<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act7
先ずは腹ごしらえ・・・
そう言ったアレフさんでしたが。
あろうことか、食欲魔人と化したようです!
作者注・今回は、恒例となりましたお風呂回ですW
初めに、挿絵のご意見を頂いたことを、明記しておきます。
夜の帳が堕ちた頃、アレフさんの夜宴が始りました。
テーブルの上には、所狭しと並べられたお料理が・・・
「アレフさん!いくら何でも食べきれませんよ」
フォークを執るのも躊躇してしまいそう。
「そうか?好きなものだけ喰えば良い」
観膨れしてしまうワタクシを余所に、アレフさんは片っ端から手を付けて行かれるのです。
あっちのお皿をパク。こっちのカップを一飲み。
「うむ。田舎料理にしては上出来だ」
ご満悦なのは良いとして、どう見ても行儀が悪いです。
あっけにとられるワタクシも顧みず、アレフさんは次々に食べ進めておられます。
「良くもまぁ、手当たり次第に食べれますね」
悪食と申しましょうか、アレフさんを観ているだけでお腹が張って来そうです。
「なんだ?腹ペコじゃぁなかったのかよ?」
手を出しかねていたら、訊くんですよ。
「お腹は空いていますけど、観ていたらなんだか気分がおかしくなっちゃいましたよ」
「うむ。それはお腹が減り過ぎていたからだろう」
いやいや。アレフさんの食べっぷりにびっくりしてるだけですから。
どこに食べた物が納まるのでしょう?
どうしたらそんなにがっつけるの?
「旨いぞ?この猪のシチューなんて絶品だぜ」
スプーンを突っ込んだままの鍋を突き出し、ワタクシに勧めるのです。
「うぇ?!取り分ければ良いじゃないですか?」
どうみても数名分もある鍋を、一人で平らげる気だったんですか?
「いいや、俺はもう次の皿にかかる。
残りは下僕シスターが喰えば良い」
「無理ですってば!鍋なんですから」
断わったのに、アレフさんはお構いなしに次のお皿に手をつけました。
「もぅ!もう少し大人しく食べれないのですか?」
上品にとは言いませんが、傍で観ていたら食い意地の張ったトロルみたいですよ?
「俺様はいたって腹が減っていると言っただろうが。
召喚術には力が必要なんだぞ、並みの腹ごしらえ位で済む筈が無いだろう」
「召喚術は、お腹が減るんですか?」
聞き咎めて訊ねてみたら、口をもごもごさせるアレフさんが大きく頷きましたよ。
魔術に必要なのは魔法力だと聞き及んではいましたけど、どうやらアレフさんの魔力は食物で補われているようですね。
「はぁ・・・もう少し味わって食べれば良いのに」
がつがつと食べるアレフさんは、本当に美味しいと思っているのでしょうか。
食欲魔神と化したアレフさんを観ないようにして、ワタクシもフォークを羊の香草焼きへと伸ばします。
「オレンジソースが良い匂い・・・いただきます」
甘い匂いと、肉汁たっぷりの羊肉を口に頬ばると・・・
「お~いぃしぃ~い!」
得も言われぬ食感が、忽ちにしてワタクシの食欲を沸騰させるのです。
パク・・・パクパク。もにゅもにゅもにゅ・・・ごっくん!
「うわぁ~堪んないですぅ」
一度お料理を口にした事で、ワタクシの箍が外れちゃいました。
「今度はこのお魚料理を!」
近辺の川で獲られたお魚さんでしょうか。白身で美味しそう!
ひょい・・・パク。
「ンんん~!淡白だけど身が締まってて美味しいぃ~!」
こんなお料理なんて、本当に久しぶりに食べれた気がします。
「次は!その鋏が大きなカニさん!」
食欲に歯止めが効かなくなったワタクシは、次々に手を出してしまうのでした。
もう、目の前にあるお料理に夢中になっていたようです。
「なんだよ・・・人の事を言えた義理か?」
食欲魔人に呆れられるワタクシって?!
だって・・・お腹減っていたんだもん。
シスターがハシタナイなんて、仰らないでくださいね。
こう見えてもワタクシは育ちざかりなのですから(言い訳)。
アレフさんが持ち掛けた夜宴は、宿屋さんの食堂で果てる事も無く続くかと思えましたが。
そこは・・・限度ってモノがあります。
「おい・・・まだ食えるのかよ?」
食後の珈琲を啜るアレフさんが、まだスプーンを口へ運ぶワタクシを呆れます。
「これがラストですから」
目の前にあるプディングを逃すなんて出来ませんよね?
「所謂・・・別腹って奴か?」
「その通り!」
食後のデザートを放棄するなんて、乙女には不可能なのです。
「そうか・・・お前も女子のようだな」
「失敬な。女子以外の何物でもありませんよ」
スプーンに盛られたクリームをぺろりと頬張ると、
「御馳走様でした」
満足げにお腹を摩りました。
「ふむ。良いころ合いだったな・・・」
あれだけ盛られていたお料理も、二人で完食してしまいました。
珈琲カップを啜りながら、アレフさんはよそ見をして言いました。
うん?何か気にかかる事でもあるのかしら。
アレフさんの視線を、それとなく追うと。
頭からマントを被った方が店に入って来るのが分かりました。
どうやら女性のようですけど?
その方はお客さん達に紛れ、奥間ったテーブルに着かれたようですが。
「後は・・・明日に備えて休養を取るとするか」
女性には関心が薄れたのか、何食わぬ声でアレフさんが宣言されました。
「そうですね。明日からまた忙しくなるのでしょうから」
ワタクシも女性から顔を戻して頷きます。
明日の朝には、必ず教団を元へとアレフさんは向かう筈です。
今日一日で仕入れた情報を元に、メシア教団から娘さん達を救出する為に出発されるでしょう。
「まず間違いなく、タロットを使う事になるだろう。
その為には早めに給養を取らねばならんのだ」
「ですよね。早めに休みましょう」
ニヤリと哂うアレフさん。
言葉の意味を<休息>だとばかり思い込んでいるワタクシへ。
「部屋は何処だ?直ぐに向うぞ」
「あ、はい。最上階の貴賓室らしいですよ」
ワタクシが宿屋さんに教えられた部屋を答えると。
「よし、下僕シスターよ。案内しろ」
先に立って連れて行けと仰られます。
「カウンターで鍵を貰って来ますね」
テーブルから立ち上がったワタクシが、何気なくマントの女性を観た時。
ー え?紅い瞳?
マントから覗くのは、ワタクシと同じ様な紅い眼だったのです。
いいえ、紅いというよりは。
「紅く光った?マントの蔭なのに?」
光を反射する筈が無い筈。
だって被ったマントが影を造っていたのに・・・です。
女性の眼を観たワタクシは、何か薄ら寒く感じてしまいました。
「おい下僕シスター。早くしないか」
「え・・・あ、はい」
アレフさんは気が付いていないのでしょう。
妖し気な女性が見詰めているのを。
気にはなりましたけど、きっとワタクシの勘違いなのだと思い直す事にしました。
こんな時はアレフさんの直感に頼る方が得策ですので。
カウンターに寄って宿屋の御主人から部屋の鍵を受け取ると。
「はい・・・え?」
貴賓室の鍵は一つ・・・だけ?
「あ、あの?一部屋だけなのですか?」
「連れの方が大部屋をご希望でしたので。
一部屋って言っても、寝室は二つありますのでね」
なんですとぉ~?!聴いていませんッ!
慌ててアレフさんの元へ戻り、どうして相部屋なのかを質します。
「アレフさん!どうして一部屋だけなのですか?!」
「何を騒いでいるんだ。
お前は俺の下僕で、俺様の身の回りの世話をせねばならんだろうが」
いやあの。下僕だからって、相部屋は無いでしょうに?!
「いちいち煩い奴だな。
相部屋だろうがなんだろうが、外で寝るよりは危険ではないだろうに」
いやいや。アレフさんと同部屋の方が危険ですってば。
あっさり言い切られて、ワタクシは開いた口が塞がらなくなっちゃいました。
「今宵は、ゆるりと休もうではないか。なぁ下僕なシスター」
「休めるか・・・甚だ心配です」
身に迫る危険が、こんなとこにあったなんて想いもしませんでしたよ。
大き目の声で宣言されて、ワタクシは動揺を隠せずに身を固くしてしまうのでしたが。
アレフさんは、ずっとどこかを観ているような・・・って?!
細めた目は、ワタクシの身体を?
いやだけど、そんなストレートな?
「まさか・・・身の回りの世話って?」
嫌な予感と、最悪な展開を想像してしまいます。
でも、ワタクシが話しかけても視線はワタクシを見詰めて?
いませんね・・・通り越しているようですけど?
「ああ、きちんとたためよ。
一張羅なんだからな、黒の召喚術師様の衣装は」
「は?」
間の抜けた声で訊き返してしまいましたよ。
緊張していたのに、全く見当はずれな答えでしたから。
「言っただろうが!身の回りの世話をしろって」
「はぁ?服をたたむくらいなら」
いやもう、人騒がせな人ですね。アレフさんってば!
他愛もないことを喋りながら、食堂を後にするワタクシ達。
階段を登って行く姿を、彼女が観ているのも気に掛けず・・・
「はい。それじゃぁ衣装ケースに仕舞いましたからね」
最上階の部屋は、宿屋の御主人が言っていた通り広かったのでした。
リビングと寝室、それに簡便な浴室がありました。
「お休みになられるのなら、こちらの寝室をお使いくださいね」
ダブルベットのある一室をアレフさんへ勧め、ワタクシはいそいそと退出します。
「明日の朝には目覚ましに参りますので」
ドアを閉じる前に、
「良いですか?絶対に覗いたりしたら駄目ですからね」
って、断っておくのも忘れませんでした。
バタン
ドアを閉じると、ワタクシはいの一番に浴室へと駆け込みます。
流石、最上級の部屋だけはあります。
浴室にはシャワーが備えられてありました。
「やった!汚れを落とせる」
髪や身体を洗い流せるなんて、何て幸運!
「アレフさんが覘きに来ない間に!」
あのアレフさんの事ですから、いつ覗きに来るか分かりません。
ワタクシは変装の為に買い与えられた服を脱ぎ払うと、黄色いリボンを解いてシャワーのコックを捻りました。
シャ~・・・パシャパシャ・・・
バスタブの中で、ワタクシは上機嫌です。
旅の汚れも、疲れさえも洗い流せるみたい。
程良い水温が、尚更に高揚させてくれました。
「ふん・・・ランラ~ン♪」
思わず鼻歌を歌っちゃいます。
角先からつま先迄、お湯を流して洗い清められたのがこんなにも嬉しく思えるのは、この旅が辛い事の連続だったからなのでしょうか。
こうしてシャワーを浴びれているのが、奇跡にも思えてしまいます。
腰まで伸びた蒼銀髪、同じ年頃の女の子より大きめの胸。
細身の腰回り、引き締まったお尻。
小股から伸びる太腿と、つま先まで。
「ワタクシは・・・生きてる」
水滴が弾けて踊りました。
まるで自分が生きているのを誇るかのように。
「ありがとうございます、聖龍の神様。
ワタクシはこうして生きていられます」
神様の加護に感謝し、旅で知った出来事に想いを馳せたのです。
「よいこらせっと」
浴室から出てもう一つ備えられてあったベットへ転がり込みます。
「明日も早いから・・・寝ちゃおう」
いつまたこうしてベットで休めるのかなんて、分からないですもの。
ふかふかのシーツに包まると、昼間の疲れで瞼が重くなってきます。
「それに・・・アレフさんが襲って来ないとも分からないから」
多分。
それは大丈夫な筈です。
どうしてかと言いますと?
「さっきドアの隙間から観たら、ぐっすり寝てたもんね」
・・・
・・・あの。
ワタクシが覘きを働いたなんて、思わないでくださいね。
これは立派な正当防衛なのですから。
寝込みを襲われちゃぁ適いませんもの。
「と、いうことで・・・お休みなさぁ~いぃ」
シーツに包まると、もうそこは夢の中。
あっという間に、睡魔さんがやって来てしまいました。
すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・
まるで子供みたい?
でも、仕方ないでしょ?お腹も満たされ、疲れていたんですから。
ワタクシが寝息をたて始ると、
ギィ
何かが蠢き始めたのです。
「やっと・・・眠ったか」
そう・・・誰かが部屋へと入って来るのです。
身に迫る危険も知らず、眠る蒼銀髪の少女・・・
音もさせずに近寄り、見下ろしているのは?
「もうすぐ・・・俺様の夜宴が開幕するぞ」
アレフ?
いいえ。
片方の眼が金色に光るオッドアイで見下ろしているのは?!
お風呂回・・・コレで一旦は終了ですが。
また、次回も何かが起きるかな?楽しみです~!
誰かがって?!
アレフ以外には居ないのでは?
さて、一体何がおきるのでしょう?
次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act8
もしも、2人に宿る者が支配していたら?どんな夜宴になるのでしょうね?




