<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act5
教団のアジトに侵入した二人。
目の前にある木箱をこじ開けたアレフは?!
損な子の出番のようです!
ひっそりと置かれてあった木箱には、聖なる魔法書が隠されてあったのです。
どうして妖し気だと思われる教団に、聖なる魔法を伝授する書があるのか。
なぜ木箱の中に仕舞われてあったのか。
「もしかすると、ワタクシ達の思い違いだった?」
聖なる魔法書を置いてあるなんて、ここは妖しい教団ではないのかも知れないと思ったのです。
「此処に記されてある紋章には、傷を治す力が秘められてあるみたいですもの」
きっと、怪我を負った方へ魔法治癒を施す為に、能力者へ伝授されようとしていたのでしょう。
「この紋章には、ワタクシの持つ治癒能力の倍以上の力が記されていますから」
シスターになって授けられた魔法は、回復魔法師としては駆け出し位のものでした。
治癒系の魔法にもランクがあって、その初歩を授けて頂いているに過ぎないワタクシ。
目の前にある魔法書には、その数倍もの威力があるようなのです。
「この魔法書にある紋章を授けて頂ける異能者は。
ワタクシなんかよりずっとレベルの高い方か、牧師クラスですね」
ですから、この魔法書をワタクシが伝授出来るとは思えません。
駆け出しのシスターになんて、身分不相応な魔法だからです。
それまで黙って魔法書を観ていたアレフさんでしたが。
「お前には聖なる魔法が使える筈だ。
下級でも伝授出来るかも知れんぞ、メイドシスター・レーシュよ」
手に取ってみろって言うんですよ?
無茶にも程がありますってば。
「無理無理!ワタクシになんて畏れ多いです」
勧められても、おいそれとは手を出しかねます。
「仮に間違って触れでもしたら、それこそ天罰が下るかも知れないんですよ?」
「やってみない事には分からんだろぅが!」
ワタクシが断っても、アレフさんは平然と言うのです。
簡単に伝授出来るとでも思っているのか、他人事のように仰るのです。
「そんな容易く魔法を伝授出来る筈が無いでしょう?」
だって、倍にも相当する魔法ですよ?
怪我の度合いにも由りますけど、殆どの傷ならたったの一回唱えただけで回復するような魔法ですよ?
今のワタクシに備わっている治癒力の倍以上の魔法が放てるようになるのですから。
「魔法書に触れてしまえば、どんな罰が墜ちるか分からないんですからね」
魔法書って、相応しく無い者が触れたらいけないのです。
伝授出来るだけの魔力が足りなかったら、忽ち吸い取られてしまうって聞き及んでいます。
無謀にも手を出した人が、魔力を吸い取られて廃人と化したって話も聞いた事がありますからね。
まだ、旅を続けなくてはならないのに、そんな目には遭いたくは有りません。
きっぱりと断ったんです。
触れるなんて出来ないって言ったのに。
「罰が堕ちるって?
どんなものか、見せてみろ!」
と・・・アレフさんの肩に手を掛けたままだったのを思い出した時には。
「え?」
載せていた手を掴まれた後だったのです。
「ま、まさかッ?!」
強引に手を掴まれ、そして・・・
「ほれ、触れたぞ!」
「ひぃ?!ぎゃッ!」
手に強力な魔力を感じました。
つまりは・・・
「無理だって言ったのにぃ~!」
ワタクシの手に魔法書が?!
聖なる紋章が、描かれてあった紙片から浮き上がります。
「た?!たすけ・・・」
脳裏に無謀なる者の末路が浮かんでしまいました。
ワタクシも、同じ末路を辿るのかと。
魔力の足りない者は、魔法書に力を吸い取られて生きる屍になる・・・
「は?!そういえば。
あの勧誘員さん達も言っていたのでした。
ノルマを達成できなかった方も、廃人と化したって・・・」
それでは、この魔法書を触れさせられて?
まだ、確かだとは言えないですけど、可能性はあるみたい。
・・・・って。
そんなことより、ワタクシも同じ目に遭うの~?!
「やだやだやだぁ~!死にたくないよぉ~!」
無我夢中で魔法書を手から振り解こうと藻掻いたつもりでした。
「魔力を吸い取られちゃう。
生きる力も奪われちゃうなんて、絶対嫌だぁ~」
必死で叫んでみたつもり。
だったのですけど。
なんだか、変な気分になってきます。
自分が自分じゃないような。
誰か他の人達が勝手に魔法の伝授を交わしているような?
頭の片隅に聞こえて来るのは、紋章の声に応対しているワタクシとは<違う>声。
耳を澄ますのではなくて、頭を澄ましてみると。
「「良いだろう、受け取ろう」」
ワタクシではない声が受けるって?
「「まだ早いとは思われますが、必要とあれば」」
紋章が肯定している?
「「この後、必ず役に立つ」」
そりゃぁ、治癒力を引き上げられるのなら。
「「我が魔法は、黄泉路を彷徨う者達にも効果がありますぞ」」
「「然り。邪なる死者には攻撃魔法となる」」
なるほど、聖なる治癒力は闇の者達には真逆の力ですものね。
・・・
・・・・
・・・・・
って?!誰なのよぉ~?
頭の中で勝手に会話しないで!
混乱したワタクシを余所に、誰かと紋章は交渉を終えたようで。
「「ならば。授けましょう」」
「「受け取ろう」」
だからぁ!勝手にぃ~・・・へ?
二つの声が消えた後、ワタクシの中に強力な魔法が埋め込まれたのです。
いいえ。はっきり分かったのは魔法の文字が読めたのです。
「ヒィーリング・ラツィエル・・・・」
天使の名を冠した強大なる魔法。
只の一回施すだけで、瀕死の身体を回復し得る極大治癒魔法。
もしも、邪悪なるアンデットに放ったのなら、忽ちにして死せる者へ戻せる攻撃魔法となるのです。
ワタクシが意味を理解して行使出来るのなら・・・でしたけど。
「おい?メイドシスター」
「ほぇ?」
魔法書に触れてしまったワタクシを呼ぶのは。
「どうなった?罰が下ったのか?」
「ほぇえぇ?」
アレフさんに呼ばれて、自分を取り戻せました。
「どうもこうも。何も起きなかったみたいですね」
確か、瞬間的に気を失ったみたいでしたが。
「ほらみろ。やってみない事には分からんだろうが」
「そ、そうみたいですね~」
呼び覚まされたのは間違いではないのですけど。
「魔法書だか何だか知らんが。
お前が触れたらこうなったぞ」
アレフさんはワタクシの手から紙片を剥ぎ取って突き付けて来ました。
「あ?!アレフさん!危ない真似は・・・・え?」
突き出された紙片は、唯の紙切れ。
そこに描かれてあった紋章は、影も形もありません。
「ど、どうなっちゃったの?」
何も書かれていなくなった魔法書を観て騒ぐワタクシへ。
「どうもこうも在るか。
お前がこうしたんだろうが!」
「ひょえぇ?!」
一体全体どうした事でしょう?
確かに気を失っている間に、頭の中で誰かが受け取っていたように思えたのですが?
「ワタクシに聖なる力が授けられたとでも?」
「そうじゃないのかよ?」
ブスッと一言。
アレフさんに言われて、もう一度魔法書に目を向けると。
「もしも授かったのなら・・・使えるのかな?」
魔法が授けられたのなら、何かで証明しなければ分かりません。
「アレフさん・・・死にかけて貰えませんか?」
「お前・・・聖なる魔法じゃなくて、黒魔法を授かったんじゃぁ無いだろうな?」
言葉のあやですってば。
「いえ、そうじゃなくって。
物凄い魔法を授かったかもしれないモノで。
瀕死の怪我人を一回の詠唱で回復できるかもしれないので」
「ほぅ?強大な治癒魔法か?」
そうなのですよアレフさん。
もしかしたらワタクシは賢者様に成れたのかも・・・成れっこないですよねW
ヘラって笑みがこぼれちゃいました。
「お前・・・なにか良からぬ想像をしてないか?」
「い、いいぇえええぇ~。別にぃ~」
図星を突かれて、ワタクシは苦笑いします。
黒の召喚術師のアレフさんと賢者相当の治癒力を持つシスターなワタクシ。
それが本当なら、ペアとしてはかなりの有力さを誇れるのでしょうけど。
「まぁ、実力の程は初心者なんでしょうけどね」
強力な聖魔法が授けられたにせよ、ワタクシは冒険者初級には変わりがありませんもの。
木箱に納められてあった魔法書は、ただの紙切れになってしまいました。
本当にワタクシに授けれられたのか、それとも夢の中だけの話だったのかは、まだ分かりません。
ですけど、何者かの力が左様していたのは間違いなかったのです。
当のワタクシにも図りようのない、何かの力が動いたようです。
でも、不思議だったのは。
アレフさんが何もかも分かっていたとでも言うのか、深く追求して来なかった事です。
魔法書の紋章が分からない筈が無いというのに、知らぬ振りをしていたのにも。
きっと勇者アレフさんの事ですから、素っ惚けていただけかもしれませんけど。
そして、もう一つ気になったのは。
気を失う時考えた事。
メシアという人物が魔法書を使って、死人同然の方を造っていたのではないかとの嫌疑。
だとしたら、魔法書が消えた今。
再び生ける死人は生み出されなくなったのかも知れません。
本当にワタクシの考えた通りだとすれば。
残された疑惑は一つ。
「よし。
次は娘達を攫った理由を調べるぞ!」
アレフさんの出番が回って来そうです。
勇者であるアレフさんの目的は、攫われた娘さん達の解放にあるのですから。
「はい!それからメシアという人物についてもですね!」
カルトな教団なのか、それとも単なる新興宗教団体なのか。
その教祖は、一体どんな人なのでしょう?
ワタクシ達は階段を登った先に何があるのか、誰が待つのかを知りもしませんでした。
ありゃま?!
紋章を受けて強力な治癒魔法師となったかに思えましたが?
呪文を行使できる状況ではないようで・・・・
この魔法がいつかは使われるでしょうが、今は教団の謎を追い求めなければなりません。
二階に待つ者とは?
果たして?
次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act6
メシアとは?教団に攫われた娘達は?二階を登った時に出遭うのは?




