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Pass3 秘密<<女教皇>>

地下の迷宮・・・


そこで起きた惨劇の数々。

終焉を齎すのは黒の召喚術師なのか?

二匹の狼は、死を迎えられて粛罪を果せたのでしょうか。


地下迷宮の最奥部、そこへ向かえば答えが見つかるかもしれません。

彼等をケダモノと化した、真の悪が存在するからです。


「人や獣を貶められるのは、絶対なる悪だけだ」


黒の召喚術師アインさんが言った通りです。

邪悪なる者・・・悪魔に因ってこそ、魂を貶められるのですから。


「ならば、ここの主は邪悪なる者」


思わずアインさんの声に背筋が凍り付きます。

仮にもワタクシは聖職者ですから、悪魔と対峙する立場なのですけど。


「どうした?怖気付いたのか」


身を固くして震えるワタクシを観て、アインさんが嗤うのです。


「先に行った仲間達はほっておくのか?」


そうでした!4人の仲間の安否も判らないというのに。


「と、当然行きますとも!ワタクシは聖龍神のシスターなのですからッ!」


悪魔に立ち向かうのが神職の務めでもあるのです。


ですけど、怖いのには変りがありません。

気丈に言って除けたのですけど、足が震えて言う事を聞いてくれません。

最初の一歩を踏み出す勇気ってモノが足りなかったのです。



「そうか?なら・・・勝手にすれば良い」


嗤うアインさんは、ワタクシを置き去りにしてさっさと奥へと歩き出すのです。

帽子を被り直し、マントを纏い・・・


「ちょ、ちょっとぉ!待って、待ってください」


こんな場所に置き去りにされちゃったら・・・また魔物が襲ってきたら?


「ワタクシも一緒に連れて行ってください」


必死だったのです。

縋り付かんばかりにアインさんの後を追うだけ。


「勝手にしろと言ったぞ」


振り向きもしないでアインさんは応えます。


噂通りの非情な人のようです。

怯える女の子を置き去りにしても痛痒もないなんて。


このままなら本当に置き去りにされてしまいます。

震えていた足に力が戻ったのは、恐怖に後押しされたからでしょうか。

篝火にアインさんの影が見えている間に追い縋らないと!


先ずは右足、次は左。

自分で声を掛けると、やっとの事で歩けました。

でも、アインさんの歩く速さには及ばない・・・姿が観えなくなってしまう?!


必死に歩くワタクシの耳に、誰かの呻き声が聞こえた様な錯覚が。



「ひぃ?!」



もう、逃げるだけでした。

足がどうとか、恐怖がどうとかなんて関係ありません。


転がるようにって、今のワタクシを指す言葉でしょうね。

空耳だったとは思うのですが、脅え返ったワタクシには正常な判断能力が欠如していたようです。


「アインさん!アインさん、待ってください」


いつの間にかアインさんの背後迄迫っていたワタクシが呼びかけると。


「観るか?平気なら観て見るが良い」


立ち止っていたアインさんに気が付いた時。





ワタクシは観てしまいました。




仲間だった3人の亡骸を。



少し広まった洞窟内に転がる死骸むくろってモノを。



「うッ?!うっ・・・うえ、うぇぇ~ッ」


あまりに惨たらしい亡骸に、吐き気が襲いかかりました。


「剣士に武闘家が二人、戦士って奴かもしれんが。どちらにしたってもう同じ事か」


冷めた声がアインさんから聞こえたのです。

もう3人は還らないのだと・・・言い切られてしまいました。


ズタズタに切り刻まれている3人。

辺り一面に血の匂いが籠り、辺り中に肉片が飛び散っていました。


「小鬼に気が向かい過ぎたか。ワーウルフに無謀にも挑んだのか?

 こいつ等は銀製の武具を持っていない・・・身の程知らずだ」


確かに3人は銀の剣もナイフさえも持ち合わせていませんでした。

街の人達からは、悪魔の眷属が居るなんて知らされていませんでしたから。


アインさんが3人へ悪態を吐いても、怒りの感情は湧いてきません。

無残にも死に絶えてしまった命に対して祈る事も忘れてしまいます。

唯・・・唯、虚しく悲しいだけ。


魔物が人を襲うのは、人に恨みがあるからだと先程の狼さえも教えてくれているのですから。


じゃぁ、ワタクシ達人族は?

魔物を倒そうとしてるじゃないですか。


魔物と人族。

闘う理由は?なぜ殺し合わねばならないのですか?



呆然と仲間だった3人の亡骸を前に、立ち尽くして考えてしまいます。


「3人だけだったのか?」


不意にアインさんが訊いて来ました。


「他には居なかったのか?」


残虐な世界を想っていたワタクシを現実へと曳き釣り戻したのは、彼女の存在が知れなかったから。

3人は死を与えられて伏していますが、彼女が居ませんでした。


「ケ、ケートさんが居ません。もう一人が居ないのです」


彼女だけがどうして・・・なんて考えてる余裕なんて持ち合わせていませんでした。

唯一の女性が居ない事について、思いを巡らせるなんて。


「そうか・・・コロニーに連れ込まれたか」


ワタクシが言った名だけで、ケートさんが女性なのだと分ったのでした。

女性が魔物のコロニーに連れ込まれた・・・その意味。


「間に合わんかもしれんな」


彼女達とはぐれてからどれ位経ったでしょう?

数分?数時間?

そんなには経ってはいない筈なのですけど。



 ジャリ・・・



帽子の鍔を引いたアインさんの足が更に奥へと向かうのです。


「彼女を助けに向かうのですか?」


間に合わないと言っていたアインさんへ、恐る恐る訊いてみました。


すると足を停めたアインさんが言ったのです。


「助ける?魔物のコロニーに連れ込まれた時点でお終いだ。

 助けることなど無理、救うなど無駄なんだぞ?」


言われた意味が分かりませんでした。

コロニーと呼んだ意味さえも、ワタクシには分かり兼ねたのです。


「なぜ?助けられないと?」


訊いてしまってから後悔してしまいました。

聖龍神の信徒として暮らして来た無垢過ぎるワタクシに、アインさんは知らしめたのです。

魔物の繁殖ってモノを。


「知りたければ観れば良い。

 ここの主がどうやってしもべを増やすのかを。

 なぜ人族の女を連れ去るのかを・・・な」


足を停めて答えたアインさんが付け加えたのです。


「一度魔物に抱かれてしまえば、二度と人には戻れないんだ」


・・・って。


人に戻れない?

魔物に抱かれる?


その意味に気が付いた時、ワタクシはケートさんがどうなってしまったかを悟らされたのです。


「死んでしまう方がよっぽど・・・楽だろう」


残酷な一言が、ワタクシの耳に残りました。

彼女達が受けてしまった辛苦を連想させて。




人族の女性を苗床なえどこにする魔物。

か弱き存在である人族を以って、自らの仲間を増やす。


魔物が邪悪たる由縁。

魔物が悪魔の眷属である証。


人を凋落させ、人を魔に変える者。


そして自らの王国を築かん者。


それが・・・ワタクシ達の前に居るのです。




コロニーは見つかりませんでしたけど、地下迷宮の主が居る広間に辿り着いたのです。


広間・・・いいえ。

ここは・・・墓場でした。


辺り中に冒険者だった骸が転がる・・・地獄でした。






 ごぉおおおおぉッ!





何処からともなく生臭い風が吹き荒れて来ます。





 ズル・・・ズルル・・・




何かを引き摺っているみたいな音も聞こえるのでした。


異臭と異音が、この場を更なる闇へと換えていくようです。


篝火が何かの影を揺らめかせています。




 ズルルゥ・・・ズズズ・・・




仄かな灯りに照らされて、ワタクシの眼に映ったのは・・・



「お前が此処の主、アドラーメルクのケムダーか?」


黒の召喚術師アイン・ベートさんが名指ししました。


「我の名を知っているお前は何者?」


揺らめく灯りに照らし出された悍ましき姿。


「あ・・・あああ?!」


ワタクシには人外なその姿を見続けられませんでした。



 

  ズルルーゥ




伸び上がった上半身は人族の女性である証が見て取れます。

ですけど、魔物は自らの分身をも持ち合わせていたのです。


半男半女・・・そして。


男性のシンボルだと思われた物は何匹もの蛇でした。

それが腰のあたりに巻き付き、鎌首を擡げているのです。


「お前を知っているとしたら・・・何者かが分かる筈だがな」


嘯くアインさん。


怪物を前にしても落ち着き払う姿に、恐怖を超えたモノを感じたのです。

彼は、怪物を知っていた?地下迷宮の主の正体を知ってここまで来た?


誰も帰って来なかったというのに、何故知り得たのでしょう?


「我を知るのは魔物か悪魔の眷属か。

 お前の姿は人族のモノだ・・・が。

 その中に潜むのは誰ぞ?」


手をアインさんに向けて来た怪物が、大きく伸びあがり全体を晒します。


「あ・・・あああ?!まさかそんな?」


ワタクシもその存在だけは知っていました。

古から伝えられる文献に出てくる魔物だから。


上半身は人、その多くが女性だと記されています。


上半身と下半身の境目には自らの分身である触手状の蛇を巻き付け、威嚇するように鎌首を擡げているのです。


そして・・・下半身はと言うと。



「ラ・・・蛇女ラミア?!」


大蛇の下半身が蜷局を巻いていたのです。


敵視したモノを石に変えると謂われるラミア。

悪魔の眷属でもあり、堕神の使徒とも呼ばれた悍ましき存在。


それがワタクシの前に居るのです。


もう・・・人が太刀打ち出来る相手ではなかったのです。


人ならば・・・です。



「俺か?

 俺が何者かを知りたければ、この躰に訊いてみれば良い」


まさか?黒の召喚術師だって言っても、相手はラミアなんですよ?

余裕の笑みを溢すアインさんに、言いたいんですけど。

生憎の事に、ワタクシは半ば失神していたようです。


「ほぅ?それ程までに死にたいか?」


ラミアも負けずに嗤い、


「ならば、石になるが善かろう」


アインさんを睨んだ・・・処までは覚えています。


フッと・・・意識が途絶えてしまいました。

その後どうなったのかは分かりません。


ですが・・・




「なにっ?!馬鹿な?」


ラミアはアインベートに吠えた。石になる筈だった男に対して!


「言っただろう?俺が何者かが分かると」


帽子を被り直すアインベートが、逆に嘲笑う。

石化の眼光を受けて尚、黒の召喚術師は何事も無かったかのように嗤う。


「お前は?お前は人ではないな」


「観れば分かるだろうが」


黒い帽子の下から覗くのはオッドアイ。

片側の蒼き瞳ではなく、金色を纏う瞳で。


「俺もお前と同じだというだけさ。

 いや、お前の主と同じって言った方が分かり易いだろうけどな」


「なッ?!なんだと?」


悪魔の眷属であるラミアの主?!


「言ったではないか。

 お前を呼ぶ時に、アドラーメルクのって・・・な!」


「我が主を呼び捨てに出来る・・・同じ悪魔として?

 そんな馬鹿なことが?!

 いや、待て・・・まさか?!」


悪魔が上位者を呼び捨てにすれば、存在を揺るがしかねない・・・自らの。


でも、同位者が呼んだのならば・・・


同位者?


悪魔の主人たる者?


つまり・・・その存在とは?


ラミアが驚愕してアインベートを見詰め。

いいや、驚愕と超えて恐怖に慄く。


「言えまい?言えばお前の存在は俺のモノとなるのだからな」


嘯くアインベートが腰のホルスターから一枚のタロットを抜き取る。

その手にしたのはⅩⅤ番目のカード。


タロットカードの十五番目は・・・悪魔。


「俺を顕すカード。これに描かれている者の名を示せ!」


タロットに描かれてあるのはⅩⅤと・・・


恐怖に怯える悪魔の眷属ラミアの眼に、映し出された名は?!


「言えば・・・我は消滅の憂き目に遭う?!

 聴かされただけで力を半減されてしまうのだ」


ラミアは戦慄を覚え、狼狽えた挙句にアインベート目掛けて襲いかかる。


「愚か者め!俺をアスタロトと知っての暴挙か?」


ⅩⅤ番目のカードに描かれてあるのは彼自身。

タロットに記された悪魔を指す名は・・・アスタロト!



彼は魔王<アスタロト>?!

では何故人の姿を模るのか・・・


アイン・ベートと名乗った少年が悪魔だと?


ラミアは驚愕の末に見ることになる。

魔王と名乗った少年から呼び出される者を!


次回 Pass4 その名は大悪魔 <<皇帝>>

魔王アスタロト・・・彼の目的は一体?!


アイン・ベート「後にいる奴は気にしなくていいぜ?」


挿絵(By みてみん)


??????「俺が本当の姿だ」


はい?犬のようなウサギ耳のあなたは・・・何者?

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