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~異世界で輪廻転生~  作者: ぽん太
第二章~グランファスト王国奴隷解放編~
30/42

覚悟

やっと30話投稿できました。少しでも多くの人に読んでもらえるよう努力していきます。

 パンッ!


 どこからともなく鳴り響く銃声と仲間たちの悲鳴。いきなり訪れた惨劇に皆、慌てふためき逃げる者、対抗しようと策を練る者、恐怖に体を硬直させる者、泣き喚き何かに縋る者。大貴族のアヴィド家に仕えている戦士たちがなにも出来ずに虐殺されていく。


 自分のそばで一人、また一人と仲間だった人間が倒れていく。今、自分の周りにあるのは先ほどまで笑いあっていた仲間だった者たちの死体。そして、自分のすぐそばにはあの悪魔のような青年が近づいているのが分かる。


 なぜだ。なぜ……


「どうしてこんなことに——————」


 パンッ!


 その呟きを最後に彼が声を出すことは二度となかった。



--------------------------------------



「よし、ここは制圧できたか」


 そう言って近くの部屋に入る。そして、ギーリッヒの屋敷に潜入していた姉さんたちに頼んで、作成してもらった屋敷の地図を広げ、おれは一息つく。姉さんたちの潜入のおかげで、門番不在に出来ていたから容易に屋敷内に入り込めた。なるべくは、人と相対するつもりもなくいこうと思ったんだが腐っても大貴族。警備の数もこちらの予想より多く戦闘はどうしても避けられなかった。


 隣を見ると、リミがここまでの道のりをノンストップで走ってきたのと人が死ぬ光景を間近で見たことで顔が青ざめていた。おれは創造魔法で創った銃を異空間へとしまう。修行をしていた時に造ったアーティファクト、シュヴァルツ&フラマである。シュヴァルツは全長約二十五センチで、バレル部分と六連の回転式弾倉が白銀色をしている。少し細長い長方形型のバレル。そしてフラマは全長がシュヴァルツよりも少し小さく色も紅色をしている。


 銃弾は基本、魔力を弾倉に流し創る。なので雷を付与したり、炎を付与したりと簡単に出来るし弾切れになることも、ほぼない。これなら普通に魔力弾を撃っても変わらないのでは?と思うだろうが、かなり違う。シュヴァルツとフラマ本体にも魔法を付与しておりそのおかげで通常の魔力弾を放つ魔力より少ない魔力で数十倍の威力を放つことができる。付与は威力増大、速度上昇、簡易魔法障壁破壊、簡易物理障壁破壊の四つである。


「大丈夫か、リミ。無理ならゲートで父さんたちのところに送るが」


 好きな女に無理はさせられない。そう思いおれは、リミの肩に手を置きながら、しっかりと目を見ながら言う。するとリミは一瞬目を伏せたが、すぐに覚悟を決めて。


「大丈夫! だって、ゼットさんがどんなことがあっても守ってくれるんだし。それに元々はわたしのことだから、ちゃんとこの目で最後まで見届けたいの。だからお願いします。この先どんなことがあっても大丈夫だから、最後の最後まで一緒に居させてください」


 そう言ってきた。未だに顔も青く、体が震えながらでも決して目をそらすことなく。きっと彼女の中では未だに、ギーリッヒたちに対してやリミを拾った奴に対して信じたい気持ちや話したい気持ちがあるのだろう。それでも、最後の最後におれが彼らを殺すことになっても一緒に居ると言ったのだ。


 その覚悟を受けて、おれは思わず笑みを浮かべた。


 「ハハ、そりゃ姉さんたちが気に入るわけだ」


 あの、極度のブラコンである姉さんたち二人が、昔から事あるごとにおれにくっついて離れようとしなくて、おれに近づく女を排除してきた姉さんたちが、おれと距離が近かったリミのために涙を流し絶対に助けると言ったのだ。それだけリミの生きてきたこれまでの人生が壮絶で……だけど、それでも必死に生きてきたことに対しての尊敬であり敬意なんだろう。


 だからこそ、国の仕事でもごく稀にしか使用しなかった固有魔法を使って手伝ってくれている。イクス姉さんの固有魔法 〝魅了〟 とエール姉さんの固有魔法 〝鼓舞〟 。一定領域内に居る人に対しほぼレジスト不可能の催眠をかける〝魅了〟。そして任意対象に対して発動するとその者の能力を数倍から数十倍にまで増幅させる〝鼓舞〟。


 はっきり言ってバグレベルのチート魔法だ。おれの 〝眼〟 をもってしても解析できない。


 そもそも、おれには生まれながらに持っている能力がある。なぜ生まれながらに能力を持っているのかは未だに分からない。多分、異世界からの転生者としての固有魔法のようなものだろう。


 それが 〝魔眼デモン・アイ〟 と 〝天啓オラクル・ゾーン〟 である。〝魔眼〟は魔法の発動、魔力の発生源そして魔法の解析を行うことのできる眼であり〝天啓〟は思考処理速度の上昇、直感の鋭利化など自分の頭の中にもう一人いるような感覚である。その能力をもってしても固有魔法や古代魔法、神や魔王などの神格級と呼ばれる個体の能力は解析できない。解析できるのはあくまで、自分の階級よりも低いモノのみだ。


 そんなおれと同じくらいバグレベルの姉さんたちが「「私たちもリミの事助けてあげる! でもゼットが欲しかったらお姉ちゃんたちと勝負だからね!!」」とあほみたいなことを言っていたが力を貸してくれた。


「うん。お姉さまたちには感謝してる。わたしのためにこの屋敷に使用人として潜入してくれたから……」


 姉さんたちもリミも、お互いに仲良くできそうでおれとしては安心だしよかった。でもリミよ、「負けるつもりは……」っていったい何のことだ?


 リミも少し落ち着いてきたので改めて地図を確認する。今はちょうど目的地であるギーリッヒの自室まで半分のところまで来ている。戦闘をしたせいで最短ルートとはいかなかったが姉さんたちの魔力が尽きる前にはなんとか着きそうだ。


 いくら姉さんたちがバグキャラだとしてもこの数日間、固有魔法の連発はきついだろう。魅了も鼓舞も姉さんたちの魔力をごっそり食うからな。あまり良い食事も出来ずに寝ないで監視してくれてるみたいだし……


「さて、そろそろ移動するか。これ以上時間をかけるのは姉さんたちが心配だし。リミにとってはあまり会いたくない奴らだろうけど……」

「もう、ゼットさん過保護すぎ。心配ないから、ほんとに大丈夫だってば。わたしにはゼットさんやお姉さまたちがついててくれるんだから」

「そっか。なら、リミの事、全力で守ってやるから安心してろ」


 立ち上がり、そう言って頭を撫でるとリミは顔を真っ赤にしながら頷いた。小声でリミが「ずる……ほんとに、そういうの……」とか言ってるけど何言ってんだ?


 まあいいか。とりあえずこの部屋を出て先に進もう。目的地に近くなっていけば戦闘のほうも避けられないと思っていたが、そこからは一度も戦闘することなく、というか人に一人も会うこともなく目的地であるギーリッヒの自室にたどり着いた。


「着いたな。まさか誰一人にも会うことなくこの部屋に来れるとは思わなかったな」

「ギーリッヒ様は自室には家族とお気に入りの奴隷、数人の部下しか入れないから。だから、そもそも部屋の近くには誰も配置してないんだと思う。でも……何回か来たことあるけど、この部屋ってこんなに静かな雰囲気だったかな?」

「部屋の中には姉さんたちとギーリッヒたちがいるはずだ。ただ、もしかするとおれたち以外にも誰かいるのかもしれないな。魔眼にも反応しないようだから気配遮断系の魔法ではないと思うが……考えてても仕方ないし、部屋に入るぞ」

「うん、そうしよ。なんか色々考えると怖いし……」


 そう言って部屋に入ると中には姉さんたちとギーリッヒ家族が居た。ギーリッヒたちはイクス姉さんの魅了にかかっており虚ろな目をしている。姉さんたちは、おれたちが部屋に入ってきたのが分かってすぐさま駆け寄ってきた。やっと合流できたので少しこれまでのことやこれからのことを話たかったのだが、姉さんたちから最初に出てきた言葉は文句だった。


「ゼット、遅い。魔力が切れかかってる、か弱い私が襲われたらどうするつもり?」

「いやいや、エール姉さんならともかくイクス姉さんが魔力切れたくらいで負けるわけないじゃん。魔力なし武器なし勝負でおれと互角なくせに」

「ちょっと~、あたしならってどういう意味! そりゃ、バカみたいに鍛えてるイクスに比べたらあれかもしれないけど……あたしだってやるときはやるんだからね! ねぇ、聞いてるのゼット!!」


 部屋に入るなり姉弟で騒ぎ始めたせいで、リミが取り残されてしまった。姉さんたちとじゃれあいながら横目でリミをチラッと見たら頬をぷくぅっと膨らませてこちらを見ていた。どうやら拗ねているみたいだ。リミは可愛いなぁと和んでいたら、おれの心を読んだのか、今度は顔を真っ赤にしてポカポカと叩いてきた。


 うん、可愛すぎて萌え死ぬ。


 リミの表情や行動に、ついつい顔を緩ませていると隣にいる姉さんたちから尋常じゃないほどのオーラを感じた。なにそれ、前に見た軍の模擬戦のときより殺気が出てるよ!?


 なにより、めっちゃ睨まれてる……怖いよ!!!


 そう、少しこの場に相応しくない和みかたをしていると不意に声をかけられた。


「これはこれは、少し気になることがあってお得意様の部屋に来てみれば……少年少女たちが仲睦まじく過ごされてるようで。少し興味があるし……なにより羨ましいので僕も混ぜてくれないかな?」


 ——————ッッ!!

 

 急に聞こえてきた声に驚きつつも、声のする方向、ギーリッヒたちの居る方に顔を向けると、そこには黒いフードを被った長身の男が優雅に立っていた。

読んでいただきありがとうございます。

加筆修正をいたしました。

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