に、アレフさんが下僕って言うんですよ。
・・・誰があなたの下僕なんですか?!
「あのッ!ワタクシはあなたの下僕になんて為りませんから」
「おや?俺と行動を伴にするとか言わなかったか?」
言いましたよ、言いました!
でも、監視するって意味で言ったのです。
ワタクシが言い返そうとしましたら、アレフさんが付け加えたのです。
「勇者様と魔法シスターが行動を共にするってことは。
当然シスターが勇者に仕えるのがセオリーだろうが」
「ええッ?!決まり事だったのですか?!」
ワタクシはとんでもないことを言ってしまっていたのでしょうか?
「当たり前だ。
これからはお前が俺様の治療を受け持たねばならないからな。
勿論、俺様に楯突くなんて許されないんだと心しておけよ」
「悲ッ?!そんな酷い!
それじゃぁワタクシはあなたの下僕に墜ちたも同じでしょうが?」
どうしてアレフさんがワタクシに嗤っていたのかが、この時になって判ったのです。
「は、初めからこうなるように仕向けていたのですか?」
「いや、お前が勝手に言ったんだろうが。
監視下に置くとか言って、行動を共にするんだと宣言したではないか?
勇者様である俺と行動を共にすると言った時点で、お前の躰は俺のモノになったんだぞ」
がびぃ~~~~ン
口は禍の元だってスクエア神父様が仰られてました。
何度かワタクシは失敗した経験がありまして、神父様にお小言を頂いた過去があるんです。
それが・・・こんな羽目になるきっかけを生んでしまうなんて。
「と、取り消します!
一緒になんて行きませんから」
慌てるワタクシを眺め降ろすアレフさん。
「そうか?ならばここからは独りで脱出すると良い」
「え?!独りで?」
墓場のような広場から出た所に居る状態なのです。
どこをどう通って来たかも分からないのに。
まだ魔物達が居るかも知れないのに?
「無理ですぅ~」
あっさりと前言を撤回しなくてはならなくなってしまいました。
「地下から出るまでは一緒に連れてってください~」
我ながら情けないの一言です。
自分に甲斐性があったのなら、アレフさんの言いなりになんてならずに済んだものを。
「決まりだな魔法シスターのメレク。
今よりお前はアレフ様の下僕になったのだ」
「あああああ~ッ?!損な」
もはや泣くしかなさそう・・・でも。
でも、ここから出れさえすれば!
「きっとアレフさんから逃げて・・・」
そう考えたのでしたが、スクエア神父様のお言葉が脳裏を掠めたのでした。
「「お前の秘密を知られれば、災いが齎されるのだ」」・・・って言葉を。
「シクシク・・・ワタクシってなんて不幸なのでしょう?」
嘆くワタクシを嘲笑うかのようなアレフさんが、踵を返して歩き出しました。
「さぁ、魔物の住処にご案内だ」
楽し気なアレフさん・・・いいえ、アレフ様。
「ホントーに助け出せるのでしょうね?」
嫌味を溢すワタクシ。
目差したのは魔物のコロニー。
魔物達が自らの仲間を増やす場所。
忌み嫌われる場所では何が待っているのでしょう?
オオオオ~~~ン
生臭いなんて容易い臭いじゃありません。
頭の芯がぼうっとなりそうなくらい、血と雄汁の臭さがまじりあった匂い。
ここが魔物の繁殖場所だって解かるのに数分を費やしてしまいました。
オギャ~ギャ~スヒャ~ス・・・
産まれ出て来た魔物の赤子が啼き、
グフグフグフグフ・・・
産み出された小鬼がはいずり回っていました。
「魔物が・・・産まれてくる」
ワタクシには想像も出来なかった場所に居るのです。
悍ましいなんて生易しいものではありません。
何匹かの魔物の赤子の中には、獣の子も見受けられたのです。
「犬?・・・まさか・・・悪魔の眷属?」
そう、ワーウルフの子が這っているのです、子犬のような姿のままで。
気絶してしまいそうな吐き気が襲いかかり、ワタクシまでも孕まされてしまった気分に堕ちるのでした。
思わず口を押えて眼を逸らしてしまいますと。
「ほほぅ?数人だが助かる見込みがあるみたいだな」
傍らに居たアレフ様の声が聞こえたのでした。
「あそこに居る子は、お前を観ているぞ?」
指差したアレフ様に促されたワタクシが<それ>を観てしまったのです。
「どうやら、孕まされたばかりの様だな」
アレフ様から示された人とは?
「あ・・・あ・・・あ?!ケートさん?!」
ワタクシの仲間であった魔法使いのケートさんではありませんか?!
魔物のコロニーに連れ込まれてしまっていたケートさんが、ワタクシを観ているのです。
紅く血に塗れたように澱んでしまった目で。
彼女に何があったのかは想像に難くないのですが。
「ふむ・・・どうやら彼女はワーウルフに孕まされてしまったようだな」
「え?!あの大きなワーウルフに?」
アインさんがタロットで倒したワーウルフを思い出し、ワタクシは改めて恐怖に怯えたのです。
ケートさんは恨めしそうな貌でワタクシを睨んでいます。
それはそうでしょう。
本来ならば、ワタクシがそこに居る筈なのですから。
ワタクシを魔物の出汁にする筈だったのに。
「なぜ・・・ケートさんが?」
そう溢したワタクシに、アレフさんが言いました。
「助けてやろうではないか。
あれ程憎んでいるのなら、助けてやらないと浮かばれまい」
「え?まさか・・・アレフ様?」
思わず聞き返してから、ワタクシはアレフさんが何を考えているのかを悟ってしまったのです。
そう。
ケートさんは悪魔に魂を売ってしまっているのだと・・・
囚われの村娘達は?
ケートさんはどうなってしまってるのでしょう?
ここが魔物達のコロニー?
これが魔物達の苗床?
そして・・・そのタロットが?
助け出す決め手なのですか?
次回 Pass7 穢されて<<恋人>>
目の前で繰り広げられているのは?もしや夜宴って奴でしょうか?!ありえな~い