Pass2 アインとレーシュ <<魔術師>>
地下迷宮で出逢った2人。
襲い来る魔物に対抗するのは、たった一人の召喚術師アイン!
黒の召喚術師・・・
辺境にあって、その名を轟かしていた悪名高き魔物殺し。
噂によれば、倒した魔物の数は万を超すとか・・・
訊き齧った噂話に依れば、怖ろしく残忍で情け容赦もないとか。
真っ黒な影のような人物像を仄めかされてきたから・・・
目の前に居る魔戒召喚術師が、黒の召喚術師だとはレーシュには到底思えなかったのでした。
「だって・・・噂によれば血も涙もなくて、人を助けたりしないって聞いてたもん」
今さっき。
自分を小鬼から助けてくれたのですから。
そしてレーシュは召喚師が言っていたのを思い出します。
「帽子の・・・とか、言ってたけど?」
黒髪を靡かせる男が手に持っているのを見て、
「トレードマークかな?」
目につく帽子に曰くがあるとは思いますが、
「あれで何かするのかしら?」
全く見当がつきません。
魔物を前にして脱ぎ去るのは、呪文を唱えるのに邪魔になるから?
それとも相手を観るのに邪魔になるから?
まだ魔物退治や魔術師関係に疎いレーシュは忘れていたのです。
召喚術には魔法陣を描かねばならないという事を。
地面に召喚魔法陣を描き、呼び出すモノと関係がある属性物をサークル内に据えなければなりません。
召喚術師が魔物退治に同行するのが少ないのは、咄嗟の戦闘に悠長に魔法陣なんて描いていたら忽ちにして襲われてしまうからなのです。
なのに?黒の召喚術師は万を超す数の魔物を倒せたのか?
レーシュはその訳を知る事になるのです。
現れ出た魔物を前にして、帽子の召喚術師が<本物>であるのを知らされるのです。
ずざッ! ずずざッ!
二人を取り囲む様に、小鬼の群れが散開します。
手に手に黒曜石のナイフを持って。
「数は5匹・・・か」
ニヤリとアイン・ベートと名乗った少年が哂うのです。
「後ろに控えている奴が・・・2匹って処だな」
周りに居るのは5匹の小鬼だけでしたが、アインはその後ろにも2匹いるのだと看破したのです。
「奥の2匹が曲者だが・・・先ずは小物から始末してやるか」
左手で持っていたステッキ状の杖を地面に突き立てると、素早く腰のホルスターに手を伸ばします。
ホルスターに収められていたⅩⅥ番の塔が描かれたタロットカードを抜き取ると。
「破壊を司る者よ、俺の元へ来い!」
叫ぶや否や帽子に翳したのです。
ひっくり返された帽子にカードを放り込み、再び手にした杖で鍔の内側をなぞりました。
そして描かれてある・・・魔法陣を起動させたのです!
ぎゅわッ!
帽子の鍔が光を吹き出します。
表からは観えない鍔の内側に描かれてあった七芒星・・・所謂<白銀の星>が光っていたのです。
そして放り込まれたタロットカードが消え、七芒星に付随した魔法象形文字が変わって・・・
どんッ!
光に模られた紋章が鍔部分から空中に浮かび上がったのです。
その紋章とは・・・塔のタロットが示す意味。
敵を破滅させる魔法。
呼び出されたモノは、召喚術師の命を待ちます。
「ひッ?!」
ワタクシは眼を抉じ開けて見上げてしまいました。
突然現れた光の魔法陣。
そこから現れたのは信じられない程大きな・・・二本の腕。
多分魔物の類だと思えます。
鍵爪の付いた呪わしい腕が、魔法陣から延びているのです。
呼び出したアインさんは平然としておられますが、ワタクシには衝撃的過ぎます。
「あ?!これって・・・さっきの?」
そうです、ワタクシを小鬼から救ってくれた、あの腕なのです。
空中に浮かんでいる魔法陣から現れ出た腕は、小鬼達に睨みを効かせているのです。
「ぎッ?!ぎいぃッ?」
小鬼達が一斉に喚き出します。
あまりの事に、どうして良いのやら分からなくなったみたいで、逃げようともしないで喚き散らしているのです。
こんな動揺しているのなら、脅かしてしまえば逃げ散る筈です。
ですが、アインと名乗られた少年は。
「一匹たりとも逃すな・・・殺れ」
冷淡な一言で・・・命じたのです。
バシュ!
召喚された巨大な腕は、命令に忠実でした。
「ぎッ?!」
手始めに間近まで迫っていた小鬼が捕まり・・・
ぶしゃッ!
一瞬で捻り潰されてしまいます。
「ぎッ?ぎぃッ?」
仲間の無惨極まる最期に、動揺する残りの4匹にも。
両腕が次々に襲いかかります。
ずんッ!
逃げようとしていた右側の1匹は、手刀を喰らってへしゃげて肉片と化してしまいました。
「ぎいぃッ?」
残った小鬼達はパニック状態に陥り、一目散の逃れようと走り出したのですけど。
どかッ!ずどッ!
振りかざされた腕が、まるで虫でも叩き潰すかのように小鬼に落とされたのです。
原型をとどめなくなるまでの破壊。
それが小鬼だったと分かる人がいるでしょうか?
無残にも小鬼達は全滅して果てました・・・ほんの数秒で。
「ひぃいいい・・・」
見続けるものではありませんでした。
魔物とは言え、あまりの惨状にワタクシは・・・
「聖龍の神様、どうか罪深き者を赦したまえ」
神に謝罪してしまいます、自分の前で起きた惨劇に。
5匹の小鬼は死骸と成り果て、もう危険も去ったかに思えました。
「ふん・・・性懲りもなく。
まだ歯向かう気なんだな・・・お前等は」
・・・と。
理不尽な殲滅を繰り出したアインさんが奥を睨んで言うのです。
「え?!まだ・・・奥に?」
ワタクシには見えません。観えませんが、何かが迫っているようなのです。
ずんッ!
篝火を背景に、それが姿を現したのです。
「ちッ!どうやらここの主の片腕が来やがったようだぜ」
アインさんが言いました。
2つの影はダンジョンの主に近い者だって。
「ひぃッ?!ワーウルフ?」
灰色の毛に覆われた体躯。
狂暴なる腕力と脚力を誇り、どう猛な咢で獲物を喰いちぎる。
悪魔の眷属・・・それがワーウルフと呼ばれる狼男。
その悍ましき者が、2匹も!
普通の冒険者なら逃げ出すでしょう。
彼等には歯がたたないと思うでしょう・・・けど?
「ア、アインベートさんッ?!」
帽子を手にした召喚術師は。
「ふっ・・・なら。こいつで始末するまで」
狼男達に嘯くと、帽子をひっくり返しました。
その途端、呼び出されていた腕が掻き消されて。
「クリフォトたる4番が命ずる!逆さ女教皇よ、銀の礫を喰らわせろ!」
再びホルスターからタロットを抜き取ると、帽子に翳したのです。
「あ?!」
ワタクシの眼に、アインベートさんの持っていたカードが逆さに向けられているのが映りました。
正方向ではなく、逆に向けられたタロットカードの意味は?!
「Ⅱ番女教皇が逆さになれば、残酷なる破壊者となる・・・」
つまり、召喚されるのは。
ぐぉおおおぉん!
魔法陣から出て来たのは、銀色に輝く鏃?!
「残念だったなワーウルフよ。
お前達の再生能力でも、銀の武器には歯がたたないことぐらい知ってるだろう?」
「ぐおッ?ぐるる・・・」
召喚されたのは銀の矢。
悪魔の眷属でも弱点があります。
狼男達は無限の再生能力を誇っていますけど、銀の武具には弱かったのです。
聖なる金属と称されたミスリルに次ぐ、魔戒の威力が内蔵されていたからです。
「殺れ!逆さⅡ番」
冷淡な声で、狼男達目掛けて矢を射かけろとアインさんが命じます。
たじろぐ暇も与えず、魔法陣から矢が・・・
ぐさッ! ドスっ!
2匹に一本ずつ、矢が立ちました。
しかも・・・心臓らしき所に。
「ぐぉおっ?」
ワーウルフは断末魔の遠吠えを吐くと、霧に包まれて行きます。
悪魔の眷属たる所以でしょうか?
呪いが解けて、本来あるべき姿へと戻ったようです。
そこに横たわるのは・・・
「どうやら・・・本来この洞窟に住んでいた者達らしいな」
アインさんに言われて、やっと2匹の正体が分かりました。
大きな犬かと思ったのですが、よく見れば狼でした。
2匹の狼が横たわり死んでいたのです。
「人に恨みを抱いたか。悪魔に魂を売る程まで」
森の中で人族に追われた為でしょうか?
それとも同族を滅ぼされた恨みでしょうか?
「悪魔に身を売っても、何も救われないというのにな」
そう言ったアインベートさんは、少しだけ悲しそうに眼を閉じたのです。
魔物との闘いは、こうしてアインベートさんの一方的勝利で終わりました。
襲いきた魔物達を一掃した召喚術師アインベートさん。
自らを帽子の召喚術師と呼んでいる・・・黒の召喚術師。
残酷で冷淡な術を繰り出し、魔物を一掃しました。
でも・・・ワタクシには気になった言葉があったのです。
彼がワーウルフと対峙した折に言った。
「クリフォト?
その4番目・・・って?」
神に仕えるワタクシには分かりかねるのです。
なにか・・・とんでもなく神秘的な意味があるように思えて。
「それに、逆さタロットを使えるなんて。
人族の中でも闇に属さないと放てないって、聞き及んでいるのですけど」
だから?黒の召喚術師?
魔物に対して少しも動じない。
悍ましいケダモノにだって哂えるほどの実戦経験者?
黒いマントを靡かせるアインベートを名乗る召喚術師に、ワタクシは違和感を覚えたのです。
気になるのは、先程の一言。
クリフォト・・・とは?
その4番目・・・とは?
何を指しているのでしょうか?
もしかすると。
アインベートさんは・・・闇を纏う者。
つまりは、人では無いのでは・・・と。
圧倒的な召喚術!
帽子に魔法陣を描いておくなんて?!反則じゃないの?
いいえ、魔物相手に反則なんてありませんよ。
次々と魔物達を滅ぼしていくアイン。
やがて迷宮の主と対峙するのですが・・・
次回 Pass3 秘密 <<女教皇>>
あなたの隠している秘密って・・・教えてくださいますか?