執事と言えば
コンコン。
扉をノックをして部屋の主がいるか確認する。だいぶ前にノックをしないで部屋に入ろうとしたらすごい勢いで魔力弾が飛んできて頬をかすめっていたんだ。そのあとこの部屋の主はぶるぶる震えているおれの首根っこを捕まえて正座させると丸々一時間説教を始めたのだ。それからは必ずノックをしている。
(それに今はもう居るのは分かってんだけどな。一応、な)
「はい、どうぞ。お入りください」
部屋から返事がした。扉を開けて部屋に入ると、ひとりの少し年配の男性が椅子に座って本を読んでいた。その姿はいつ見ても様になっている。近くにはテーブルもありその上には書類が数枚置いてあった。
「爺や。またきたよ」
そう、目的地は爺やこと執事長を務めるセバスチャンの部屋である。セバスの名前を聞いた時、ついつい「漫画かよ!」って突っ込んでしまった。その時に、爺やとその時に連れてきてくれた母のミスティラには異世界からの転生だとバレてしまった。おれが異世界からの転生者だと知っているのは今のところこの二人だけである。父や兄、姉たちや幼馴染たちも知らない。
「はぁ、また抜け出してきたのですか」
やや呆れた声でそう聞いてくる。セバスはほぼ毎日この部屋に居る。朝のミーティングの以外は大抵この部屋で書類仕事などをやっている。基本的な仕事は爺やの部下たちがしているからである。国王である父や兄や姉たちの護衛も基本は若いものに任せている。しかし本当に重要な時には最前線にすら送り出されるほどの猛者でもある。
「まあね。だって魔法やら魔道具がある世界で体を鍛える必要あるの?」
普通に考えて全然鍛える必要がないと思うんだよなー。身体強化の魔法だってあるんだしおれのスペックは常人の数倍だしさ。てか筋トレとか嫌いだし。
「そうですな。いまの坊っちゃまには必要がないのかもしれませんな」
「なんだよ、若干含みのある言い方して」
そんなことを考えていると爺やからそう言われた。ほんとこのじいさんはいろんなことを見透かした言い方をしてくるんだよなぁ。見た目はそれほど年取ってるよには見えないんだけど。ほんとできる執事って感じ。
「それはそうと坊っちゃま。今日もここで魔法の研究ですか?」
「一応そのつもりだよ。それと気になる本が書庫にあったからもってきた。」
「わかりました。それでは地下に行きましょう。あそこなら感知の目を掻い潜れますから」
毎回思うけど、なんでこの部屋には地下があるんだ?普通の部屋には地下室なんて必要ないと思うんだけど。しかも魔力感知を阻害する機能まであるんだから。明らかに理由があって作られた部屋であることは間違いない。しかし爺やにそれを聞いても「ホッホッホ」と笑うだけで何にも教えてくれなかった。
「ほんと謎すぎるよ」
ボソッと呟く。すると。
「なにが謎なんですかな?」
気配もなく近づいていた爺やがそう言ってくる。怖えぇぇよ。気配消してくるとか暗殺者かなんかかよ。おれが敵であったなら今の一瞬で首が飛んでたな。やばいな、感知できないほどの魔力を薄める技術に視認できないほどの動きの滑らかさ。いつかはおれも鍛えないといけない日が来るのかなぁ。
「いや、何でもないぞ」
とにかく一つでも多くの技術を盗むしかないな。よし、気合を入れなおして練習に臨むか!
読んでいただきありがとうございます。
加筆修正をいたしました。
感想、ご意見、誤字脱字報告お待ちしてます。




