この度は
「殿下ー! 殿下ー!」
「どこに隠れているんですかー。お稽古のお時間ですよー。早く出てきてくださーい」
物陰に隠れていると、遠くの方から複数の足音と声が聞こえてきた。
「稽古なんか行きたくないって毎回言ってるのに。魔法やこの世界のことを知るための勉強なら楽しいけどさー」
(ん? 誰か近づいてきたか?)
物陰でぶつぶつと文句を言っていると足音が近づいてきた。毎度毎度よくもこんな人数で追いかけてくるな。
(それに結構近いな。もう少し消すか)
「居ないな。このあたりに殿下の魔力を感じたんだが」
「殿下はあのお年で完璧に魔力を消すことが出来るのよ。魔法や歴史の勉強は熱心に聴いてくれるのに……」
「どうして毎回体を鍛えることは嫌がるんだか」
「駄々をこねる殿下はたいへん可愛らしいんですけどねぇ。毎回毎回逃げられてしまうとわたしたちが旦那様や奥様にお叱りを受けてしまいますし」
おれを探していた執事やメイドたちはその場に立ち止まり周りを見渡すとそう言いながら通り過ぎていった。最後の一人にはあとでバレないようにお仕置きしておこう。
「……行ったか」
(さて、それじゃバレる前にあそこに行くかな)
気配を消しつつ移動を再開する。
それにしても好き放題言ってくれたな。たしかにおれは筋トレや格闘術の練習が嫌いだ。運動神経は悪くないけどあんな死ぬほどきつい苦行をだれが好き好んでやるか。あんなのを好き好んでやるのはドMだ。どうしようもなくてやってるやつは一人知ってるけど。それでもおれはやりたくない。
ならおれはその時間を魔法の練習や知識の補充に費やす。まあ幸いおれは過去の記憶もあって勉強や魔法を覚えることはさほど大変ではない。元々、日本に居た時も自頭はよかったほうだ。だからあまり苦労せずに知識を身につけながら魔法の練習も順調に進んでいた。
そもそもこの世界の魔法とは詠唱がない、と言うよりもなくても発動する。要はイメージだ。詠唱とは魔法を発動するために必要なイメージをより簡単にするためのものである。だから明確にイメージができるのであれば必要ない。逆を言えばイメージができていない魔法はいくら理論や知識、魔力があっても絶対に発動しない。
そしてもう一つ大事なことがある。それが魔力制御だ。簡単に言ってしまえば魔法を使うためのMPみたいなものだ。魔力制御できている魔力が多いほど扱える魔法が増える。それを増やすためには日々コツコツと地道な努力が必要となる。
(まあこれは楽しくて毎日やってたからいつの間にか魔力を抑えきることができるようになったんだけどな)
才能はあったらしくこの年では異常なほどの魔力制御ができている。そのおかげで基礎魔力量も平均を大幅に超えている。そもそもこの体が異常らしく体力、筋力、魔力、その全てが普通の人間族の子供のスペックの三倍から五倍らしい。異世界転生者って怖えぇぇぇと思った瞬間である。
そんなこんな考えながら歩いていると目的の部屋にたどり着いていたみたいだ。
あ、そうだ言い忘れてた。今年でもう六歳になりました。
読んでいただきありがとうございます。
加筆修正をいたしました。
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