開会
おれの華麗な自己紹介のあと、生徒会の面々は口を大きく開きアホ面を晒していたかと思うと急に笑い出した。
うん。ちょっと、おれもおこだよ? 少しは手加減してあげたほうがいいかなぁとか思ったけど、やめた。
人の華麗な自己紹介を笑う奴らなぞ、徹底的に叩き潰してあげるざます!!
などと意味不明にキレていると、笑いが収まったのかバカ女が話しかけてきた。
「ふーふー、貴様、急に笑いを取りに来るとはどういう神経をしているのだ? そもそもこの世界に魔王や竜王が居るはずあるまい。人間の限界を災禍級と言うのであれば、その先の伝説級や神格級が人を攻めてきたらこの世界は簡単に滅んでしまうではないか。あんなものは、御伽噺に過ぎない。それに、異世界転生者も迷信に近い。もし貴様が異世界転生者であったとしても能力は人なのだから自慢にはならんぞ?」
リタのその言葉に頷く役員共。なにその、その通りです会長!と言わんとする顔は?
あれ? こいつらってこの学校を治めてる生徒会の面々なんだよな? なんでこんなにバカばっかなんだ?
『ねぇねぇ、もうこいつら殺っちゃいましょうよ? リミをバカにするだけでもムカつくのに……まさか、あたしたちのことを御伽噺で済ませるとはねぇ~』
『まぁ、それは仕方ないんじゃないか? 俺たちは基本的に歴史から抹消された存在なんだし……この数百年と魔王や神が侵略しに来たこともなかったみたいだしな。竜なんかは絶滅危惧種だからな。そもそも、人里には現れることがないぞ? そこら辺の知識がないんじゃないか?』
『そうみたいねぇ~。異世界転生者についても噂で終わらせてるみたいだし……ここの学生は数は多くて質もそれなりにいいのかもしれないけど、基礎や知識がまるで無いわね。来たときは面白そうと思ったけど、期待外れね。これならシフォンベルクであなたの幼馴染やイクス、エールと居たほうが数千倍マシね』
二人からの大絶賛の逆……大批判を受けた生徒会の面々。まぁこっちの声が聞こえてるわけじゃないからキレるわけでもない。というよりも、おれの自己紹介からなんか余裕を取り戻したらしく立ち上がって、僕たち私たちの勝ちだな見たいな雰囲気を出している。
うん、普通にムカつく。やっぱ、こいつら潰したいなぁ……
「ゼット君だったかな? 今なら会長に謝って非を認めるというなら君の態度や嘘、あの魔力を増大させたように見せた幻惑魔法のことも大目に見てあげよう。この学校では教師の許しもなく魔法を使うことは禁止されてるからね」
『ねぇ、こいつは何を言ってるの? やばいんじゃない? あたし若干怖いもの、ここまで救いようのないバカだと……』
『だな。いくらなんでも見ていられんな。この男は人の上に立つ器ではないぞ?』
だろうな。リミですら嫌悪感を示して顔を逸らしている。リミが嫌がるやつとか存在したんだな。あのギーリッヒたちですら最後は憂う表情を見せていたのに。この副会長に見せる視線は、完全な軽蔑の視線だ。
「生徒会の副会長様が堂々と裏取引かよ……まぁ、おれ的には嘘は言ってないし、そんな面倒な魔法を使ってもいない。そもそも魔法の発動の反応すら読めない奴がなんで副会長様になれんの? そこの生徒会長も同じで飾りなのか? なぁ、リタ・パルトナーさん」
「貴様! 会長に対してまた無礼な態度を! 許しを請うても————————」
「いや、あんたに聞いてないからさ。ちょっと〝黙ってろよ〟」
おれが、そう言うと副会長は顔を真っ赤にして、すぐさま反論しようとしたのだろう。しかし、いくら口を開こうとしても開かない。その光景を不思議に思った生徒会の面々はどうしたんだ?という表情をしている。まぁ、分かるわけないけどな。
だって……おれが魔法で喋れなくしてるんだから。言霊魔法という、今は失われた古代魔法である。禁術指定にもされているので使える奴は普通に考えたら居ない。しかし、おれの精神世界にはそんなもの関係なしの存在たちが居る。修行期間中、そいつらに、おれが昔見た漫画のやアニメの話をした。そう「〝跪け〟」である。これをやりたいと言ったら言霊魔法を教えてくれた。
一応、魔法完全防御で防げるらしく、高レベル戦闘では簡単にレジストされるのがオチみたいだ。だが、こいつら相手なら防がれるわけもなく、あっさりと成功した。何気に、対人では初めて使ったしな。案外、簡単に発動するんだな。魔力もあまり消費しないし、燃費がいいから多数戦には使えるかもな。なによりこの魔法は魔法陣がいらない。だからこそ禁術指定されているんだけど。
そんなことを思っていると、何やら一人だけ目をつぶって考え込んでるやつがいる。副会長が喋れなくなったのを見て驚いた表情をした後、すぐに考え込んでしまった。そして、目を開けると、
「ゼット・シフォンベルク。副会長のこれまでの非礼、生徒会、そして直属の上司として謝ろう。済まなかった。これで許してもらえるとは思わんが、どうか副会長を喋らせてはもらえないだろうか。この通りだ!」
そう言って頭を下げる。生徒会の面々は、自分たちの尊敬する会長のそんな姿を見て驚いている。しかし、次の瞬間には副会長以外全員が頭を下げて頼み込んできた。
「ちっ、仕方ねぇな。条件つきだ。このことについての罰は受けない。後、これからはこっちに必要以上に絡んでくるなよ? 相手するのも面倒だからな。そんで、次、もしも、リミのことを言ってきたり変な風に絡んできたら、そん時は容赦しないからな?」
おれは制限していた魔力を解放し、リタ一人に当たるようにした。すると、彼女は膝から崩れ落ち、がくがくと震えると呼吸を乱してしまった。突然崩れ落ちた会長に役員たちが駆け寄る。
おれはリミに、もう行くぞっと促して講堂まで歩き出す。歩き出したタイミングで、副会長にかけてあった言霊魔法を解く。リミは少し後ろを気にしていたが、おれが止まることがないと分かると急いで追いかけてきた。生徒会の奴らも、何やら騒いではいるみたいだがあんな会長を置いていくわけにもいかずその場に留まっていた。
「ねぇ、ゼットさん。会長さんをあんな目に合わせることもなかったんじゃない? あの人泣いてたよ?」
「そうか。まぁ別に相手にしなくても良かったんだが、リミがバカにされてて、そういう訳にもいかないだろ? おれが放った魔力でも分かったとは思うが、この件で怒ってたのはおれだけじゃない。アンやラディーも怒ってたんだよ。この場に姉さんたちや父さん母さんが居てもキレてるだろうよ。つまりは、これはあいつらが受けなきゃいけない罰であり、あの女が一番上だったからだ」
リミは、おれの言葉にどこか納得できないのか難しい顔をしている。
『はぁぁ、あのね、リミ。リミが誰にでも優しいことは、とても素晴らしいことよ。それはあなたの長所だし、絶対に失くしちゃいけないものよ。だけどね、この世界は正しさだけじゃ、優しさだけじゃやっていけないのも事実よ。だからこそ、優しさと厳しさ。両方を兼ね備えられる人物になりなさい』
『アンの言う通りだ。今は理解することが難しいかもしれないし、納得できないかもしれない。だけど、そのことを絶対に忘れないでくれ。優しさと厳しさ、そのことが分かる日がきっとくる』
アンとラディーがそう言ってフォローしてくれた。おれだけの言葉だと納得できてないみたいだったから助かった。少しは表情が和らいだな。
「う、ん。まだ納得も出来ないし、分からないけど、アンさんに言われたこともラディーさんに言われたことも忘れないね! ちゃんと考えて自分なりの答えを出すから」
「あぁ、それでいいよ。いずれ、リミにもわかる時が必ず来るから。それよりも、リミ、今はリ初めての入学式を楽しもうぜ」
そう言うと、さっきまでの暗い顔が何だったのかってくらいの笑顔で頷いた。
おれたちは式の始まるギリギリで間に合うと先ほどの列を見つけ並びなおす。そして、少しすると後ろから何人かの走る足音が聞こえた。どうやら、生徒会の奴らが走ってきたみたいだ。チラッとそちらを見ると、未だに目元を赤くして顔が青ざめている生徒会長とその周りを守るように囲む役員の姿が見えた。
あいつらは、おれたちを気にすることなく先に講堂へ入り、風紀委員会の面々や教師と合流して謝っていた。遅刻ギリギリだっただろうからな。軽く打ち合わせが済んだのだろうか、全員が持ち場についた。それを確認したのち、リタは先ほどまでとは違いとても凛々しい顔になる。それを見て何人かの生徒は見惚れているようだった。
そして彼女は開会の言葉を告げる。
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