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~異世界で輪廻転生~  作者: ぽん太
第三章~グランファスト王国校内騒乱編~
34/42

新しく始まる日常

 あの事件から一週間が経った。


 ギーリッヒの家に居た奴隷たちは全員が解放された。姉さんたちが地図を作成してる間に事件の後、逃がせるように部屋の一角に隠していたようだ。なんでも、この屋敷の人間は全員が屑だったからここに居させるのは可哀想すぎると思って終わった後におれに転移させて国王様に預けちゃえばいいやと思ったらしい。


 屋敷に居た全員を魅了チャームした後は誰にも邪魔されることがなかったらしく、自由に行動できたと言っていた。最後の方は魔力が切れかかっていたから、おれに地図を送った後はギーリッヒたちのみだけにしていたらしい。


 それにしても、エール姉さんの鼓舞バフがあったからとはいえあの屋敷を範囲設定して数日間、屋敷を探索しつつ奴隷たちの隠れ家を作り、魅了し続けたとかやっぱイクス姉さんは化け物だな……


 助け出した奴隷の子たちは皆、ギーリッヒたちに性的暴行や拷問をされており精神がおかしくなっている者もいた。リミよりも長くあの空間に居たから精神が壊れかけている者がほとんどだ。なので、まずは心を休ませてあげて、少しずつ回復していったらまた考えていこうとなった。なので、今は国王の預かりのもと病院におり誰にも手を出せないようになっている。


 事件についても、おれが奴隷解放を任務として受けたということになり、ギーリッヒ一家並びにその部下や使用人を始末したことはお咎めなしとなった。そのことについて不満に思った、貴族の連中や国の重鎮の一部はおれに罰を、おれを排除しろ、と言ってきたみたいだが、マハトがその提案を受け入れるはずもなく「文句があるなら儂を殺してから言え。儂を殺せぬものがあの子の相手などできるはずもない」と言い黙らせたらしい。


 マハトの奴、とんでもなく面倒なことを言ったな。そんなこと言われたら余計に目立ってしまう。あと一週間弱で学校も始まるというのに……


 だからなのかわからないけど、こうしてリミと二人で仲良く手を繋ぎながら街中を歩いていても、すれ違う人に見られたりこそこそと話されている気がしなくてならない。まぁ、よく行く店の人たちからはめちゃくちゃ良くしてもらってるんだけどな。リミも、姉さんたちもおれなんかよりも人気で、この前三人を連れて出かけたときは男どもの怨嗟の視線が辛かった……昔はおれもそう思ってたよ。チーレム野郎死ね!って……


 でも、自分がそんな感じになってみて気づいた。これはこれで大変だと……


 沢山の女に振り回されるのなんか経験がないだろ!どうやって流せばいいんだよ!


「ねぇ、ゼットさん……じゃなかった、お兄ちゃん、何をそんなに唸ってるの?」


 隣で唸ってるおれを見て心配そうな顔をして、下から覗き込んでくるリミ。一生懸命、繋いでないほうの手を顔の前に振ってくる。


 リミもあの事件の後、首輪を解析して外した。首輪を無理やり外そうとすると付けている人間に電気が流れる仕組みになっていた。なので、きちんと魔眼で解析し外した。天啓では消滅の力を使えばと言っていたが魔力の出力間違えたらと思うと出来なかった。


 そして、リミを正式にシフォンベルク家の養子として迎え入れることに決まった。事件の次の日、姉さんと父さんと一緒に一度実家に戻った。こんなに早く戻ってくるとは思わなかったけけど……


 その日の夜、姉さんたちが必死になってリミをこの家の養子として迎え入れてくれないかと母さんと父さんを説得していた。父さんは事件の全容を知っていたし、リミがおれや姉さんたちに懐いているのを見て了承してくれた。母さんは最初、おれに近すぎるという理由で断ろうとしていたが、姉さんたちがリミの境遇やあの家がどれだけ腐っていたかを説明した結果、泣きながらリミに抱き着きOKした。


 こうして晴れてシフォンベルク家の一員となったリミは、その日以来おれの事をお兄ちゃんと呼んでいる。本人曰く、今はまだこの呼び方でいいらしい。おれとしてはリミが家族になったことで結婚したも同然だと浮かれていたのだが、それは卑怯だし、もっとちゃんとおれを知ってからと姉さんや母さんと話し合って決めたそうだ。


「おーい、聞こえてる? お兄ちゃーん?」

「お、おう。いや、なんでもないよ。考え事というか昔を思い出してたというか……まぁ、それは置いといて、少しは視線が減ったかと思ったけど、やっぱあんまし来たことない場所に来ると、どうしても視線を受けるな。名前はともかく、なんで顔がバレてるのか凄い疑問なんだけどな。情報規制されてるはずなんだが……」


 本当に謎だ。別に名前はシフォンベルクということを伏せて情報が出てる以上問題ない。むしろ、名前だけが独り歩きしたのなら分かるがこの反応はどう考えても違う気がする。


(だけど、なんで顔までバレてるんだ? そもそも、ここまで注目されるほうがおかしくないか?)


『案外、この前の事件こととかじゃなくて、あなたが注目されてるだけかもよ?』


 などと、アンが言ってくる。


 いや、意味が分からん。いったい何の根拠があって言ってだよ。おれのどこに注目を浴びる要素があるんだよ?


『え? ゼットって意外と自分のこと分かってないタイプ? あなた、よく自分で言ってるじゃない。おれって、ラノベ? アニメ? だっけ、それの主人公みたいだって。それが何なのかは分からないけど、要は物語の主役ってことでしょ? 勇者だったら目立つのも、注目されるのだって当たり前じゃない。それに……毎日のように違う女を連れまわしてるんだもん。嫌でも目立つわよ』


 は? 勇者、おれが?そんなバカなことあるわけないだろ。どこの世界に、こんなムカつく勇者が居るんだよ。普通、勇者なんだったら皆に慕われて、期待されて、すべてを救うような存在だろ?おれみたいに、損得勘定で動かないだろうし、もっと人から頼りにされるだろ?


『あなたの思う勇者はそうなのかもしれないわね。ううん、それが世の中の勇者像なのかもね。だけどね、勇者だって一人の人間なのよ。普通の人と同じなの。同じように勉強して友達と遊んで、誰かを好きになって愛して、恋をして……だけど勇者だから世界の命運なんかを託される。いっぱい悩むだろうし、たくさん迷う。迷って、苦しんで……だけど何かを選択する。それが勇者なんじゃないかな。だからこそ大勢を引き付ける何かがあるんだと私は思う』


 そう言ったあとに、『きっと、ゼットにもそういう何かがあるんだと思うわ。じゃなきゃ、私たちが助けたりしないわ』と言って精神世界に閉じこもってしまった。


 なんだろう、今までにないほどアンの気持ちが伝わってきた。なんか、こうして話してみると、アンのことやラディーのことをまだまだ、知らないことだらけなんだなぁ。もっと、相棒のことを知っていかないとな。


(夜に精神世界に行くし、その時に話でも聞くか。今はそれよりも……)


「お兄ちゃんはカッコいいから見られてるだけだよ。きっと、わたしなんかが、隣に居るから色々言われてるんだよ。なんでお前なんかがー、みたいなさ」


 そう言って楽しそうだった顔を暗くして俯く。繋がれてる手がさっきよりも強く握られる。


「はぁ、お前は姉さんたちや母さんにはあんなに強気で行けるのに、どうしてこんな有象無象には自信がないんだろうなー。いいか、一度しかよく言わないからよく聞いとけよ」


 そう言って、一度繋がれてる手を離すとリミを抱きしめ手をリミの頬に添える。一瞬手を離され、リミは悲しそうな顔をしたが次の瞬間、街の往来で抱きしめられて顔を真っ赤にしながらバタバタとおれの腕の中から逃げようとした。だが、そんなことをおれが許すはずもなく一層強く抱きしめると暴れるのをやめた。


 そして、リミの耳元に顔を近づけると、囁いた。


「おれはリミのことを世界で一番大切だと思ってる。姉さんや兄さんたち家族のことも、この前話した幼馴染たちのことだってもちろん大切だ。でも、もしどちらかしか助けられない状況になったら、おれはお前を助ける。家族も幼馴染も凄い大切だし助けられるなら全力で助ける。おれの過去を理解して、それでも一緒に居てくれる人たちだからな。だからこそ、その人たちを救えなかったことを後悔するかもしれない。一生、悲しむのかもしれない。それでも、リミだけは失いたくないんだ。だから、すぐには無理でも、人の目を気にしたり自分を否定するのはやめてくれ。おれの傍にずっと居てくれ」


 そう言い終わると、おれはリミの顔を見る。するとそこには、大粒の涙を流すリミの姿があった。


 やばい!泣かせてしまった……アンとの会話から熱が出て普段なら言わないことを言ってしまった……


 泣いているリミを見て、焦りまくり離れてしまったおれに対して、リミが首を振りながら言う。


「違うの……嬉しくて……ゼットさんは優しいから、優しくしてくれるのはわたしが特別じゃないんだって思って……だけど、あの路地裏から助けてもらった時から、一緒に居られたらって思ってて……名前も付けてもらって、尊敬できる大切な家族も出来て……でも、どうしても、あそこに居た時のことが忘れられなくて。こんなわたしなんかがゼットさんやみんなの傍に居ていいのかなって……だから、ゼットさんにそんなに大切に思ってもらえてるんだって分かったら、我慢できなくて……」


 泣きながらそう言って、おれが抱きしめたときよりも強い力で抱きしめてくる。


「え……つまりは、そういう、ことでいいの、か? そう思っても、いいんだよな?」

「うん。わたしもゼットさんと一緒に居たい! ずっとずっと、どんなときも、どんなことがあっても離れたくなんかない! 離してほしくない!」


 まじ、か……こんなに幸せなことがあっていいのか……


 そう思っていると潤んだ瞳のリミが顔を上げてこちらを見ていた。そのリミの顔は今まで見た中で一番綺麗で、その顔にくぎ付けになった。その顔を見ていると自然に頬に手を添えて顔を近づけていた。おれの意思を理解したのか、リミも目を閉じる。


 二人のくちびるとくちびるがくっつきそうになった瞬間、誰かの息をのむ音が聞こえた。


 その音が気になり目を開けると、そこにはおれたちを遠巻きに見ている通行人や行商の人、学生らしき制服を着た子たちに、お母さんにこの光景を見られないようにされている子供まで様々な人たちがおれたちを見ていた。それを見た瞬間、思わず抱きしめていたリミを離してしまった。


 リミも、おれが急に離れたのを不思議に思い目を開けた。そして、おれの見ている光景を見てしまい、顔や首までを先ほど以上に真っ赤にしてしまい固まってしまった。


その瞬間、割れんばかりの歓声と拍手が街に響いた。


「兄ちゃん、かっけえじゃねえか! こんな街中で堂々とよぉ、頑張りなよ!」

「うわぁ、あの女の子羨ましい。私もあんな格好いい人に告白されてみたーい。お幸せに~!」

「いいなぁ。美男美女のカップルかぁ」

「やめときなって、あんたじゃあの女の子には勝てないって……」


 など、いろんな人たちに祝福されてしまった。


 やばい、嬉しんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしい……


「うぅぅぅ、恥ずかしいよぉぉぉぉ」


 そう言って顔を真っ赤にしているリミの手を握る。リミはいきなり手を握られ、一瞬ビクッとするとこちらを見てきた。そんなリミに、おれは周りを見回しながら言う。


「おれも、これはさすがに恥ずかしい。だけど、よく見てみろよ。だれもリミがおれとこうしてても不満な表情なんてしてないだろ? みんな祝福してくれてるだろ? だからさ、もう少し自信持ってもいいんじゃないか」


 おれがそう言うと、リミも恥ずかしいのを我慢して周りを見る。それを見ながら言葉を続ける。


「どうだ? 誰もお前なんかがーなんて言ってないだろ? おめでとう、とか、頑張れって言ってくれてる。女性なんかはお前に勝てないって言ってるのも聞こえるだろ? 誰もリミがおれの隣に居てもダメなんか言わないよ。てかな、そんなの言われても気にすんな。おれがリミと居たいんだから」


 自分が認められている光景は初めてなんだろう。これまでに感じたことのない気持ちや言葉をぶつけられて、驚いたような、それでいて嬉しいような、どんな表情をしたらいいのか分からなそうだ。


 そんな表情のリミを見ていると自然と顔が緩んでくる。リミはそんなおれを見て頬を膨らませる。


「なんで、怒ってんだよ……別に怒られるようなこと言ってないだろ?」

「なんか凄いニヤニヤしてた。わたしが、あたふたしてるの見てニヤニヤしてたもん!」

「いやいや、ニヤニヤなんかしてないから。ただ微笑ましいなぁって見てただけだって……」

「ほんとぉ? お姉さまたちから、ゼットさんはすぐ人をからかう癖があるって言ってたよ? ドSだし性格も屑いからって」


 あのバカ姉ども……帰ったらお仕置きだな。


「こらこら痴話げんかなら他所でやってくれよ~」


 と、そこに居たおじさんが笑いながらそう言ってきた。するとそこに居た皆、「「「わははははは」」」と笑ってしまった。




「「… … … … … …」」



 おれとリミはお互いに顔を見合わせると、顔を真っ赤にしながら……しかし、しっかりと手を繋ぎながらその場を後にした。


 


 この先に続く新しく幸せな日々を感じながら……

読んでいただきありがとうございます。

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