大聖堂に
雲一つない澄み渡る青空。心地よい風が、木陰で眠っている少年の体をそっと撫でていく。心地よい風を受け少しずつ意識を覚醒させていく。
(夢、か。あの頃はこんなことを目標にしようなんて思ってなかったな)
初等部の卒業試験で大聖堂に向かう途中、おれたちは小休止をしていた。まさかその間に寝るなんて思わなかったな。卒業式の準備やら魔物討伐やらでなにかと忙しかったからな。
だが、少し休めたおかげで体が軽い。これなら疲れもほぼ取れたな。あと半分くらいだしな、ここで小休止をしたのは正解だったかな。爺やにもこれから起こることは体力もそうだけど精神的にも苦労するらしいからな。
「にしても、あの頃が懐かしいと思うなんてな。あれから六年か、いろいろあったもんな」
夢で見た年齢には魔物討伐に行ったな。勝手にだが。ある日、兄や姉たちが護衛を連れられて魔物討伐に行くのを気配を消しながらついて行った。少し距離を離しながらだったので現場に追いつくと戦闘がすでに始まっていた。そこで出てきた魔物がトラのような見た目をした魔物で、子供の兄たちには相手にできるやつではなく護衛の人たちが逃がそうと時間を稼いでいたのだ。
そして護衛の人たちがなんとか守っていたが魔物は体から黒い魔力でできた触手みたいなものを伸ばして姉二人を襲おうとした。兄も姉たちもそこまでの魔物にはあったことがないのかビクビクしていて体が動かないようだった。
おれは集中すると少し息を吐き、即座にみんなを助けるために動いた。
(あの魔物は黒い魔力みたいなので身体を覆っているから生半可な攻撃じゃ傷つかないな)
そう思い前に成功した高火力の炎の魔法で攻撃をすることにした。右手を前に出し魔法を発動させる。
ドオォォォォンッッ!!
魔法を魔物に当てると、魔物は「ギャオォォォォォ!!」という叫びとともに大きな体が倒れた。これが初めて魔物討伐をした時のことだ。そのあとは勝手に出ていったことで母さんやセバスにめちゃくちゃ怒られたり、姉さんたちからのスキンシップが激しくなったり。それで母さんと姉さんたちで喧嘩をしたり、兄さんはそんなおれを見て慰めてくれたりと家族とも仲良くなれた。父さんは相変わらずだが。
それにしても昔を思い出したり、年寄りじみたことを言ってるなと思っていると背後から気配を感じた。
「ゼット。起きたと思ったらなにをバカなこと言ってるんだ」
「そうだよ。ぼくたちまだ12歳なんだからねー」
背後から人の気配を感じそちらに顔を向けると、そんな言葉とともに幼馴染たちがおれが横になっていた木陰へと歩いてきた。
「ソロモンにイサムか。おれが寝てからどのくらい時間が経った?」
「まだ休憩してから30分程度だ。もう少し休むか?」
「そうだねー。ほかの人たちよりはだいぶ早いから全然時間にも余裕あるよー」
そう言われて、少し考える。
(たしかにある程度は余裕があるな。距離的にも問題はない。だが……)
「いや、もう出発しよう。いま少し感知したら二番手のやつらがもうそろそろ近くに来るからな」
「そうか。なら、もう出るとするか」
「あーあー。もう少し休みたかったけど、それなら仕方ないね」
そう言って素早く身支度をしてその場から走り出す。動いて分かったがやっぱり体が軽い。
「卒業試験がこの先の大聖堂へ行き自分の輪廻を知ることだからな」
「しかもそこへ着いた順位が家のメンツに関わることだからな。ほんとに面倒だが仕方ない」
「ほんとそれー。なんでぼくらがって感じなんだよねぇ。そもそもそこを順位付けとか意味わかんないよー」
大聖堂へと走りながら愚痴り続ける。二人とも不満が多いせいか愚痴が絶えない。
そう、この二人も王家の血筋の子供たち。名前をソロモン・サザーランドとイサム・アリアバードと言う。おれたちが生まれた国はは国の知能ともいうサザーランド家、国を守護するアリアバード家、そしてその国の君主でもあるシフォンベルク家。この三王家の友好のもとに成る国がシュテルクルストなのである。二人もおれと同じように家のため国のために小さい時から英才教育を受けていた。
しかし……
「まあおれら三人は親たちにとってはある意味で出来損ないもいいとこだけどな。期待にはことごとく斜め上に応えるしさ」
「そうだな。おれもイサムも、お前も異端児だからな。期待されてるだけありがたいんだろうな」
「でもさー、それでもぼくらが一番みたいだよ? 後ろの奴らは追いついてないみたいだし」
おれとソロモンが未だに愚痴を言い続けていると、イサムがそう言ってきた。一人だけ関係ないですよ見たいな顔しやがって。いや、違うか。なんも考えてないんだな。
「おー、やっぱでかいな。さすがは大聖堂ってとこか。もう少しなんか感じるかと思ったんだけどな」
「はぁぁぁ、お前は皮肉がないと喋れないのか? この大きさだけでも驚きだろうに」
「まあまあ、ゼットは元々がこんなんだから気にしたって仕方ないよー」
なにやら、二人が呆れたり馬鹿にしている気がする。なんかムカつくな。
「仕方ないだろ。それ以外に特に感想がないんだから」
「「はぁ……」」
「なんだよ?」
「「べつにー」」
「あー、もーとっと行くぞ!!」
やっぱりこいつらおれのことバカにしてやがるな。おれは少しだけむすっとした顔で大聖堂の扉を開けた。
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