<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act10
目的が明らかになったのです。
不幸な娘達を救い出す
只それだけの為に、2人は乗り込むと決めたようです。
炭に帰した女性の面影が、脳裏にハッキリと残っている内に。
宿屋の主人さんに事の顛末を話したのです。
この村に住んでいた女性なのか、他の土地から来た女性だったのかをどうしても知りたくなったので。
年の頃は二十歳前後、茶色の髪にブルーの瞳・・・
ワタクシが訊ねると、宿屋の主人さんが手を打って答えてくれました。
「そりゃぁ~、村の東に住んでいるオコロの処のチャスネルさんじゃなかろうか」
「チャスネルさん・・・ですか?」
断定は出来ないですけど、村娘だった方に似ておられるみたい。
「確か、2か月ほど前から入信していた筈だがなぁ」
宿屋の主人さんが教えてくださいました。
先ずは、チャスネルさんに間違いないとみても良いかと。
「お気の毒に・・・」
目の前で灰になってしまわれた女性は、やはり村に住んでおられたようです。
「どうか、その方の身寄りにお知らせくださいませんか?」
余所者のワタクシが知らせても信じては貰えないでしょうし、却って疑われてしまう筈です。
「おい、親爺。不幸な娘を弔ってやってくれ。
それと今回の迷惑料と近親者への報告料だ、頼んだぞ」
ポケットから金貨を5枚も取り出すと、アレフさんがカウンターに置きました。
「へ?!へッへぃ~」
金貨を目にして宿屋の御主人さんが了承してくれました。
「アレフ様、これからどちらに?」
宿屋から出た所で、行き先を尋ねたのですが。
「決まってるだろう?装備を整えるんだよ」
「装備?」
ワタクシは冒険者としての初歩の初歩さえも知らなかったのです。
目的のクエストによっては、持ち物を整えねばならないなんて。
「その身なりでうろつけば、敵の目につきやすいだろうが」
「はぁ・・・そうなのですか?」
身なりを指摘されて困惑します。
だって・・・龍神様のシスター法衣姿・・・いつもの服だったから。
「またあの下僕な服にしろって言うんじゃないですよね?」
スカートの丈が短すぎて、ワタクシは恥ずかしいから嫌なのですけど?
「当たり前だろうが!
誰が好き好んでチャラチャラした服で居ろって言うんだ。
ヴァンパイアを相手にするのに肌を晒してどうするってんだ?!」
「あ・・・いやまぁ。そう仰られるとほっとします~」
惚けた答えが返ってくるかと思ったのですが、正論で返されるとなんとも。
「そうだな。先ずはお前の服装から整えるか」
「ほぇ?ワタクシの服を・・・ですか?」
アレフさんに決めつけられて、自分の姿に目を遣りました。
「これでも旅の法衣なのですよ?
破け難いし軽いし・・・なかなか良いモノですよ?」
肌の露出度も少なめだし、何より丈夫ですから。
「分かっておらんな。
魔物との戦闘には、それ相応の服装が必要なんだぞ」
そう仰られるアレフさんだって、マントにスーツ姿ではないですか。
ワタクシがジト目でアレフさんを観ていたら。
「よし・・・この際だ。
下僕なシスターにも魔法衣を用立ててやるか」
はいぃ?!魔法衣って・・・何?
「あ、あのぉ?魔法衣って?」
魔が法衣の前についてるんですが?
「・・・知らないのなら、つべこべ言わずについて来い」
業を煮やしたアレフさんが、ワタクシの手を握ると引っ張ります。
「え?あ、いや・・・アレフ様ぁ?」
拒む訳ではないのですが。昨日の今日だけに・・・心配です。
連れて来られたのは、昨日のお店。
あの変な御主人が居られる服屋さん。
「おい!昨日の服を見せて貰うぞ」
店に入った途端、アレフさんが怒鳴るのです。
「あらまぁ~いらっしゃぁ~い」
昨日ホクホクな買い物をした二人連れだと気が付かれたようです。
「昨日の服ねぇ~、そこに掛けてあるわよ~ん」
毛深い腕を突き出して、主人さんが示すのは?!
「よし、下僕シスター。直ぐに試し着をしろ」
「・・・・あの?」
アレフさんが急かすのですけど、
「もしかして・・・それを着ろって?」
眼にした服というのは?!
「殆ど・・・紐じゃぁないですか!」
水着でも、ここまで露出しませんよ!
隠す布地が殆ど見当たらないのですけど?!
「ア、危な過ぎですッ!
こんなの着ていたら変態さんじゃ~ないですかッ!」
ワタクシだって女の子です。こんなハシタナイ服装で歩くなんて出来ませんッ!
いや、その前に。
誰がこんな紐の服を着るんですか?!
「お前・・・何を勘違いしているんだ?
俺はそこの魔法衣を言ったんだが?」
「ほぇ?」
手にした紐状の危ない水着の横に掛けられてある、ロングドレスみたいな服を指差されて。
「すると何か?お前はそんな水着でクエストに挑む気なのか?」
呆れかえられてしまわれたのです。
これは・・・大失態。
「ニャははは~・・・ですよねぇ~」
嗤って誤魔化し、白のドレスを手にします。
「か・・・軽い?!」
見た目より、想像出来ない程の軽さに目を見張ります。
「だろうな。
どうやらそれは服自体に魔法を施されてあるようだ」
「服に魔法を・・・ですか?」
半信半疑なワタクシを睨みつけるアレフさん。
「早く着てみないか下僕シスター」
「は、はいぃ~」
有無を言わせぬ口調に追い立てられて、試着室に飛び込みます。
「うぇええん、昨日の今日で心配だよぉ」
飛び込んだのは良いんですが、着た後何かが起きるのではないかと怯えます。
持ち込んだドレス状の服は、何層にも分れているようです。
ロングスカートだけが眼に行ってしまいがちですけど、ゆったりとした上着の中はコルセットやベルトがついています。
そしてゆったりとした上着は、マントを兼ねていて、背中に垂らしたフードで風雨を凌げるようになってありました。
やや小柄なワタクシの身体に合うのかなって思いましたが、心配しなくても良かったようです。
不思議なことに、ロングスカートはぴったりと丈が合いました。
なんだか、誂えたかのように・・・です。
全て着終えた後、鏡に映し出されたワタクシの姿は・・・
「まるで、別人みたい」
凛とした白のドレスを纏って立っているのはワタクシなのですが、顔までもが引き締められたようで。
「急に大人になったみたいにも見えるなぁ」
着替える前と今では、大人と子供?
「ドレスの所為かな?なんだか艶っぽくも観えちゃうけど?」
不思議な感覚と言えば、それまでなんでしょうけど。
「やっぱり軽いし、それに観た感じよりもずっと動きやすいな」
くるりと一回転してみて、そう感じました。
ロングスカートが纏わり付かず、さらっと流れるように落ち着くのです。
「これなら!派手な動きだって執れそう!」
冒険に付き物の戦闘だってこなせる筈です。
尤も、ワタクシが剣戟を交えるなんてことは無いでしょうけど。
「うん、よし!気に入ったわ」
これが駄目なら、他のどれだって駄目な気がします。
納得したワタクシは、勇んで試着室からアレフさんの前に出ました。
「どうでしょう?アレフ様」
少し自信はあったのですが、拒否されちゃうかもって心配でした。
「・・・・・・」
ああっ?!やっぱり駄目なのですか?
無言なアレフさんに、涙目になりそうです。
「い・・・・い」
「ほぇ?!」
ぼそりと呟かれて、小首を傾げるワタクシに。
「あっらぁ~?!似合うというよりも服に選ばれたようねぇ~」
「選ばれた?この服にですか?」
服屋の主人さんの仰られる意味が分かりません。
「そうよぉ~?
この服の由来はねぇ~」
髭面の女言葉を吐く主人さんが、続ける前に。
「それは、古の賢者が着ていたという魔法衣だ」
アレフさんが腰に手を添えて言って除けました。
「ははは・・・賢者って・・・何?」
聴いていたのですが、意味を飲み込めなくて。でも・・・
「けッ?!賢者ぁーーーーーーッ?」
賢者と呼ばれる方が、如何なるモノか位は知っています。
魔法と見識を集められ、誰にも尊敬される存在・・・その服だって仰られるのですか?
「そうよぉ~。
その服はガイア大陸に名を成さしめた賢者ルクスが、着ていたと呼ばれているのよ~」
「だ・・・そうだ」
二人が交々仰られるのですが・・・
「な、なぜ?そんな偉大な方の服があるの?」
こう言っては申し訳ないのですけど、こんな片田舎の服屋にどうして置いてあるの?
「あっらぁ~?見損なって貰っては困るわよねぇ~ん。
この何でも屋に集められないモノはないのよ~」
な、何でも屋だったの?
「俺様も昨日驚いたが・・・事実は奇なりだ」
そうだったのですね・・・って!
「じゃぁ、じゃぁ?!本物なんですかコレ?」
「着た本人が一番分かるだろう?」
それじゃぁ、アレフさんは初めっから知っておられて?
「お前は聖なる魔法を発動させた。
純天使の偉大なる魔法を・・・だ。
それに準じる魔法衣が必要だろう?」
「あ?!」
なにもかも・・・そうなのですね?
ワタクシは、アレフさんって人が並外れた見識を持たれているのだと思い知らされたのです。
この方は、惚けた風貌とはかけ離れた偉大さを持たれておられるんだって。
「今のお前には、賢者の魔法衣が相当だろう。
並外れた魔法力を秘めたレーシュには、白のドレスがお似合いだ」
「それって、褒めて頂いたのですよね?」
こんなにはっきりと仰られたのなんて、初めてだったものですから。
「別に・・・褒めてなどしていない。
正当な衣服を纏わせただけだ」
でも・・・下僕と思っているワタクシに、これほどの魔法衣を授けて下されるなんて。
「勘違いするなよ。
俺は下僕を喪いたくないだけなんだ。
俺の身の回りの世話をする奴を手放す訳にはイカンだけの話だ」
「はいは~い」
シレっと仰らましたけど、それって・・・
「ちょっとだけ・・・嬉しい気がしました」
そう。ちょっとだけ・・・心の中に。
「旅が続くと良いなって・・・思えました」
そう。ほんの少しですけど・・・芽生えたみたい。
旅路の終わりが訪れたのなら、ワタクシは・・・
「おい、レーシュ!おい、メレク。
さっさとついて来い、早くしろ!」
村を旅立ったワタクシを呼ぶのは、黒の召喚術師。
「待ってくださいよぉ~!アレフ様ぁ~」
村から数キロ程離れた荒野を歩き続け。
北の山々が近付いて来ます。
森を抜け、林を掻き分けて丘の上に登りますと・・・
「観ろレーシュ。あれが・・・」
ワタクシ達の前に観えて来たのは・・・
「ヴァンプの居城・・・ですね?」
森が切れ、赤茶けた荒野の先に見えるのは、尖塔が林立している怪しげな城でした。
「ああ、あれが・・・呪われし支配者の居た城だ」
そそり立つ岩山の上に聳える城。
そこに待っているのは、吸血鬼ヴァンパイア。
次なるクエストは、ワタクシに何を教えるというのでしょう?
でも・・・
「あなたと居れば大丈夫ですよね?」
レーシュを名乗るメレク・アドナイは、傍らに立つ召喚術師に微笑みかけるのでした。
白の魔法衣を風に靡かせて・・・
荒野の果てに見えるのは・・・
荒れ果てた城のようですが?
いったいそこで何が待ち構えているというのでしょう?
これにて第2章もお終い。
次の章では新たな展開が待ち受けているようです。
果たしてレーシュ達は無事に娘達を救い出せるのでしょうか?
次章はきっとアレフとレーシュに試練を与えるでしょう・・・・
次回・・・?
少々更新が遅れます。
申し訳ございません。作者が闇に堕ちたようですW




