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七話

サナと二人での案件の話受けた時、打合せ場所が玲ちゃんの職場近くだったからお昼を一緒に食べようって話になった。シュウちゃんも誘おうと話たけど、サナがシュウちゃんは今日打合せがあると言っていた、なんて言ってて、サナには何でも話すんだなと思ってしまった自分が居る。


そんな彼女の話をしながら三人で歩いていた時、同世代位の女の子に手を引かれて走って行くシュウちゃんと目が合った。僕が名前を呼ぶより先にサナが彼女の名前を呼んでいたけど、聞こえなかったのか立ち止まる事無くシュウちゃんは去ってしまう。


「シュウカって走れるんだな」


サナの言葉に玲ちゃんと頷く事しか出来なかったけれど、僕達の他にもちゃんと友達が居た事には安心する。玲ちゃんは解らないが、僕もサナも友人と呼べる人間は少ないし、結局ゲーム実況者やネットで活動している人間としか交流がない一般人の友人は貴重な存在に変わりないから。


「そういやさ、俺の友達今戦地行ってんだけど手紙来たんだよ」

「連絡手段絶たれるって本当だったんだ」

「めちゃくちゃ環境の整ったゲーム実況者みたいな空間で毎日十時間ゲームしてるってさ」

「それだけ聞くと良い様に聞こえるんだけどね」

「玲居るのにこんな話ばっかしてごめんな」

「別にいいよ。アンタ達の今のホットワードじゃん」


僕達の中で玲ちゃんが居る時にはあまりゲームの話をしない様にしようと約束を立てている。それは彼女はゲームは好きなものの、僕達程では無いだろうから退屈させてしまうかもしれないと言う僕らなりの配慮だったりする。折角四人で一緒に居るのに僕らの仕事の話に付き合わせるのは違うしね。


しかし気になってしまう、今どの様な状況になっているのか。今の所どの国も目立った動きも無く、様子見が続いているとニュースでは言われている。そのうちゲームの様子がリアルタイムで見れる様になるともネットでは噂されているが、その感覚が少し気味の悪いものにも感じてしまう。幾ら人の命が掛かっていないとは言え、第六次世界大戦と言われているそれを、エンターテインメントの一種として扱うのはどうかと。真面目過ぎる考えかもしれないけれど、僕の友人だって今戦っているんだからそれ位言っても怒られはしないだろうさ。


ネット内で噂になっていた、選ばれたゲーマーに政府から届く黒い封筒に入った手紙、通称黒紙を友人から実際に見せてもらったんだけど、本当に真っ黒で、外見こそ禍々しい物だったが手紙の内容は至ってシンプルだった。シンプルだったからこそ、頭によく入ってくる内容で、それはゲーマーとしての死を覚悟させるものでしかったのだが。


「お昼何食べよっか?」

「俺豚カツ食いたいんだけどこの辺どっかいい店ある?」

「それなら彼処の角に豚カツ定食が食べれる揚げ物屋さんあるよ」

「そこにすっか。ユウさんもそこで良い?」

「勿論」


今日は豚カツらしい。サナは本当に肉が好きだと思う。この間も焼肉に行っていたし。サナと食事をする様になって肉と言うものをよく食べる様になった。それまであまり食べてこなかったし、どちらかと言えば苦手な食べ物だったんだけど、サナが美味しそうに食べる姿を見て食べれる様になったんだよね。


ポケットに入れたスマホの振動が長い。電話だろうと確認してみれば、母親からだ。


「母親から電話だからちょっと出てくる」

「あいよ。店あそこだから」

「サナと同じもの頼んどいて」


手を振って二人と分かれて応答ボタンを押す前に手が震えるのはいつもの事。心臓が嫌な程に脈打つ事もいつもの事。僕は、母親があまり好きではない。


「はい、結です」

『結君元気にしてたかしら』

「はい。お母さんもお元気でしたか」

『えぇ』


母親の落ち着いたソプラノの声が気持ちを沈めさせる。胃が痛くなる。身体から血の気が引いていく。いつも僕の体調を気遣った言葉の後に来るのは大体仕事の話と縁談の話と帰って来いと言う話と、弟の話だう。解っているのに出ないと母親のヒステリックが何を仕出かすか解らない。


『お仕事は続いているの?』

「はい。会社の方々にも良くして頂いています」

『ゲームの方はどうなのかしら。活動と言うものは続いているの?』

「趣味程度でまだ続けております」

『そう。趣味ならいいのよ。ちゃんと働いているのならね』


僕は母親と父親にゲーム実況だけで生計を立てている事は話していない。今まで黙っていたがバレてしまった時に大変だったから、趣味として楽しんでいるだけなのだと言わない限り納得はしなかった為。お金は一般企業に勤めて稼いでいますよと言う嘘に安心しているのだから可笑しな方々でしかない。


『結さんは香山家の長男、跡取りですからね。仕事も今は良いけどそろそろお見合いはどうかしら』

「今は仕事が楽しいので誰の話もお受けする事は出来かねます」

『仕事が好きな事はお父さんと一緒ね』


少し怒りの音を含む声色を感じて咄嗟に話題を変える。弟の話題も特に話したくはないけれど。僕の事をお兄さんと呼ぶ弟の事もあまり好きではない。


僕は香山家の人間が全員好きでは無い。何不自由無く生活をさせてくれた事には感謝するも、僕はサナやシュウちゃん達の家族が羨ましかったよ。特にサナは家族仲がとても良さそうだしね。塾や習い事にも通わせて下さり、欲しい物は買い与えられ、ゲームも一日三時間はプレイさせて貰えていた。弟は僕の事をとても慕ってくれている様で、お兄さん、お兄さんといつも僕の後を追い掛けていたっけ。


母親は少し感情的になる方だったが、父親は穏やかな性格をしていて、勉学に対しては厳しかったものの、何処にでもいる普通の家族だと思っていた。


『葵も結さんの帰りを待っているわ。今代わるわね』

「いえ、代わらなくても」

『お兄さんお久し振りです、葵です』

「お久し振りです、葵君」


母親に電話を借りる項を伝えているのが耳元で聞こえる。母親から離れて僕と喋るつもりなのだろう。それが彼の為にもなる、長くは喋りたくないが。


『お兄さん、最近ゲーム実況の活動は如何でしょうか』

「それなりに楽しくやっていますよ」

『それなら良かったです。僕もお母さんに見付からない様にこっそり拝見させて頂いています』

「気を付けて下さいね。また手を上げられても僕は葵君を助けてあげる事が出来ませんから」

『大丈夫ですよ。葵はもう立派な成人男性ですからお母さんの事を止める事は出来ます』


弟の葵君は僕の活動を知っている。それを母親や父親には黙ってくれている。寧ろ応援してくれていて、過去に開催したイベント行事には必ずと言っていい程足を運んでくれていた。だからサナやシュウちゃんやゆめぽんの存在も知っている。


「葵君も大学は楽しいですか」

『はい。お兄さん聞いて下さい。来年から二年間だけ社会勉強の為に一人暮らしをする許可が降りたんです』

「それは良かったですね」


嬉しそうに話してくれる葵君の話に適当に相槌を打つ。好きではないが、弟の事は全てを嫌いになれない自分がいる。一応半分は血を分けた兄弟な訳だし。


僕が、肉が嫌いな理由は、葵君も関係してくるのかもしれない。うちでは決まって肉料理が出る日があった。それは母親が父親ではない他の男と関係を持った日、決まって、必ず。不倫しているのだ、あの女は。それを知った時から肉料理と言うものは全て受け付けなくなってしまった。幼い頃見てしまった母親と知らない男の行為が、食卓に肉料理が出される度に思い出されてしまうのだ。


葵君が好きではない理由。葵君は父親の血は受継いでいない、父親はあの時の男だと言う事を僕は知っているからで。多分父親も知っているだろう。父親の面影があまり感じられないのだから。


何より父親も不倫しているのだから香山家はもう終わってる。穏やかで尊敬していた父親も、母親の上に跨る男の様な顔を他の女に向かってしていると思えば吐き気しかしない。だから、僕は家族が好きでは無い。それなのによくもまあ僕に早く家庭を持てと言うものだから可笑しな話だろう。


この話はゆめぽんにしかしていない。ゆめぽんは何も言ってこなかったけど、それで少し気持ちが救われた事を今でも覚えている。


「葵君、申し訳ないのですが僕は今からお昼なのでそろそろ失礼しても良いですか」

『それは申し訳ございませんでした。昼食は何をお召し上がりになられるのでしょう?』

「……豚カツ定食です」

『とても良いですね!僕も揚げ物は大好きです。確かお母さんが今晩は唐揚げだと言っていましたが、豚カツを作ってくれる様頼んでみます』

「葵君も食べれると良いですね」

『はい!』


葵君がどんな形であれひとり立ち出来た時に僕は香山家と縁を切るだろう。そう思うのは、香山家で唯一の僕の理解者である人間が弟である葵君だけだから。いつか彼も本当の事を知る時が来て、その時どうなるのかは未来の事だから解らないけれど。


葵君には幸せになってもらいたい気持ちはある。所謂普通の兄弟なら心から彼を愛せただろうか。それとも、僕には人を愛して普通の生活を歩む事は出来ないのか。柊花ちゃんへの気持ちは間違っているかもしれない、なんて、思いたくはないのだけれど。ユウとしての僕ではなく、香山結としての僕を見せた時の彼女の反応が怖くて何も言い出せないでいる。


電話を切ってスマホの画面に映るのは、酔っ払って巫山戯てサナとシュウちゃんと玲ちゃんと撮ったプリクラで。きっとこの待受けを三人に見られると笑われるんだろうな。いや、笑って欲しい。それが僕達の仲だから。


「もしもしゆめぽん」

『あらユウちゃんどうしたの』

「いや、あの、今日の夜お店に立ってる?」

『えぇ、今日は出勤日だけどお店来るのかしら?』

「うん。今日は僕一人で行くよ」

『……解ったわ。じゃあユウちゃんの好きなお魚料理用意しておくわね』

「ありがとうゆめぽん」


ゆめぽんに簡単な連絡をして、目的のお店に向かえば調度料理が提供されたところで、サナと玲ちゃんが食べようとしているところだった。遅くなってしまった事に対して何も言ってこない二人に感謝しつつ、SNS用に豚カツの写真を撮っていただきます。


サクサクの衣を纏った豚カツは、とても美味しかったけれど、量が多くて結局サナに食べるのを手伝ってもらってしまった。


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