<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act6
階段を登り、二階が見える位置まで来ると。
「奴等が教団の関係者だな」
先に立つアレフさんが、誰かを見つけたようです。
「勧誘員達の姿は無いが、いけ好かない男が居るぞ」
いけ好かないって言ったって、アレフさんが男性を好むとも思えませんけど。
「どうなさるのですか?」
幾らなんでも、いきなりタロットで強襲するのは考えものです。
「前に言った通り。お前を連れて来たと言う」
「ええ~っ?!本当に入信させようなんて考えてませんよね?」
アレフさんは、ワタクシを出汁に話を切り出そうと言うのです。
「当たり前だ。
教祖の情報や娘達が何処に居るのかを探るだけの話だ」
ほッ・・・アレフさんの事だからワタクシを娘達同様に捧げるんじゃないかと思いました。
「事の次第によっては、お前を囮にするかも知れんがな」
「やっぱり~?!囮にされちゃうんですか?」
信じ切れない処が、アレフさんらしいです。
もしかしたら、アレフさんはワタクシを囮にする為にここまで来たのではないかって。
「まぁ、相手次第だ」
「やめてくださいよぉ~」
縋るような目でアレフさんを観るのですが、気にもかけて貰えません。
「どっちに転んでも、俺様が救ってやる」
「・・・・」
本当ですかぁ?
思わずジト目で観ちゃいますよ。
言いたい事は山ほどもあるのですが、アレフさんは完全に私を無視して階段を登り詰めるのです。
「ここはメシアとかいう生き神様の教団だと聞いて来たんだが」
開け放たれてあるドア越しに、机に向かっている男の方が見えます。
「娘を連れて来た。詳しい話を聴かせてくれないか」
今迄の情報を元に、アレフさんが訊ねたのでした。
ワタクシはアレフさんの蔭から男性を観ます。
机に向かっているのは、年の頃50代半ばと思われる紳士。
きちんと衣服を正されている、恰幅の良い白髪交じりの髪を短く刈った人でした。
「入信をご希望ですか?」
机の上から顔を挙げた男性が、ワタクシ達を一瞥して訊いて来ました。
「入信するに足る教えなのか。
それに教団の骨子も聴かせて貰いたい」
手始めにアレフさんが訊いたのは、この教団がメシアという教祖を如何に扱っているかという事。
新興宗教に良くある、紛い物の教えかどうかを探っているようです。
「我々のことをご存じではないようですね。
我がメシア教団は、生き神様を祀る集団なのですよ」
「それは知っている。
俺が訊きたいのは、ここが生きる者にとって必要なのかを質したのだ」
紳士の答えに不満なのでしょうか。
アレフさんはやや大きめの声で訊くのです。
「勿論ですとも。
救いを求める方々へ、ありがたい奇跡を齎されるのです。
あなたが仰る教祖様ですが、私共は救世主様とお呼びしているのですから」
質問に答える紳士さんは、手慣れた言葉でアレフさんの問いをかわそうとされます。
「ならば・・・だ。
なぜ娘達をかき集める。どうして娘だけが必要なのだ?」
「いえいえ。男性方も入信されておられます、私のように」
反論する紳士さん。
「ふむ・・・言い方を変えようか。
下々の勧誘員達に娘を連れて来させた後のことだ。
連れて行く先には何がある?娘達はどのような修行を行っている?」
対してアレフさんも負けじと質します。
「勧誘員?
いえ、あれは道に迷う子羊達を連れて参る使者ですよ。
多くの迷い人に救いの手を挿し伸ばす、天の使徒とでも申しましょうか。
兎に角、入信した娘達は、救世主様の元へと参る事になります」
応える紳士は、動じる事も無く言って除けたのです。
ワタクシ達が見聞きした勧誘員さん達の話とは大違いですけど。
「ほぅ?娘達はメシアの元へと行くのか。
それで、どのような修行を行っているのだ」
きっとアレフさんも気が付いている筈です。
メシアと呼ばれる人物の元へ向かえば良い筈だって。
その前に何を行っているのかを問うのには、理由がある筈なのでしょう。
「娘が神に仕えるに相応しい姿へと変わる手伝いを為されておられるのです」
「神に仕えるだと?修道女としてか、それとも下僕としてなのか?」
ほら。アレフさんは端から疑っておられるのです。
いかがわしい勧誘方法から鑑みて、アレフさんは娘達がどうなっているのかを案じられたのでしょう。
「それは私共、末端の者には分かりかねますが。
聴いたところに拠れば、生き神様である救世主様が奇跡を与えてくださるとか。
死を超越した存在となり、救世主様の手となり足となって仕えるようになるそうです」
奇跡ですか?
それはどんな物を指すのでしょう。
それに、気になるのは。
「死をも超越するだと?
まさか、メシアの奇跡って言うのは魔法の類なのか?」
同じ想いだったのでしょうか。
訊き返すアレフさんの瞳は、鋭い光を放ったように思えました。
「魔法ではございませんよ、奇跡だと申し上げたでしょう。
聴いたところに拠れば、娘達は救世主様の忠実なる使徒と化すと言われております」
「使徒・・・か。ナルホドな」
答えられたアレフさんは、何かを掴まれたのでしょうか?
ワタクシには皆目見当もつきませんけど。
「それでは。後ろに控えられておられるお嬢さんを入信させられるのですね?」
話が一旦終わったと思った紳士さんが、ワタクシを指して訊ねたのです。
「いや、まだそうとは決めておらん。
もう一つだけ訊きたいのだが。教団の本部は何処にある?」
「信者の集われるのは、街からほど近い岩山の洞窟です」
教団の集会所でしょうか。紳士さんは疑いも無く言って除けられました。
「ふむ。
そこには救世主が居るのか?」
眼を細めるアレフさんが続けて質問しますと。
「いいえ、普段は洞窟の上にある岩山の頂上にある城の中に居られる筈です」
紳士は、アレフさんの目的だった居場所を教えてくれました。
そうです。これが訊きたかったのですから。
「そこに・・・娘達も居るんだな?
救世主と娘達は岩山の城・・・間違いないな?」
「ええ、そうだと聴いておりますが?」
アレフさんの口元が歪みました。
はっきりと分かるくらいに。
「今からその城迄向かうとしたら、どれ位の時間が必要だ?」
「今から?何を仰られるのですか。
夜更けになるのに入れる訳もないではないですか」
夜更けってことは、時間にして3時程も必要なくらいかな?
「そうか。それでは洞窟になら入れるだろう?
信者達が集う場所なんだ、夜間であっても祈りを捧げることくらいは出来よう?」
「城に繋がる洞窟なのですよ。
入れるのは上達者か、若しくは救世主様の使徒ぐらいなものです」
ニヤリ・・・アレフさんが嗤いました。
どうやら、考えが纏まったみたい。
ー ・・・でも、ワタクシも嫌な予感が奔ったのはなぜ?
くるっと紳士さんに背を向けたアレフさんが、
「帰るぞ!」
唯の一言。
ワタクシにというより、紳士さんへと向けて。
「あ?!あの!入信は?」
哀れな紳士さんが、引き留めようとされますが。
「必要などない。
この教団は遅かれ早かれ消滅する筈だからな」
教団が消滅するってアレフさんが仰られたという事は?
「お前達の救世主とやらは、日を措かずに消えているだろうよ」
やはり・・・アレフさんらしい物言いですよね。
「何ですって?」
慌てる紳士さんへ一瞥を投げると。
「行くぞメイドシスター」
「え?!あ、はい」
慌てるワタクシを置いて、さっさと歩き出されるのです。
(注・画像は鉛筆線画です、真っ白けですみません)
もう用は済んだから、ワタクシに帰るぞと言われたのです。
「待て!お前達は一体?」
紳士の口から悪態が零れだします。
「俺か?俺は・・・勇者様だ」
それに返すアレフさんも、嘲るように答えました。
「勇者アレフ・・・知っている奴は知っているぞ」
最期に名を仰るのでした。
でも、ワタクシは知らなかったのですけどね。
黒の召喚術師でもあるアレフさんが勇者として勇名だなんて。
木造の教団事務所から出たら星空になっていました。
「もうこれで良いだろう。
今晩は、街で泊まる事にする」
アレフさんは即刻向かうとは言わなかったのです。
どうしてなのかって?
「いくら俺様でも、腹が減ったぞ」
う・・・言わないでください~!
「お前だってそうだろう?」
はいぃ~、お腹ペコペコリンですよぉ!
「夕方は喰いそびれちまったからな。
宿屋で景気づけに食べまくらねばならん!」
「食べまくるって・・・程々で良いですから」
お腹に入れないと、立ち眩みが襲って来そうなのです。
「それに、一晩。十分に英気を養わんといかん」
「ええ、ゆっくり眠りたいですね」
こんなアレフさんを観たことが無かったのです。
言葉使いは荒いのですけど、なんだかワタクシを気遣ってくれている様にも感じられたのですから。
「俺様は眠気より食い気だぞ」
「はいはい。お好きなだけどうぞ」
ニヤリと哂われるアレフさんの言葉を鵜呑みしたワタクシ。
アレフさんの食い気ってモノが、如何なるモノかなんて考えもしなかったのです。
「そうか?ならば・・・良い様にさせて貰うぞ」
「食べ過ぎには注意してくださいね~」
はいはいと、手を振って応えるワタクシを観るアレフさんの眼が光ったのですが。
ワタクシには理解出来ませんでした。
「先ずは腹に詰め込むとするか。
宿屋のお勧めを全て制覇するからな」
「またもぅ!無理ですってば!」
朗らかな声に、ワタクシも載せられてしまいます。
少なくても今晩は、闘いの前の静けさを味わう事が出来るのだと思って。
あの服屋さんに預けておいた神官服を返して貰い、一直線に宿屋さんへ足を運びました。
宿屋さんに辿り着くや、アレフさんは金貨を店主さんへ放り投げて言ったものです。
「旨い物を全部出せ!」
・・・ってね。
カルクルムの街中にある一軒の宿屋さんで、アレフさんの夜宴が始ったのは言うまでも在りませんよ?!
そうです、彼の夜宴が始ってしまったのです。
ワタクシにとっては、悪夢のような夜の始まりとなるのでしたけど・・・
不憫なのは、受付のおじさん?
何食わぬ顔で、情報を引き出したのは流石と言いましょうか?
そして損な下僕シスターはご主人様の餌食になってしまう?!
いや、夜宴と言っても・・・食欲魔人になるだけです。
しょ・・・食欲魔人?!
次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act7
きっと、彼らの胃は異世界に通じているんだな・・・たぶんW




