中に入ると
豪華絢爛。
その言葉がしっくりくる。この国で最も重要と言っても過言ではないゼーレン・ヴァンデル大聖堂。その大広間はいたるところに間違いなく歴史的価値のあるであろう石碑や絵画、装飾が施されていた。中にはおれたちの他にも多くの参拝客や観光客が居た。
「すごいな……外とは大違いじゃんか」
「ああ、これほどとは思わなかった」
「ほえー。これはさすがに凄すぎじゃない?」
中に入った三人はこれまでに見たことがないほどの意匠の数々に圧倒されていた。その顔は王子としてのではなく、純粋にこの部屋の全てに目を輝かせるただの子供のように顔を綻ばせていた。その様子をもし母のミスティラに見られたらなどと普段なら考えられたことも考えられないほどに興奮していた。
「おや、これはこれは。御三家の若たちではないですか? 遠路はるばるようこそおいでくださいました」
驚いて声も出ない三人のもとにひとりの男が歩み寄ってくる。その男の見た目はゲームの世界に出てくる神官のような恰好をしたひょろっとした長身の男性であった。しかしその見た目とは裏腹に彼から発せられるオーラが周囲を包んでいた。
「あなたは確か……」
「はい。この大聖堂の管理を任されているサンタロス・パンガロと申します。シフォンベルクの若には一度お会いしたことがありますな。サザーランド、アリアバードの若たちはお初にお目にかかります」
三人とも目の前にあらわれた男に戸惑いながらもどうにか挨拶を返す。というよりもそれしかできないといったほうが正しい。
「道中お疲れ様でございました。若たちが一番でございます」
「「ど、どうも」」
なぜなら目の前に広がる大広間の様々な装飾品や歴史的価値のある数々の品が霞むくらいに、このサンタロスという男が異様な存在感を放っているからだ。
明らかに格上。それも今の自分たちでは逆立ちしても、束になっても勝てないほどに。
そもそも三人は自分たちが一番強いとは思っていない。しかし、正直自分たちより格上の存在はそう居ないと思っていたのもまぎれもない事実だ。その考えがあまりにも稚拙で安易な考えだったのかと思い知らされた。
「まあここで立ち話もなんですので、そろそろ転生の間にご案内いたしますよ」
そう言いサンタロスは、三人を転生の間に案内する。
「あの人やばいだろ!? おかしい、おかしすぎる。その場に居るだけで空気が変わってるなんて」
「ああ、魔力の質が桁違いだ。それに感知できる範囲だけでも底が見えないほどだ。実力を半分以上は隠しているだろうに」
「ぶっちゃけ、ぼくたちが束になっても勝てないよねー。あの人は正真正銘の化け物だよ」
サンタロスに聞こえないように話す。聞こえたら洒落にならん。そんな風に考えているとサンタロスがクルリとこちらを振り向いた。
「いえいえ、わたしなどはまだまだですよ。昔は冒険者をやっておりましたのでその頃に災禍級へと至ることができました。ですが、それでもわたしなどより上の方は大勢いらっしゃいますよ。セバス様はわたしなど歯牙にもかけませんよ?」
サンタロスはこちらを振り向くと、とても愉快そうな顔で笑いながらそんなことを言ってくる。その顔にはおれたちの言っていることがまったくの的外れだと言わんばかりの顔だ。いや、普通に考えたら災禍級って時点でおかしいレベルなのは決まっているんだが。
「すみません。聞こえてましたか」
「そんな謝罪や敬語など不要でございます。若たちにそのような言葉を頂けただけで満足でございます」
「それにしても、爺や……セバスのこと知っているん、いや知ってるんだな?」
「それはもちろんでございます。あの方は我々の……おっと、その話はまた後ほど。転生の間に着きましたので」
この野郎、気になるとこで話止めやがったな。まあいい、あとで存分に聞こう。主に爺やのこととか聞こう。あの規格外のことは全然知らないからな。本人に聞いても「ホッホッホ」とか言って笑ってごまかすだけである。どれだけ化け物なのかとか武勇伝みたいなものも聞いてみたい。
「それでは、こちらが転生の間でございます。ここから先は何が起きるかわかりませんので気を引き締めてくださいませ。若君たちのお噂はかねがね聞いておりますので、わたしにもどのような結果になるのか楽しみにしておりますよ」
サンタロスはそう言って扉を開ける。
「よし、お前ら準備はいいな?」
「ああ、大丈夫だ。ビビっていてもなにも始まらないからな」
「そうだねー。それにゼットがいることだしなんかあっても大丈夫でしょ?」
おれの短い問いに対して二人はそう答えた。おれの幼馴染たちはこういう時は肝が据わっている。ならこいつらのリーダーであるおれがかっこ悪いところは見せられないな。それにこの先には何が待っているんだろうという好奇心を抑えられそうにない。
「それじゃ、行くか」
そう言っておれたちは転生の間に入っていった。
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