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<Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act1

旅は道連れ、世は情け。


2人のでこぼこコンビが往くのは、果てしない旅路。

街道の先には、平凡な街がありました。


立て札に由れば<カルクルム>という街だそうです。

町並みは何軒かの商店を中心に、そこそこ賑わっているみたい。

商店の周りには屋台も出ていて、買い物のお客さんが品定めしていたりします。


まぁ、どこの街にもある光景なんでしょうけど。



「聖龍の神をご存知ですか?」


シスターであるワタクシの務め。

聖龍神の教えを布教するのが旅の目的の一つでもありましたので。


「大いなる白き龍の神は、人々を見守られておられるのです」


行き交う人々の前で、講釈を垂れるのですが。


「龍の神だって?そりゃぁ邪教じゃないのかよ?」


知らない人達は、ワタクシに向けて罰当たりなことを言うのです。


「とんでもない。聖なる龍神様は、人々の平安を願っておられるのですよ」


「はぁ?龍が人を見守るなんてある筈が無いだろ?

 龍なら人を喰っちまうのが筋ってもんだろうが!」


・・・どうやら、この街の方々は龍に対して偏見を持たれているようです。


「確かに邪悪なる龍も存在していますが、聖なる龍神様は人を食べたりしませんから」


初めに龍への偏見から解き放たなければ、布教もなにもありません。


「良いですか?

 聖なる龍神様は、白き龍で大いなる羽根を持たれています。

 天界から人々を見守り、邪悪なる者をその羽根で懲らしめるのです」


邪悪なる龍は、赤黒いか若しく鋼色の身体なのです。

それに対して聖なる龍神様は純白。

真白き身体と羽根だと教えられてきました。


「なんだよ羽根があるのなら飛龍じゃないか。

 天翔ける飛龍の中には蒼白い奴も居るって聴くぜ?」


・・・まぁ、確かに飛龍とも言えますけど。


「ん~っ、ごほん。

 飛龍とは違って、龍神様は空というより天界に居られます。

 ワタクシ達人族を、すべからく天界へとく導かれようとなされておられるのです」


「天界って、あの世の事なんだろ?

 やっぱり龍に喰われちまうんじゃないのかよ?」


・・・全然信じて貰えそうにありません。

挫けそうになったワタクシに、聴衆からトドメの一言が。


「俺達にはメシア様が居られるんだ。

 胡散臭い龍の神なんかより生き神様の方が、よっぽどありがたいぜ」


この方達は、生き神様のメシアとかいう人を信仰されているとおっしゃるのです。


「アシュランを今より豊かにして、ガイア大陸髄一の強国にしてくださるんだぜ」


もう一方も頷かれます。


「そうよ!どこの馬の骨だか分らない神を信じる馬鹿はいないわ」


ワタクシの前に居る小母さんは、これ見よがしに大声で嘲笑うのでした。



・・・酷いです。あんまりですよ皆さん。


もう、この場では何と訴えようが無理だと思いました。

残念でしたが、この街では布教など出来ないなって諦めました。


肩を落として引き下がるワタクシの背に、聴衆の蔑むような哂い声が伸し掛かってきます。


トボトボと歩くワタクシの目の前に、黒い姿が映りました。


「駄目だったんだろう?下僕シスター」


嫌味です。


「だから止せって言っただろうが」


だって・・・お務めですもん。


「気が済んだのなら、今夜の宿を取っておけ」


気が済むも何も・・・諦めましたよ。


「良いか?俺様は大層腹が減っている。

 料理の旨い宿屋にしろ・・・分ったな?」


また、いつもの御主人様威張りですか?


「良いなレーシュ。返事は?!」


ああ、もう。分かりましたよ。


「はい、アレフ様」


ワタクシは嫌々ながら返事します。

どうして、こんな殿方の下僕を務めなきゃならないのですか?


「分かったのなら、とっとと探してこい!」


「はぃいいいい~」


ホント・・・いちいち口煩い人です。



アレフさんをその場に残して、ワタクシは命じられるままにお宿を探しに行きます。

今日初めて辿り着いた<カルクルム>の街で。


アシュラン王国の北西部。

隣国ホライゾンとの境界に程近い街で・・・









母なる大地ガイア。

大いなる神が作られたとされる大陸には、人族の王が治める3か国がありました。

それぞれが協力する訳でもなく、忌み嫌う訳でもなかったのですが3つの国が産まれたのです。


ワタクシ達の居る東の国<アシュラン>は、荒ぶる王と呼び称えられるグスタフ王に治められていたのです。

農耕を主に営む平和な国家だと、教えられて来たのですが。

最近は魔族の出没も頻繁になって来て、平和だとは一概に言え無くなってしまったみたいです。


国内が物騒になって来たのと並行して、隣国からも不穏な動きを伝えられていました。


北の針葉樹が目立つ国<ホライゾン>が、常春の国である<アシュラン王国>に侵略行為を始めたのだとか。

表立っての侵略戦争ではないようなのですが、何度も越境を試みているようなのです。

その度に王都から軍隊が派遣されて、小競り合いが発生しているみたい。

そして問題は西にある国<メドキア>。


神聖なる神を祀る王国だったのに、いつの間にか軍事力を傘に支配地を増やそうと試みる軍事大国になってしまったのでした。

しかもですよ、彼の国は強力な軍事力の一部として龍を飼いならしている者が居るとか。

ワタクシは聖なる龍神様の信者としてシスターになったのですから、龍を飼いならすなんて畏れ多くて信じ難かったのですけど。

噂では、飼いならされているのは龍は龍でも神の眷属とは大違いの<邪龍ドラゴン>に過ぎないのだと聞き及んでいます。


ワタクシ達龍神の使徒が崇めるのは、神の眷属にして聖なる偉大なる力を以って平和に導かれる方。

決して人に飼いならされたり、他国へ攻め込む為に存在するモノではありません。


一見、平和で豊かそうに見えるガイア大陸にも、どうやら波風が起ちそうになっているのが現状だったようです。


挿絵(By みてみん)


そんな折、ワタクシは旅立ったのでした。

聖龍神の御教えを説く旅に。

聖なる教えを説き広め、一人でも多くの方に龍神様のご加護がありますようにって。


でも、ワタクシが本当に旅へ出た理由は他にあったのです。


蒼銀髪を結っている黄色いリボン。

頭頂部に結わえたリボンには、私の秘密が隠してありました。


赤味を帯びた白いつの

鬼の子のようにも採れる角が、ワタクシには付いていたのです。

初めて目にした方々は好奇の表情で観られるか、若しくは忌み嫌われてしまうかのどちらかでしょう。


まるで鬼か悪魔の様に観られるのは、幼い時から嫌なものでした。


育ててくだされた義父でありエルフ族の勇士<オルティア・アドナイ>が、親交の厚い人族で神父のスクエア様に相談の上で教会へとワタクシを預けてくれたのです。


教会でシスターとなる試練を積んでいれば、誰も悪魔だなんて言わないだろうと思われたみたい。

義父オルティアとスクエア様のおかげで、ワタクシは目出度くシスターになれたのでした。

ですが、そんな時にエルフの里に国王から命令が下されたのです。

義父であるエルフの勇士オルティアへ、西の国境を越えて来た蛮族を討ち平らげよとの勅命が下ってしまったのです。

大がかりな軍隊の派遣は見送られたのですが、一部の勇士達を募って侵入者達に充てたのです。


義父であるオルティアは、弓の名手として王の求めに応じたのでした。

百人ほどの部下を預かり、騎馬隊と任地へと向かっていきました。

出陣の夜、最後に目にした義父を思い出す度に後悔してしまいます。

なぜ、聴いておかなかったのだろうって。


ワタクシがどうして義父に育てて頂いたのか。

なぜずっと伏せられて来たのか・・・


ワタクシは一体何者なのかって。

本当のワタクシはどこの誰の子なのかって・・・


最後まで教えて貰えなかったのには、どんな訳があるのでしょう?



辺境に赴いた義父の所属した部隊が帰って来ないと分かった時。

ワタクシは決心したのです、義父を探しに旅に出ようって。


旅に出て義父を探す・・・それは自分探しの旅でもあったからです。

この角は、ワタクシが何者であるのかを教えてくれると思ったのです。

義父オルティアがどうして黙ったままだったのかも、なぜ育ててくれたのかも。

何もかもがワタクシ自身の手で、解明しなければいけないのだと考えたから。



今、ワタクシはスクエア神父様の元を離れ、旅路の途中にありました。


懐かしいエルフの里からも、教会からも遠く離れた<カルクルム>の街まで辿り着きました。


旅の途中で救ってくれた、黒の召喚術師アイン・ベートさんと共に。

いいえ、今は勇者アレフだと名乗られているようですけど。


召喚術師のアインさんは、何かの拍子に気絶するとアレフさんに変わるのです。

勇者を騙るアレフさんは、御主人様だと仰るんです。

助けて頂いたのは有難かったのですが、ワタクシを下僕扱いにするんですよ。

召喚術師としては確かに超一流みたいですが、威張り散らす変な処が玉に瑕。

もう少し気遣いってものがあれば良いんですけど・・・




<カルクルム>って街は、街道に沿って存在しているので、旅の人が宿を求めたりもするみたい。

だから、宿屋さんもあります。


探し始めたワタクシの眼に、さっそく一軒の宿が目に飛び込んできました。

どこにでもありそうな木造の建物に吊られた看板には、<旅の宿・カルクルム>とあります。

3階建ての宿屋の1階部分は酒場なのでしょうか、旅人以外の方も居られるみたいです。


「食事も出して貰えるのかな?」


格子戸の隙間から中を覗き込んで観ると、何人かが食事中なのが分かりました。


「ここならアレフさんの注文通りだよね」


食事のとれる宿屋だと分かり、早速呼びに行こうとしたのです。

ですが・・・背後に嫌な気配が?!


「遅い!主人を待たせるな下僕シスター」


振り向く迄も無かったようです。

気配の主はアレフさん。


「さっき言っただろうが!俺様は大層腹が減っているのだと」


「は、はぃいい。今お呼びしようかと・・・」


振り向くのも嫌な気分にされちゃうのです。


「ここなら食事も出して頂けそうなので・・・」


探していた宿屋さんだと説明しようとしたら、アレフさんはワタクシを残してさっさと扉を潜ってしまうのです。


「あ、あの?!アレフ様?」


入って行かれるアレフさんに、ワタクシはどうすれば良いのかを問おうとしたんです。


「ん~?ああ、そうだったな」


扉を潜られたアレフさんの手だけが伸びて来て。


「ほら・・・」


こっちへ来いと手招きしたのです。

ワタクシも宿に泊めて貰えるのでしょうか?


「俺様の下僕なら、仕えるのは当然だろうが」


・・・はぁ?


「下僕らしく俺様の供をしろって言ったんだよ」


・・・下僕らしくって、どうしろというのです?


ワタクシが黙っていたら、手招きが激しくなって。


「分からないのか?!

 俺様の身の回りの世話をしろって言ったんだよ」


・・・それってメイドの仕事では?


呆れてしまうワタクシに、アレフさんが。


「お前は腹が減ってはいないのかよ?

 いくらシスターでも一日以上食べていないだろうが?

 飢え死にしたくはないだろう、サッサと来い!」


昨日から何も食べていなかったのを思い出させられました。

でも、それってワタクシにも食事を与えるってことですよ?

路銀なんて、とうに底をついているワタクシには支払えませんよ?


「俺様の言う通りにしないのなら、表で一晩明かすが良い」


それって、ワタクシを招いてくれているのですね?

下僕だと言いながら、ワタクシも宿屋さんに泊っても良いってことですよね?


「別に俺はお前が飢えてひもじい想いをしたって良いんだぞ。

 俺の気が変わらない内にさっさと来ないのならな」


「分かりましたよ!ご一緒させていただきます」


ワタクシはアレフさんのご厚意に甘える事にしたのです。

口は悪いけど、きっと気を遣ってくれているんだと思い。


でも。

それがとんでもない思い違いだったのを、直ぐに判らされることになるんです。


だって、アレフさんはアクゼリュスな召喚師サモナーですもの・・・


王国西部で。

レーシュとアレフ主従(?!)は寂れた街に辿り着いたのですが。


そこには何かが待ち受けていたようです。


さて?一体何が?

次回は事件の勃発をご紹介します。


次回 <Pass11 荒野の果てに<<運命の輪>>>Act2

お腹すいたよぉ~(byレーシュ)

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