<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act2
宿屋に入った主従(?!)
そこに待っていたのは・・・事件の発端?
今夜の宿を決めたワタクシとアレフさんは、一階の酒場で食事を摂る事にしたのでしたが。
「おい、下僕シスターよ。
少々胡散臭い奴等が居るみたいだぜ」
テーブルに着くや否や、アレフさんの眉間に皺が寄ります。
丁度向かい合わせに席を取ったワタクシを通り越して、後ろに居る人達を睨んだのです。
アレフさんの表情から察するに、悪意のある人達なのでしょうか?
何気なくを装って振り向こうとしたら。
「向こうを観るな馬鹿者」
アレフさんに怒られちゃいました。
「お前は聞き耳をたてておけば良い。
俺が奴等を睨んで於く・・・分ったな」
「あ・・・はい」
余程気に入らない人達なのでしょうか。
表情を緩めることなく、ワタクシを通り越して睨んでいるのです。
「一体どんな人達なのですか?」
「お前を小馬鹿にした新興宗教の信者達だ」
ブスリと答えるアレフさん。
そう言えば、此処に来る前に街角で布教していたら、メシアがどうとか言われていたのを思い出します。
「救世主とかいうメシアを信奉する方達ですか?」
「そうだ」
教えてくれたアレフさんはご機嫌斜めのまま。
どうしてそんなに怒っているのでしょう?
なにが気に喰わないというのですか?
新興宗教を信じられているってだけで怒っているんじゃないでしょう?
「アレフさん・・・何が胡散臭いと言われるのですか?」
「奴等の言う事を聴いていれば判る」
ぶっきらぼうなアレフさんの答えですが、後ろの人達が何を話しているというのでしょう。
言われるままに耳を澄ましてみますと・・・
男の方の声が聞こえてきました。
「まぁ、一番良いのはよぉ。
メシア様の元に娘を行かせれば、近い内に巫女にしてくださるよ」
ああ、なるほど。
入信して修行を積まれれば、巫女と呼ばれるシスターにもなれますよね。
ワタクシが修道女になれたように。
男性が話しかけているのは、多分まだ新興宗教に入信していない人なのでしょう。
話しかけられている方が答えずにいると、今度は女性の声が聞こえてきました。
「娘さんも、アンタのような商人の娘でいるよりずっと良い暮らしが出来るようになるんだよ?
私等が勧めてるのはアンタの為もあるけど、娘さんの将来を案じて言ってるんだよ」
うう~ん?修道女が良い暮らしを送れるのかは判断しかねますけど。
なんだか、強制的に入信を迫っているみたい。
「しかし・・・娘を差し出すというのは・・・」
入信を迫られた方は、自分独りでは決めかねると答えたのですけど。
「何言ってんだよアンタ!
ぐずぐずしてないで娘を呼んで来なよ」
「そうよ!私等がアンタの娘に言い聞かせてやるわ」
二人が揃って脅迫じみた勧誘を行っているのが、やっと分りました。
これは入信者を勧誘するにおいて、絶対にやってはならない行為なのです。
「は、はい。呼んで来ます」
後ろから勧誘されていた人が席を立つ音が聞こえてきました。
余程怖かったのか、脅えるかのように走り去る音も。
胡散臭いとアレフさんが仰られたのも納得です。
宗教関係者として、これは赦せない行為だと思いました。
知らず知らずの内に、握り締めていた手が錫杖へ伸びていくのを。
「やめておけ下僕シスター。
もう少し奴等の話を聴こうじゃないか」
アレフさんが停めるのです。
「奴等が何を考えて娘を寄越せと言ったのか。
なぜ娘を強制的に差し出させようとしてるのかが分かるかも知れん」
ワタクシの勇み足を停めるアレフさん。
言われてみれば、訳も分からず怒ってみても相手には通用しませんものね。
ちょっと・・・アレフさんを見直しちゃいました。
手を出すのは辞めにして、まだ店に居る勧誘者の男女からの情報を聞き取る事にしました。
「上達者から、矢のような催促だ。
なんとしても一両日中に3人の娘をかき集めないとな」
「そうしなきゃ私等の首だって危ないんだから。
ノルマを達成出来なかった奴等がどうなったのかを観たでしょうに」
二人はどうやらカルトな宗教に身を置いているみたいです。
勧誘のノルマがあるだなんて、普通の宗教ではありませんね。
「もうこの街の住人からは取立てれないし、そもそも娘の数も少ないからねぇ」
「何を呑気に言ってるんだよ、俺はあんな姿になんて成りたくはねぇぜ」
女性は半ば諦めの声を出したのですが、男性は叫ぶように反対します。
「ノルマを熟せられなかった奴が、生きる屍になっていたのを観ただろう?
俺はあんな姿にされるなんてまっぴらだぜ」
はて?生きる屍ってどんな姿なのでしょう?
「そうよねぇ、教祖様に背いた罰として。
生気を吸い取られた挙句に捨てられちゃうんだもの。
あの後、多分あの人は・・・」
本当に死んでしまった・・・とでも、言われるのでしょうか?
・・・って。
待ってくださいよ?
「アレフさん、生気を吸い取る魔術なんてあるのでしょうか?」
人の生気を吸い取れる方法なんて、魔術以外には考えられなかったから。
「あるにはあるが。人の業では無理に近いと答えておく」
「え?!人には無理・・・じゃぁ?」
アレフさんの答えから導く答えは。
「そうだ下僕シスター。
奴等の教祖とやらは・・・魔物の類だ」
「魔者なのですか?!」
アレフさんは魔物と言われましたけど、ワタクシは教祖の姿を人型だと認識して魔者だと言ってしまったのです。
ワタクシの想像する魔者とは、悪魔の眷属か若しくは・・・
「悪魔・・・そのものなのではないのですか?」
悪魔。
それは人為らざる者にして、異形を模る者とも呼ばれています。
神に相反し、人を貶めるとも呼び習わされているのです。
もしも彼等の宗教団体が、悪魔に組織されているのだとしたら。
「この街や周辺に、酷い惨劇が齎されてしまうかも?!」
思わず声に出してしまいました。
「お、おい下僕シスター?!」
止めに入るアレフさんが慌てましたが・・・後の祭り。
「悪魔に魅入られた宗教に勧誘するだなんて!」
言ってしまってから気が付いたのです。
アレフさんが顔を手で覆っておられるのに。
「・・・あ」
背後からの殺気と言いますか、男女の痛い眼が突き刺さっているみたい。
「なんだぁ?!この糞異教徒がぁッ!」
「言って良いことと悪い事があるんだよ、アンタ!」
御二人方が、血相を変えて立ち上がられたのを感じます。
「この馬鹿下僕シスター」
呆れたように呟かれるアレフさん。
「情報収集が台無しだろう~が!」
あれ?そっちでしたか。
「す、すみませんッアレフさん」
どうやら、アレフさんは初めっから男女勧誘員を疑っていたようです。
胡散臭いって言われていたのですから、二人から情報を得ようとしておられたみたいで。
それをワタクシがおじゃんにしてしまった・・・てへ。
「てへ、じゃぁない!
こいつらの口から得られる情報を掴み損ねたんだぞ」
「ご、ごめんなさいアレフさん」
アレフさんから叱責を喰らうワタクシを観ていた男女の勧誘員が、
「なんだぁ?この娘はお前のメイドなのかよ?」
「その割に、横柄なものの云いようだねぇ?
主人の躾が悪いんじゃないのかしらねぇ」
ワタクシを責めるのではなく、アレフさんに言い募ったのです(やめておけば良いのに)。
「ぴく・・・・」
あ?!
アレフさんの眉間に青筋が?
ふっ・・・と、立ち上がったアレフさんが、恭しく帽子を勧誘員達に向けて脱ぎ去ります。
「わッ?」
その瞬間、ワタクシの中にあるトラウマが。
頑丈なテーブルの下に潜り込ませましたよ、ええ。
「こいつ等に俺が何様なのかを教えてやれ」
帽子を差し出し、手にしたⅠ番のカードを放り込むと。
「魔術師よ!こいつ等を摘まみ出せ」
タロットカードのⅠ番。
<魔術師>を意味する絵札が、召喚術師さんによって解放されました。
黒の帽子から伸びた巨大な手が、二人を摘まむと勢いよく。
ドガッ!
入口へ向けて放り投げたのです。
「ぎゃっ?!」
男女の勧誘員は、問答無用で表に投げ出されて行きました。
「おお~?!パチパチパチ」
これにはワタクシも拍手を贈ります。
あんな勧誘者に詰め寄られていた方の為にも、こうするのが良いのだと思えましたので。
「おお?!召喚術師なのかよ?」
「すっげぇ~?!」
店の中はやんやの喝采。
黒の召喚術師アレフさんを称えるやら、驚くやらで盛り上がったのですが。
「つまらんことをしてしまった。
主人、損壊させた物を直してくれ」
当のアレフさんは金貨を一枚テーブルに置くと、店を辞そうとしました。
「おい、下僕シスター。行くぞ」
え?!まだお料理も手をつけていませんよ?
「奴等がアジトへ案内してくれるだろうからな」
ほえ?まさか・・・アレフさん?
「気に喰わねぇとは思っていたが。
まさか、俺様の仕事相手だったとは・・・な」
はいぃッ?もしや?
「娘を攫う輩は、俺の仕事相手だろうが!
覚えておけよ下僕シスター。
勇者アレフ様は、娘を助け出すのが仕事なのだと・・・な!」
いぃいいぃ~?!そうだったぁ~!
「それに・・・お前も赦せないだろう?
救世主だとか名乗っておきながら、娘を攫う奴等の事が」
あ・・・
「それが聖なる者の務めでもあるんじゃないのか?」
それを言われたら・・・
「下僕なシスターに命じる。
俺様と同道して、邪なるカルト教団を殲滅しろッ!」
殲滅って・・・アレフさんW
でも、アレフさんならやってしまいそう。
「分かりました!
ワタクシも聖龍神のシスターです。
邪なる邪教を、放置なんてしておけませんから」
アレフさんについて行けば、きっと大丈夫。
黒の召喚術師に任せておけば、きっと娘さん達を救い出してくれるでしょうから。
「よし!奴等の後を追うぞ」
放り出した勧誘員達が、逃げ帰る先にあるのは、きっとアジトなのでしょう。
「はい!」
アレフさんに続いて宿屋さんから走り出ました。
勧誘員達の影を追い求めて。
二人が案内してくれる筈なのですから。
「一刻も早く娘達を救うぞ!」
振り向きもしないアレフさんの背中が、いつにもまして頼もしく思えたのです。
きっと眦を決して居られる事でしょう。
「でも・・・」
そう。でも・・・です。
「少しくらい食べたかったよぉ」
お腹が減って走るのもやっとなワタクシが居たのは、秘密ですよ?
お腹を押さえて走るレーシュの前に居るのは、勇者アレフ。
下僕なシスターに振り向かず、眉を垂らして考えるのは。
「むふふ・・・待ってろよカワイ子ちゃん達!」
救出場面を想って、独り満悦なる貌をしていましたとさ。
やっぱり・・・損な子は巻き込まれるのが定番です。
アレフは己が欲に奔り、レーシュは何も知らず。
そしてカルト教団に潜入する二人に待っているのは?
アレフ「この身形じゃぁ、面割れしてるからな・・・」
レーシュ「・・・身の危険を感じるのですけど?」
さて?どうするというのですかご主人様は?
次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act3
ああ・・・これでやっと。ヤット下僕シスターぽくなったかな?
ニャンと?




