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Pass12約束と願い<正義>Act11

カルクルムへ帰還する一同。


そんな中、レーシュはアレフを想う?

新興宗教の教祖を撲滅した御主人様を先頭に、ワタクシ達は街へ帰る事にしたのです。

仲間に加わったマミさんとマァオ君と共に・・・です。


「くしょん!」


常春の国アシュランと言えども、此処は中央山脈の近くですので肌寒いのですよ。

だって、今のワタクシの姿ときたら。


「服を返そうか。寒いんだろレーシュ?」


マミさんへ魔法衣を差し上げたものですから。


「い、良いんです。これ位の寒さなら耐えられますので」


肌着姿に近い格好だったのです。

肩とお腹が丸出しのカットソーと、ホットパンツを穿いてるだけなのですよ。


「もう直ぐ街ですから、辛抱できますよ」


マミさんが心配気に顔色を窺ってくださいますけど、マミさんこそ脱いだら大変なことに為り兼ねませんからね。

枯骸モドキのマミさんが一緒に居たら、街の方々が何と仰るか。

フードを外すだけでも問題ありなのに衣服を脱いで姿を晒しでもしたら、忽ち討伐されちゃいますよね。


「辛抱するほど寒いんじゃないか?」


ワタクシの答えにツッコミを入れて来るマミさん。


「あ・・・いやそのですね」


答えに窮するワタクシ。

と、そこに。


「素直に寒いから羽織れる物をくださいと言え、下僕シスター」



 バサ



御主人様の声がかけられたと思ったら、頭の上から黒い布が?


「それでも頭から被っていれば、少しは寒さも凌げる筈だ」


ワタクシに被せられたモノとは、御主人様のマントだったようです。


「え?これをワタクシに貸していただけるのですか?」


この黒いマントは、御主人様愛用の魔法の掛かった帆布だったのです。

黒の召喚術師と揶揄されるアレフ様が、好んで羽織られるマントなのです。


よだれなんかで汚すんじゃないぞ」


「な、なんで涎なんて!」


睡魔でも襲って来るのなら溢しましょうが、歩いてるのに涎なんて垂らすものですか。


「そうか?ならば街まで被って歩け」


「ホント~に良いのですか、御主人アレフ様?」


自慢の一張羅だと仰られていたのに・・・ですよ?


「くどい!下僕が風邪でもひいたら困ると考えただけだ。

 看病なんぞ、俺様はやらないからな」


あらま。そ~言うことにしておきましょうか。

本当は心優しいお方なのですから、身を案じられてくださったのですね。


「はいはい。有難く貸していただきます」


感謝の意味を込めて、頭を下げておきます。


何気ない気の配り方でワタクシを護ってくださる御主人アレフ様。

本当に元アシュラン国の王子様なのかは分かりませんけど、ぶっきらぼうなようで心優しいお方なのです。まるで他人を助けるのが当たり前のように、何気ない素振りで救いの手を挿し伸ばされるのです。

魔物退治だって、女性を救い出すのも・・・御主人様だからこそ。


「決してアインさんと同じでは無い筈。

 きっといつの日にかは御主人アレフ様だけのお身体になられるから」


ワタクシは知ってしまったのです。


「魔鏡さんから教わりましたから。

 嘗ての魔王は、いつの日にかは完全に滅びる筈だから」


そうなのです。

ワタクシは御主人アレフ様の中に魔王が宿ってしまってるのを知らされました。

アイン・ベートを名乗るもう一つの人格が現れると、魔王アスタロトが眼を覚ます事も。


古から続く、禁忌の闘い。

聖か邪か。はたまた邪悪なる者同士の闘いの果てか。


愚かな正義とはアレフ様を指す言葉。

対してアイン・ベートとは、悪魔の魔術師を指す名。


ワタクシと御主人アレフ様は、邪悪に飲まれる虞がありました。

もしも、何も気が付かずに居たのならば、きっと魔王の言いなりに成り果てたのかも知れません。

ですけど、今回のクエストによって大きく歯車が回り始めたようです。

そう・・・新たな運命の歯車が。


ワタクシは自分が何者なのかを知ろうと旅を続けます。

勿論、御主人様とご一緒に。


でも、以前とは違う事があるのです。


つい先日までのワタクシは、過去の自分を知ろうとして旅をしてきました。

ですけど、これからは未来の自分を探す旅を続けたいのです。


確かに、過去も興味があるのは今迄通りですが。

それを知った処で、今がどう変わるかが判りませんから。

旅を続けていれば、過去にも触れることがあるかもしれません。

だったら、同じ事じゃありませんか。

過去も未来も、旅を続けていれば分かるのだろうって思えるようになったのです。


義父オルティアの行方も、いつの日にかは分かるでしょう。

喩えそれが不幸な現実だったとしても。


慌てて戦地へと向かわなくったって良い筈です。

ワタクシみたいな半端者が戦場へと向かっても、何も出来たりはしないのです。

むしろ、もう少し世界を見知ってから出向いた方が良いのかもって、考えたんです。

今少し御主人アレフ様と旅を続けていたら、何かの情報が手に出来るかも知れませんからね。



ワタクシはマントを与えてくだされた御主人様を見詰めます。


アレフ様とアインさん。

二つの魂が共存している不思議な男性。

いいえ、魔王アスタロトも含めたら3人だったかしら。

3つの意識を持つひとは、ワタクシにとって特別な存在になりました。


普段は変態勇者さんの御主人アレフ様なのですが、強い衝撃を受けると魔王を宿したアインさんに成ってしまわれるのです。

悪意と欲望の塊である魔王アスタロトが支配する人間アイン

ワタクシの魔力を欲していると知らされたのは、魔鏡さんからではありません。

魔鏡を食い入るように観ていたワタクシの中に居た方から知らされたのです。

魔鏡からでは無い声に気が付いた時のこと。



「「メレクよ・・・私の声が届くだろうか」」


本名を呼ばれたワタクシは、鏡を見て戸惑いました。

そこには赤髪の女性と闇の手だけが、相変わらず映っているのですが。


「「この娘はそなた。そなたはこの娘・・・」」


声は映し出されている女性がワタクシだと言ったのですが。


「どうみても別人ですよ?・・・ってアレ?」」


その時、ワタクシは口で話していない事に気が付きました。

どうやら、声で返したのは魂自体みたい。


「「如何にも別人ではあるが、運命は同じだと知るのだ」」


「だったら、単に別人でしょう?」


意味が皆目掴めません。ワタクシに何を知らせたいのでしょう。


「「この娘は皇女おうじょ。そなたも・・・だ」」


「はいぃ?」


ワタクシが王女様?まさに意味不明です。

赤毛の姫様らしい人物とワタクシが同一視されるなんて。


「ワタクシが王女だなんて有得ないですよ。

 この女性が王女様なのかは知りませんけど」


この時になって女性のティアラの陰から角が見えているのに気が付いたのです。


「え?!ワタクシと同じ様な赤白い角が生えてる?」


まったく同じモノかは分かりませんが、一本の角が見えたのでした。


「「そうだメレクよ。

  今観ている王女は、そなたの分身でもあるのだ」」


「分身?」


分身とは如何なる意味なの?って訊いたのですけど。


「「如何なる者なのかは、まだ知らなくても良い。

  赤毛の王女はメレクと同じ宿命を背負わされているとだけ覚えておく事だ」」


「宿命?」


ワタクシにどんな宿命が背負わされているのでしょう。

この角には、どんな曰くがあるというのでしょう。

ワタクシと赤毛の王女様との関係には、接点があるというのでしょうか?


「「方や王女として存在し、もう片方は託されて放たれた。

  その事実は神のみぞが知る。

  神だけが運命の糸車を廻せるのだ」」


「神様が運命を託したとでも仰られるの?」


どんな人だって神様から運命を与えられているって話は教会で教わりましたけど。


「ワタクシと赤毛の王女様とは、運命が交差するとでも仰るのですか」


闇に囚われそうになっている王女様と、旅に出ているワタクシとの関係って?


「「その通り。

  メレクはいずれ神が託した宿命の元で邂逅するだろう」」


「王女様と・・・ですか?」


訊き返したワタクシに、声は答えてくれません。

代わりに聞こえて来たのは、


「「どちらが本当の神託の皇女みこたるや?

  メレクが選ばれるのか、赤毛の王女が覚醒するのか。

  それは神さえも図りかねているのだ」」


重々しく答えられても、ワタクシには信じることなんて出来ませんでした。

だって、ワタクシが王女様と運命の糸で繋がっているだなんて。

しかも、神様が何かを託されてもいるだなんて。


「「もはや賽は投げられているのだメレクよ。

  そなたが人の世界に放たれた時点から。

  神と悪魔の最終決戦ハルマゲドンは始まっているのだから」」


「・・・仰られる意味が分かりません。

 どうして、ワタクシみたいな者が終末戦争の起原なのです?」


ワタクシのような小娘が、そのような大それた人物でありましょうや?


「「今分からずとも、やがて知る事になろう。

  そなたが頼るべき者が、大きく世界を動かすのならば・・・な」」


ワタクシが頼る者?


「「今はまだ魔王の支配から脱してはおらぬが。

  やがては西の国を統一し、大陸ガイア自体をも手中に収めるだろう。

  その者は光と闇を手にした大いなる皇帝として君臨するだろう」」


全てを手にする強大なる王様?

それって・・・誰?ワタクシの知っている人なのでしょうか。


「「既にそなたの中で大きな存在となりつつある筈だが?」」


「えっと・・・え?まさか」


ワタクシの傍に居るのは。いいえ、ワタクシが傍に居たいと思っているのは?


「まさか、アレフ様?」


「「魔王に支配されてはいるが、彼奴きゃつは人族の王となるべき者」」


黒の召喚術師である御主人様が、王様になるのでしょうか?


「「しかして、彼奴は王たる所以をも持つ者なり。

  やがては魔王の支配から脱し、西の国を統一する者なり」」


「アインさんでは無くなるってこと?

 魔王アスタロトの支配から抜け出せるのですね?」


「「それもこれも。メレク次第」」


どうして魔王の支配から抜け出すのにワタクシ次第だと仰られるのでしょう。


「「本当の王子アレフは、勇者ブレビリーなり。

  彼奴も宿命から抜け出さんと藻掻く者なり。

  メレクと伴に居れば、いつの日にかは解放されよう」」


「それは宿命から?それとも魔王の支配から?」


「「メレク次第で結末は変わるのだ」」


ワタクシ次第で、御主人様の運命さえも変わるのですか?


ワタクシには途方もない事に思えるのですけど、声は最期にこう結んだのです。


「「間も無く魔王によって鏡は砕かれる。

  アスタロト以外の魔王の下僕に堕ちた者に因って。

  その時、我の力はそなたに受け渡される。

  この神の御遣いである神龍パイロンの力を受け入れるが良い」」


「え?!龍の神様だったのですか?」


ワタクシの信じる龍の神様?そんな偉大な方とお話していたの?

驚くワタクシに、神龍様は。


「「メレクよ。

  そなたはこれから神龍の皇女を目指すのだ。

  神と悪魔の間にある人の中で、覚醒の時まで旅を続けるのだ」」


「命じられなくったって、御主人様と旅を続けたいです」


ワタクシは龍の神様を相手に、希望を言葉にしてしまいました。


「「善き哉メレクよ。それで良い」」


声は次第に小さくなり、ワタクシの中へと消えていくのです。


「「メレクは我と共に在り。

  我はメレクとなり、人の世を見守るであろう」」


そう。

龍の神様はメレク・アドナイというワタクシに宿っておられたのです。

多くの方々の中へも宿られておられるのかも知れませんけど、特別なる存在なのだと知らされたような物でした。


「ワタクシには宿命が存在しているの?

 それがどんな物かは想像も出来ないけど、御加護は常にあるのね」


神を宿した特別な存在だとしたって、御主人様と旅を続けたい。

魔王を宿したアレフ様の傍に居られるのなら、いつの日にかは解放の手助けとなれるのかも。

そうする事で恩返しになるのなら・・・一緒に歩みたい。


「決めましたワタクシ。

 旅を続けることでアレフ様のお役に立てるのなら。

 ずっと下僕でも良いから傍に寄り添うって」


心の奥で微かに見えてきたように感じます。

御主人アレフ様と旅を続けることで役に立てるのなら、ずっと傍に居ようって決めたのです。

喩え下僕扱いされ続けても、お役に立てるように務めたいって。


「それが龍の神様の思し召し。

 きっとそうする事がワタクシの希望なのでしょうから」


変態勇者さんでしかなかった御主人様。

触れ合う事で知った温かさや優しさ。

どれもがワタクシにとって掛け買いの無いものに思えて。


「きっと・・・好きになってきているんでしょうね」


アレフ様がというより、人の温かさってモノがです。

角があるばかりに邪険にされ続けて来たワタクシが、初めて人の温もりを知った気がしたのはアレフ様のおかげ。

下僕だと呼ばれるのも慣れてきましたし、そう呼んでも下僕扱いしない御主人様の優しさに頼ってもいました。


「頼れるのはやっぱり・・・御主人様だけ」


黒の召喚術師・・・黒のタロット使い。

ちょっと変態さんですけど、良い人なのだと分かったから。


「必ず魔王の支配から脱される。

 きっと人の世を変えてくだされる・・・筈」


アレフ様が王になられるかは分かりませんけど。



声が聞こえなくなったと思った時。

ワタクシの耳に届いたのは・・・頼れる御主人様の呼ぶ声だったのです。


神によって運命を託されたメレクを、高らかに呼ぶ声が聞こえたのです。




「下僕シスター!何をボケっと歩いているんだ」


考え事をしながら歩くものではありませんね。


「前を観て歩かないと落っこちるのも当然だろうが!」


怒られてもしょうがありません。


「何度助けられれば気が済む?!」


はい・・・面目次第も在りません。


「それとも穴に落ちるのが趣味か?」


・・・とほほ


頭上から手を差し出されて、しっかりと握り締めます。

華奢にも思える御主人様だけど、その手は大きくて力強くて。


「ほら!昇って来い」


背丈ほども有る穴の中から這い上がります。

御主人様の温かい手を握り締めて。


「また・・・助けてくださいましたね」


感謝を込めて言いましたが。


「知らぬ顔で置き去りにされたかったのか?」


そっぽを向いて返されちゃいました。


「マントを返して貰わなきゃならんのを忘れているのかよ」


で、続けて嫌味を溢されちゃうんですけど。


「汚してしまいましたから、お洗濯してからお返ししないと」


素直に謝罪したつもりなんです。


「当たり前だ」


って無碍にも無く。

もう、慣れっこになりましたよ。


街はもう目の前。

そこでは旅の癒しが待っているのでしょうか。


それとも、これから始まる新たなる旅路への伏線が待っているのでしょうか。


「おい下僕シスター。

 街へ帰ったら食事を摂るぞ、良いな?」


「勿論です・・・ご一緒しても宜しいでしょうか?」


本当はお優しい御主人様。

マントの洗濯よりも食事を先にするんだって、心使いされちゃうんです。


「無論だ。仲間が多い方が食事は旨いからな」


ほら・・・下僕とは言わずに<仲間>だって。


「はい!」


そんなお優しい御主人様に仕えるのが、だんだん嬉しく思えてくるようになりました。


「じゃぁ~お店の全メニュウぅを~平らげましょう~」


調子にのるワタクシも大概ですけど。


だってほら。

御主人様の痛い眼が・・・


いやいや。

レーシュはアレフに寄り添うのを変だとは思わないの?


まんまと下僕に納まってしまったようですね~


そしてこの後には?

まぁ、お食事でも摂りながら考える事にしましょうか?


次回 Pass12約束と願い<正義>Act12

そう言えば~マァオって・・・何者なの?

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