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<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act9

遅い来る影!


対するのはやはり?!


あれ?手をこまねくの?

飛び下りたアインは、帽子とロッドを掴むと。


絵札カードの5番、教皇よ。

 妖の僕に滅びを齎せ!銀の杭で奴の心臓をぶち抜け!」


絵札を帽子に放り込む・・・手を停める。


「俺が命じたらな」


ニヤリと哂う黒の召喚術師サモナーが、現れた女吸血鬼ヴァンプと下僕シスターを観る。


「俺の狙い通りなら。アイツは呪文を詠唱できるだろうからな」


アイツ・・・つまりは?


吸血鬼と対峙しているのは、アインだけでは無かった。

もう一人、今迄なら蹂躙されるだけの存在だった娘がいた筈。


「ここからは・・・メレクのターンってことだ」


そう!下僕シスターと呼ばれるメレク。

いいや、聖なる力を授かったレーシュが居たのだ。





内なる力に気が付いていない、駆け出しの魔法シスター・レーシュ。

襲い来たヴァンプと向かい合うのなら、ここからは彼女へと視線を併せよう。



手を突き出して来るヴァンプ。

ワタクシを殺すと言い切った悪魔の化身。


頼れるのはアインさんだけ?

魔物を倒せるのはワタクシには無理?


駆け出しのシスターであるワタクシに授けられてあるのは回復呪文だけ・・・


「でも・・・闇の眷属である吸血鬼になら」


聖なる力を誇る治癒魔法だって、死人しびとである吸血鬼にはダメージを与えられるかも。


「もしかすると・・・出来るかも知れない」


ヴァンパイアを滅ぼすのは無理でも、動きを封じること位はやれるかも?!

昼間に受け取ったのが、夢ではないのなら。

あの紋章が偽物でなかったのなら!


ワタクシが独り言をつぶやくと、


「殊勝だな、死ぬ前のお祈りを唱えるとは」


何かを勘違いしたヴァンプが嗤いました。


「聞けばお前はシスターだったとか。

 敬虔な奴の血を吸えないのは、心残りと言えばウソになるわね」


舌なめずりをするヴァンプは、ワタクシが何を呟いているのか分かっていないみたい。


「でもね。それはそれ、これはこれって奴。

 御主人様の命令は厳守しなければね」


手の先をワタクシに向けて言い放ちましたけど・・・ね?


「お前の連れも・・・直ぐに後を追わせてやるから。心配しないでね」


「言いたい事はそれでお終い?」


こっちだって負けていませんから。

俯き加減でベットから立ち上がるワタクシは、言い返してやるのですよ。


「あなたも、元は人だというのなら。

 もう少し真面な云いようがあるんじゃないの?」


「ふん!死に逝く奴に言われたくないわね」


同じ女同士、醜い言い争いは好みませんけど。


「ワタクシは聖なる力を授かったのです。

 って、この意味が分かられますか?」


「聖なる?シスターなのだから当然ではないのか?」


違いますってば。

分かられないのなら、しょうがないですね。


「闇の眷属に堕ちし魂よ。我と我の力に癒されてみなさい!」


敢えて癒すと言ってあげました。

だって、ヴァンプも元をただせば人ですもの。


「なッ?!まさか・・・お前には?」


そうですよ、気が付かれるのが遅かったようですけどね。


「聖なる紋章よ!この者に癒しを与えよ<<ヒィーリング・ラツィエル>>!」


「馬鹿ッ!癒しじゃないでしょうがァッ!」


極大魔法陣が足元に現れ、光の礫がワタクシを取り巻きました。



挿絵(By みてみん)




  ドォン!




そうです!呪文が発動出来たようなのです。

純天使ラツィエルの名を冠したスペルの詠唱を終えていたワタクシに拠り。




 キラキラキラ・・・・・




ヴァンプに生命力を維持する力が加えられたのです。

それは闇に身を堕とした者にとって、攻撃にも等しいと聞いていましたから。



「ぎゃあああああぁッ!」


癒しの光に包まれたヴァンプが、断末魔の叫びをあげます。


「ああああああ~?!」


魔法を放ったワタクシも。

自分が仕出かしてしまった行為に、驚きの叫びをあげてしまうのでした。


「本物の紋章だったなんて!

 しかもレベルの低いワタクシに放てるなんて思わなかったのに!」


冗談ではありません。

こう言ってはなんですけど、天使クラスの呪文を自分が放てるなんて夢かと思いましたよ。


「もっと低レベルな魔術かと思ったのに」


身の丈を越えた・・・なんて、生易しい物ではありません。

だって・・・一度の詠唱で発動しちゃうなんて・・・らっきぃ~!


しかもですよ。襲い来たヴァンプに、相応なダメージを与えられたような?


蒼き輝に包まれたヴァンプは、身体を抱えて震えているようです。

相当な痛手を被ったのでしょうか?


「・・・た、たすけ・・・て」


ほら!もう少しでやっつけられそう。


「お願い・・・私を・・・滅ぼして」


え?!


「ヴァンパイアになんてなりたくなかった。

 もう死んでお詫びしたいの・・・何人もの方を殺めたから」


え?えッ?!

目の前に居るのは・・・人の心を取り戻した女性?!


「お願い・・・このまま滅ぼして。

 この輝の中でなら、地獄へ行かずに済みそうなの。

 せめて、最期くらいは懺悔と共に・・・」


「う、嘘ッ?ワタクシは人を殺めようとしたの?」


呆然とヴァンプを見詰めて、懼れるように後退るのです。

人々に聖なる教えを説くべきワタクシが、経験もないのに放った術に因り人を殺めようとした?


「違うわ、救ってくれと頼んでいるのよ。

 このまま闇の眷属として滅ぶのではなく、人として死にたいの」


それがどうして救うと言われるのか・・・分りません。


「死に急がなくても。助かる道がある筈・・・」


「いいえ、無いのよ。だって私は・・・既に死んでいるのだから」


え?!死んで・・・いる?


脳裏に、教会の書物に記されてあった言葉が浮かびました。

そこには、吸血鬼に堕ちた人間の末路が書き記されてありました。


~~闇の眷属であるヴァンパイアは、人のかたちを採る。

  されど、人に非ずして悪魔なり。

  その者、既に死して人為らざる者なり~~


・・・と。


吸血鬼に堕ちた者は、既に死を宣言されているのだって。

つまりはこの方も?


「ま、待ってください。

 ワタクシはこう見えてもシスターなのですから。

 目の前に居る方を見捨てるなんて、出来っこ無いじゃぁないですか!」


吸血鬼だろうが人の為れの果てです。

その方が苦しんでおられるのなら、救いを齎さねばならないと思ったのでしたが。


「見捨てないと言うのなら。

 聖なる光に包まれたまま、天国へ送ってください」


哀願される女性。

その顔には哀れみすら感じてしまうのですが。


「わ、ワタクシには。シスターのレーシュには無理です」


魔物ならいざ知らず。

人の姿で、人の言葉で哀願されてもワタクシには到底出来ません。


「お願いです!早く・・・殺してください」


殺す?!人を・・・殺めるの?


きっと、ワタクシは真っ青な顔になっていたでしょう。

死を哀願する女性の前で、首を振りながら後退るのが精一杯の行動だった気がします。





 ザシュ!




目の前を何かが翳め跳び、ヴァンプの左胸に突き立ちました。


「あ・・・がッ?!」


一声叫んだ女性が、胸に突き刺さった金属棒を観ると。


「ああ・・・神様・・・ありがとうございます」


神に感謝すると、目を瞑りました。


「ああ?!」


目の前で起きた惨劇に、ワタクシは咄嗟に振り返ります。


「ア、アインさんッ?!」


どうして?なぜ?

ワタクシは悲劇の中、アインさんに咎め立てるのですが。


「知らなければ教えてやろう。

 一度闇に貶められた魂を救うには、死を与えてやらねばならないと・・・な」


「で、ですけど!」


そう。

知ってはいましたけど、目の前で起きるなんて思わなかったから。

こんな悲劇が・・・本当に起きるなんて。




 ざぁ・・・・・



死を賜りし闇の眷属、吸血鬼は滅びを迎えて灰と化しました。

心臓を抉った銀の杭だけを残して。


彼女が最期に神に感謝して逝ったのを、救いだとは感じられません。


「どうして・・・・」


なぜ?彼女が吸血鬼になんかに?


「誰が・・・・」


彼女を闇の眷属に貶めたのか?


「赦せないです・・・」


彼女が言った主人とは?


「彼女みたいな犠牲者が、いったい何人いるのか?」


彼女だけが犠牲者だとは思えません。

シモベが一人だけだとは思えませんので。


「必ず・・・あなたの恨みは晴らして見せます」


祈りの言葉を終えた後、ワタクシは心に誓うのです。

悲劇は繰り返してはならないのだと。



 パサ


挿絵(By みてみん)


頭の上からシーツが被せられます。


「アインさん?」


振り仰ぐと、アインさんが神妙な顔でワタクシを観ているのが分かりました。


「祈りの言葉は、俺には似合わんからな」


プィッと横を観てしまわれるのですが。


「俺に出来るのは、苦しみを和らげてやることぐらいだ」


死を欲されていた女性に、戒めから解き放ったのはアインさん。

残酷な召喚術師サモナーと呼ばれる黒の魔術タロット使い。


「そして。俺という黒の召喚術師は、奴等を駆逐するだけだ」


言い切ったアインさん。

そうするのが当然とでも言うかのように、ワタクシを見詰められます。


「はい!それなら下僕であるワタクシも御伴致しますから!」


アインさんとなら、きっとヴァンパイアの主人を倒せれる気がします。


「そうか・・・なら、装備を整えなければな」


邪魔者扱いにされないのが、少しだけ誇らしく思えました。

きっと、ワタクシにも出来ることがあるのだって嬉しく感じられたのです。


そう・・・これでやっと。

ワタクシも冒険者の仲間入りを果たせるような気がしたのです。

遂に魔法が発動!

しかも、それは攻撃魔法と化したのでした。


レーシュは自らの力の元に気がついたのでしょうか?


次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act10

そして2人は新たなクエストに挑むのです・・・が?


次回でPass11は終了です。

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