五話
平日。今日こそ正式に四人で集まって実況撮るかって話をしている訳で。玲は普通に仕事だから終わったら五人で飯行かないかって誘ったけど珍しく断られてしまった。アイツも忙しい人間なんだな。
「シュウカって何処のメーカーのコーヒー好きだっけ」
玲とは特殊な出会い方をしたけど今では良いゲーム仲間って言うかよくつるむ友達って言うかシュウカの話を一番聞いてくれるいい奴なんだわ。
「ハローメリーってとこの。この間豆買ってキッチンに置いといたよ」
「何処?無いんだけど」
「奥から二番目の戸棚」
「あったわ。サンキュー」
「今日も集まるんでしょ?序にお菓子買っといたからそれ皆に出しな」
「お前ホント俺の母ちゃんかよ」
「そこは彼女かよって言いなさいよ」
「玲が俺の彼女って柄かよウケる。兎に角サンキューな!仕事早く終わりそうたったらお前も店来いよ。ゆめぽんとこだから」
「行けたら行くわ」
メッセージ返ってくるって事は今昼休みか。俺一回も所謂普通の会社で働いた事ねぇからよく解んないけど、朝起きて電車乗ってちゃんと働いてる玲って凄いよな。俺には出来ねぇもん。何の仕事してるのかよく解んないけど、兎に角凄い。
言われた通りの分量の豆をゴリゴリ挽いてシュウカ達が来るのを待ってる。何気にこの時間が好きなんだよな。気の合う奴らとゲームやってそれを投稿して楽しんでくれるリスナーが居る。俺はとても恵まれてる部類の人種だ。大変な事は勿論多い、アンチコメ、あまりよろしくないリスナーの存在、メディアの仕事。アンチコメもヤバいリスナーの存在も無視すればいいだけの話だが、メディアの仕事は幾ら回数をこなしてもまだ慣れる事はないから疲れるんだよな。仕事頂けるだけ有難い話だけど。
コーヒーメーカーに豆をセットしてスイッチを押したと同時に俺のスマホが鳴ってる。それは珍しい人間からの久々の連絡だった。
「久し振りじゃん。元気してた?」
「おう、サナは相変わらずそうだな」
「お陰様で」
同じゲーム実況者として昔は仲良くしてた、けど、コイツはプロのゲーマーとしてgゲームを盛り上げる一人となった男。コイツもまた凄い俺の友達の一人。何時ぶりかの連絡か忘れたけど、何だ、遂に結婚の報告でも俺にしてくれんのか?俺も早くシュウカと付き合いてえわ。
「どったの。お前からの連絡って珍しいじゃん」
「あー、うん。そうだよな。サナにだから言えるっていうか、そう言う話」
「え!?やっぱお前あの子と結婚すんの!?」
「って報告だったら良かったんだけどな」
「別れちゃったの?」
「違う違う。別れてなけりゃ結婚するわ、いつか。ちょっとそれ所じゃなくなったんだわ」
「何あったんよ」
「お前もゲーム好きならあの噂聞いた事あるだろ。……俺にも来たわ、黒紙」
「……止めろよ。そんな冗談何も面白くねぇんだけど」
「エイプリルフールだったら良かったんだけどな」
いや、何笑ってんだよ。こっちは笑えないんだけど。しかもアレは噂だって。噂だけどゆめぽんが来月政府から発表あるって聞いたばっかなんだけど。俺は認めたくないんだけど。
「多分サナ達には関係ない話かもしんないけどさ、ちょっと流石に一人で抱えらんなくて」
「うん」
「正式な発表は来月ある。俺と他のメンバーは第一陣として来週から現地入りする。噂は本当だった、信じたくないけど、もう第六次世界大戦は水面下で始まってる。これから各サーバーに規制が入る、実況撮ってるやつあるなら今のうちにストック撮っけよ」
「解った」
「……帰ってきたらゲームまた一緒にやろうな」
「俺に話してくれてありがとう」
変なフラグ立てんなよって返せなかった。言ってしまったら本当にフラグが立ってしまいそうだっから。シュウカやユウさんとの近況報告だけ少しして電話切った瞬間また音を立てて鳴るスマホ、この音は、緊急速報。
見る前にチャイムの連打音、多分シュウカかユウさんが俺の部屋に着いたんだ。急いで部屋を開ければ息を切らしたシュウカが立っていて、目に涙を溜めて今にも泣きそうだった。取り敢えず部屋に招き入れて直ぐにテレビを付けてスマホも見る。
『番組の途中ですが政府からの緊急速報が入りました。イヴの助言の解析が終わった模様です』
アナウンサーが淡々と言葉を繋げる画面からイヴの声の解析結果に変わる。シュウカをソファに座らせて一緒にテレビを見ていれば、遂に泣き出してしまったシュウカに俺はティッシュを渡す位しか出来ないんだけど。漫画だったら泣かないでと抱き寄せる事が出来るだう場面、俺にはそんな事出来はしない。
「私の友達から連絡があった……黒紙が届いたって……」
「俺もさっきあった」
「gゲームの日本代表に選ばれたんだって、喜んでたのに」
俺もそうだよ。さっきシュウカと同じ事があったよ。だからその気持ちは痛い程に解る。俺だって何でアイツがって思うよ。
『イヴの声によりますと、全世界に身体に害の無いウィスルが蔓延する。この声を解読後には全人類感染後だろう。だが安心して欲しい、あなた方が死ぬ事はない。ウィスルか入り込むのはチップだ。肉体に影響はない。しかし今も尚全世界では武器による血の流れる争いが絶える事がない。私は悲しい。今すぐ武器を捨て、兵士たちの解放を。争いを辞めるのです。死を決められなくて良い方法を。と、続いており……』
俺たちには生まれた瞬間チップと呼ばれる個人を特定する簡単に言えば小さい機械みたいな物が体内に埋め込まれる。それに全ての情報が入れられ、便利な話だけをするならば、財布を持たなくても料金が発生する公共施設を使う事が出来たりするんだけど、不便な話をすればいつでも誰かに監視をされているって事になるけれど。
「簡単に言えばチップにウイルスが入って、今までのチップの役割が崩壊するって事だよな……表向きは」
ウィスルが侵入しても個人情報がばら撒かれる訳では無い。しかし、今までの生活が出来なくなるかもしれないごく一部の層が出てくる訳であって。それが俺たちに関係してくるんだよ。
『……によりますと、来週九日より第一部隊の現地入りが正式に決まったとの事です。一般人の方に被害は出ないとの報告がありましたが……』
ただただ、テレビの音声が淡々と現状を述べる。繰り返される言葉に嫌気が差してチャンネルを帰ればワイドショーでもその話で持ち切りだが、たかがゲームで人が死ぬ訳では無いなら今までもよりも平和的解決になるのではと呑気な事を言っていた。たかがゲーム、か。
「第六次世界大戦の宣言は来月される、ゆめぽんの言ってる通りなら。ただ今までと完全に違うのは戦場がオンライン対戦ゲーム内になっただけ、武器がコントローラー、戦うのはネットの中のアバター、だけど負ければ……死ぬ。ゲームをプレイ出来る自分と言う存在が」
「ウイルスに感染したチップが原因で肉体は死なない、だけどゲームが出来ない身体になる。それは、ゲームを仕事にしている人達にとっては死に値するんだよ」
イヴが何を思ってそんな提示をしてきたは全く解らない。単純に人同士殺し合うなって事を伝えたいだけなのか、だからゲームでの戦いは誰も死ぬ事はないんだよ、それでいいじゃんそれにしなよって投げて来ただけかもしれない。だけど、だけどさ、ゲームってもんはさ、戦争に使うもんじゃないよ。
この話題が上がる前、どっかの国がどっかの国にサーバー攻撃されたってニュースが流れてた。もしかしたら、それが切っ掛けになってしまったのだろうか。
「サナ、イヴは私達の平和的象徴だった筈じゃん。そんな存在が自ら争いを提示してくるって可笑しいよ」
「これじゃあ、一時賑わせてた考察系動画投稿者達の言う通りになっちゃうな」
「イヴの暴走?」
「だとしたらこれからどうなるんだ」
雑音と化したテレビを消して、シュウカを落ち着かせる為にカップを手渡すも、今日はアイスコーヒーがいいなんて我儘が言えならまだ大丈夫だな。
それよりも時々ユウさんが話していたシュウカの目を気にする動作が気になる。別のカップを用意しつつ視線をシュウカに向ければ左目を手で隠したり隠さなかったり、それは見え方を確認しているかの様にも捉えられる。
「サナ」
「ん?」
「三ヶ部かミカヴェインだか、そんな名前聞いた事ある?」
「無い。何それ、地名?アニメのキャラ?」
「……いや、やっぱりないよね。何でもない」
「気になるじゃん」
「私も気になってる」
「急に怖い話すんなよ」
「もし何か解ったら教えてね」
「おう」
それ以上シュウカは何も言わなくなって。変わりに目を伏せる。急に出て来た人名なのか土地の名前なのかは解らない名前。これから何が起こっても可笑しくない未来への不安そうな表情。その全てに大丈夫、俺が何とかしてやるよと宙ぶらりんになっていた左手を取る。柔く握り返された力に少し嬉しくなったけど、ドアが開く音がしてユウさんかゆめぽんが来たのだと察知して、そっと離された体温に名残惜しさを感じているのはきっと俺だけなんだろうな。