Pass12約束と願い<正義>Act3
蒼い真似真似マァオと同道する事になったレーシュ。
果たしてダンジョンからの脱出は?
まだまだ油断はならないようです。
真っ暗な通路を薄青い光が揺らめきます。
光はゆるゆると進み、通路に人影を映し出していました。
「ねぇねぇ、ボクって役に立つでしょ?」
少年の声は朗らかに訊ねます。
「そうねぇ・・・って。何度も訊かないでよマァオ君」
揺らめく影の元で、少女が答えるのですけど。
「こんな真っ暗闇だったら、魔物だって何も見えやしないんじゃないの?」
「当たり前でしょ!どこに何があるのかさえ分かんないんだからさ」
薄青い光を放っているのは、少女の影を造り出す青い真似真似。
魔物である真似真似と少女がダンジョンの出口を探して歩き回っているのです。
「ボクって暗闇の中で光れるから便利だよねぇ」
「さっきから何べん同じ事を言ってるのよ」
マァオは通路の上を転がるようにして進んで行きます。
その後を杖を携えたレーシュがついて行くのです。
「でもねぇマァオ君。
光の届く範囲が限られているから、見通しが効かないけど大丈夫なの?」
不安気なレーシュが魔物であるマァオに訊ねるのですが。
「そ、それを言われたら・・・そうなんだよなぁ」
却って不安を煽る結果に?
「・・・ねぇ。もしかして同じ道をぐるぐる回っていない?」
「・・・分んないよ」
・・・嫌な雰囲気ですね。悪い予感というのは大概的中してしまいますから。
立ち止ったレーシュは、薄ぼんやりと映る壁に目を遣りました。
「うん?何かあったのかいレーシュ」
「ううん。もしかしたら堂々巡りかも知れないと思ってね」
剥き出しの石壁に、杖の柄で目印を着けるのでした。
「もう少し歩いた後、この目印に戻って来たら。
間違いなく迷子になってるって証だよ?」
「迷子っていうより、出口が無いって事にならないかい?」
・・・出口が見当たらない?
もしや・・・無限回廊って奴でしょうか?
「かもしれない。
けど、出口が無いなら脱出する方法を考えなきゃ」
どうやって?
「少なくても、ワタクシが墜ちて来た穴がどこかにある筈だもん」
落ちた穴から這い上がるのですか?
それはロッククライミングより至難なのでは?
「無駄だよレーシュ。
君が墜ちて来た穴ってのは、きっと塞がれちゃったと思うんだ」
「え?!どうして?」
きっぱりとマァオに言い切られて、レーシュは思い出したのです。
倒れていた場所の天井に、灯りが見えなかったのを。
僅かでも天井に穴が開いているのなら、小さな光が漏れている筈でしたから。
見上げた時、天井も観えない位の真っ暗闇だったのを思い出したのです。
「あ・・・ああ?!損な?」
「うん、大損でしょ?」
がっくり肩を落とすレーシュに、マァオは肯定するだけでした。
「また、誰かが落ちて来たら。
その時が脱出のチャンスかもね」
「誰かって・・・誰よ?」
マァオの他力本願に口を尖らせるレーシュでしたが、
「御主人様が来てくださらないかなぁ・・・」
自分も縋り付きたいと落ち込んでしまうのでした。
蒼い真似真似と賢者の魔法衣を着たレーシュは、それでも出口を探して歩き回りました。
通路には分岐点らしき角は無く、壁伝いに歩くより他は無いのでしたが。
「どれだけ歩いても右回りだけだよね?」
「そ~なんだよなぁ。ボクも数百回曲がったんだ」
・・・数百回?
「ねぇ・・・マァオ君。
そんなに曲がって、おかしいと思わなかったの?」
「だって・・・他に道が無いんだからしょうがないじゃないか」
・・・否、気付けよ。
「数百回って言ったけど。
マァオ君はいつから此処に閉じ込められてるの?」
「う~~ん。太陽を観てないから、いつからとかはっきりとしないし。
それにそもそも、ボクがなぜここに居るのかも分かんないよ」
そう言えば記憶がおかしいとか、自分が誰なのかさえ分からないんでしたね。
困ったように答える真似真似に、
「少なくても此処に住み着いた魔物ではないんでしょ?」
「魔物じゃないってば!
喩え魔物だったとしても、誰も来ない迷宮なんかに住み着かないでしょ!」
それもそうだ。
・・・と、そういえば。
ここには魔物も居ないという事ですか。
「尤も、ここの番人は別だろうけどね」
・・・え?
「ば、番人?!」
居るんかぁ~い?!
マァオに何者かの存在を知らされたレーシュが声を荒げました。
「番人って?魔物か何かじゃないでしょうね?」
「魔物とかどうとかじゃないよ。
ここは古の祠があるって言っただろ。そこの番人が居るって話だよ」
・・・やばい奴でしょうか?
「迷宮の番人にして祠を護る者・・・って奴らしいよ」
「マ・・・マァオ君は遭ったことがあるの?」
一体どんな奴なのでしょう?
「奴らしいのって、言ったでしょ。会った事なんてないよ」
「そ、そっかぁ~」
怯えるレーシュは、ほっと溜息を漏らします。
でしたが・・・
「確か・・・迷宮に侵入者が現れたら、退治しに現れるんじゃないかな?」
「ほぇ?!」
侵入者って、つまりは二人の事でしょうか?
「どこかの壁に書いてあったような。
確か・・・何かを壊したり移動させたり。
・・・落書きをしちゃったらいけないとか書いてあった気がするんだよね!」
マァオは不確かな記憶を辿るように言ったのですけど。
「・・・ピククゥ?!」
顔を蒼褪めたのは、先程壁に目印を刻んだレーシュでした。
「な、なんでもっと早く言ってくれないのよぉ!」
「だって!今思い出したんだからしょうがないでしょ!」
あ・・・あ・・・?!やっちゃいましたね?!
ガコン!
暗闇の向こうから、重い石壁が動く音が!
「ぴぃ嫌あぁぁ~ッ?!」
驚くも驚かないも。
恐怖がレーシュを支配してしまいます。
「番人かも?!に、逃げなきゃ」
「あのさぁ、逃げるってどこにだよ」
もはや達観したのか、それともこうなるのが想定内だったのか。
マァオはレーシュとは逆に音のする方へと向かおうとするのです。
「マ、マァオ君?!そっちに行ったら番人と遭遇しちゃうよ?!」
逃げ腰のレーシュが呼び止めましたが、真似真似は転がるように音が聞こえた方へと。
「番人だったら好都合だろ。
ここから出られる方法を訊かなきゃ!」
「そんな?!番人が侵入者を見逃してくれる訳ないでしょ?!」
慌てて踵を返すレーシュが、マァオを呼び止めるのでしたが。
「そ~かな?じゃぁちょっと訊いてみるから」
転がるのを停めたマァオが前方の闇を見上げるのです。
「え・・・・?訊くって誰に」
釣られて立ち止ったレーシュの眼に飛び込んで来たのは?!
いつの頃に造られたダンジョンだったのか。
岩山の上に聳えたつ古城は、なぜ祠の上部に造られたのか。
そして祠に祀られているのは一体?
まだガイア大陸が3つの国に別けられる以前の話。
この地上には栄華を誇った国があったいう。
大陸の中央部に近いこの場所へ、王族の陵墓が築かれた。
王の墓には、埋葬品が隠されてある。
それを後世の人が奪い取るのを防ぐ為、墓には数多くのトラップが仕掛けられている。
中でも王の埋葬場所には侵入を防ぐ仕組みと共に、一旦侵入されたとしても逃げ出す事が出来なくする回廊が備えられているのだ。
触れてはならない場所に入って来た者への罰・・・則ち、死を以って呪いとする。
また、王墓には永遠の守護者とでも言うべき家来が、生きながらにして埋葬されたともいわれる。
王に傅く者・・・それは?
「「もごぉ・・・・」」
くぐもった声らしき音が流れだして来ました。
闇の中に存在しているモノから。
「ひぃ?!」
通路の闇から何者かが歩み寄ってくる気配を、肌でさえも感じてしまう。
畏怖すべき存在か、拒絶すべき相手なのか。
唯、レーシュは眼を見開いて闇の奥から現れんとする相手を待つのでした。
緊迫する通路に、まったく場違いな声が響いたのはこの時でした。
「もしも~し。祠の番人さんですよね?
ボク達は迷子になって困ってるんですよぉ。出口が何処なのか教えてくれないかなぁ?」
薄蒼く光るマァオの灯りだけが、相手を照らし出す唯一の光点でした。
その光に照らされる者が、ゆっくりと進み出て来ます。
「「もごぉ・・・もごもごぉ」」
くぐもった声が、何かを訴えるかのように流れ出て来ます。
「ひぃぃッ?!マァオ君、逃げようよぉ」
声に怯えるレーシュでしたが、既に恐怖で足が竦んでしまっていたのです。
「逃げるってどこにだよ。
ここから出たいから番人に訊いてるんじゃないか」
クルンと振り返ったマァオが、レーシュに質しました。
「番人だからって、間違って入ってしまった者まで処罰しない筈だよ」
そうでしょうか?
「ボク達は何もしやしないし、出たいだけなんだから」
こっちの意向を汲んでくれる相手でしょうか?
「あ、レーシュは落書きしちゃったんだったっけ?」
「よ、余計なことを言わないでぇ~(涙目)」
落書きじゃないけど・・・そうでしたね。
番人がレーシュを見逃してくれるのか、甚だ疑問ですね。
「「もごぉ・・・もがぁ」」
近寄って来る影が、マァオの光で姿を曝け出します。
「ほら、レーシュからもお願いしなきゃ?」
「ひ・・・ひぃいいいいいいッ?!」
マァオは真似真似だから、動じませんでしたが。
闇の中から現れ出て来た姿に、レーシュは叫んでしまいます。
「枯骸?!」
そう。
レーシュの眼に写り込んで来たのは声の主である・・・ミイラだったのです!
遂に本物の魔物が?!
現れるマミーに対処出来るのでしょうか?!
マミ~ってさ、ミイラでいいんだよね?違うの??
次回 Pass12約束と願い<正義>Act4
マミーはレーシュに何を話す?真実とは奇なり?




