彼は
更新遅くなりました!
申し訳ないです!
回想は終わりで、次から話が進みます!
(うわぁぁ、人がいっぱいだ)
目の前に広がる光景に、ただただ驚いている。あの人に人拾われ、ギーリッヒ様の屋敷に行き、ずっとこの街で生活はしていたけど街になんか出たこともなく、こんなに人が居るなんて思ってもいなかった。
隣を見るともう見慣れた顔がある。わたしは今、この人と街を歩いている。人が多いためはぐれないように服の裾を摘んで歩いている。
決して手を繋ぐかと聞かれたときに恥ずかしくて首を横に振ってその代わりに服の裾を摘んだわけじゃない。
ほんとに恥ずかしかったからとかじゃないから!!
通り過ぎる街の人たちは全員がこちらをチラチラと見ている。きっとわたしの首輪を見ているんだと思っていたけど、わたしよりも彼の方に視線がいっている。まぁ、この人はイケメンだからすごいモテるんだろう。基本的には女の人たちは彼を凄い見ているからきっとそうなんだろう。
そんな人の隣で歩くのは優越感に浸れるなんて聞いたことがあったけど……全然そんなことない。むしろ、こんなわたしがと思ってしまう。できる限りはそんなことを思わないようにしているけど、ふとした瞬間にそんなことを思ってしまう。
(わたしのことが見えていない? たぶんだけどそもそもわたしのことが視界に映ってないんだ。それほどまでにこの人の存在感が異常なんだ)
そうして考えながら歩いていると隣からビクッとした雰囲気を感じた。なぜだろうと見てみるとわたしの手が彼の手を握っていた。無意識のうちにわたしが彼の手を握っていたから驚いたみたいだ。
わたしたちがこうやって街を歩いているのにはちゃんと理由がある。なんでもこの人は別の国から来たらしく、この人の父親とこの国の国王様が親友?まぁ知り合いで色々とあの屋敷とか学校とかを手配をしてくれて、この街で住みやすいようにしてくれたらしい。そのお礼と、ちょっとわたしのことを聞きに行くみたいだ。
そのことを今朝、一緒にご飯を食べているときに教えてくれた。彼のことが少しだけど知れたのは嬉しかった。今、着ている服は昨日彼が買ってきたものだ。あまり服の知識がないわたしでも可愛いと思える服がたくさんあって驚いてしまった。その中でも気に入った、猫が胸ポケットから出てきているように見える黒の半そでシャツと、なぜか一つだけあったショートパンツを穿いたら、彼は視線を逸らしながら褒めてくれた。
お城は屋敷からはそう遠くない場所にあるらしく歩いて数分で着くみたいだ。景色に目を奪われながら歩いて行くと、ほんとにすぐ目的地のお城に着いた。ギーリッヒ様のお屋敷も随分と大きかったけど、やっぱりお城はそれ以上に大きい。
お城に着くと彼はわたしの手を引きながら門番の人のところに行った。そして、門番の人になにやら紙を見せていた。多分、通行証か何かなんだろう。門番の人は確認してすぐ通そうとしたけど、ふと隣のわたしの姿を見て眉を顰めた。
(やっぱわたしはだめかな)
首のあたりを見ていたから、意味は一瞬でわかった。奴隷を城の中に入れることは出来ない。きっとそう言ったことを説明してるんだろう。
しかし彼はずっと「そこをなんとか」、「こいつは大丈夫だから」と言って、どうにかわたしが中に入れるようにしようとしてくれていた。彼の熱意が届いたのか、門番の人もなんとか許してくれてわたしも一緒にお城の中に入れることになった。
(なんでそこまでしてくれるの? わたしのためなんかに頭まで下げて)
どうしても疑問は尽きない。
なぜこの人はずっとわたしのためにここまで動いてくれるんだろう。寝てしまう前に助けるのに理由なんかいらないと言ってくれた。
だけど、それでも、理由を知りたくなってしまう。理由がなければわたしなんか助けないだろうと思ってしまう。彼の助けにも支えにもなりたいと思っているし、もう彼を疑っているわけでも信じてないわけでもない。だけど、どうしてもこの不安が消えない。
そんな暗い顔をしていたからなのか、わたしの思っていることが伝わったからなのかわたしの頭を撫でて「大丈夫だから。心配するな」そう言って手を握りなおしてお城の中へ連れて行ってくれた。
お城の中に入ると国王様のところまで案内してくれる人がいるらしく待機していた。その案内の人に連れられて国王様の居る部屋まで来た。あっという間に来てしまった。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう)
けっして、こんな奴隷が来る場所ではない。きっと、この人にも迷惑がかかる。わたしが嫌われたり不快に思われるならいいけどこの人にそんな思いさせるのは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ。そんなことが頭から離れず、ずっと不安な気持ちのまま部屋まで来てしまった。
「失礼します」
そう言って彼が部屋に入る後に続いてわたしも部屋に入る。
そこには、今まで感じたことのない威圧感のようなものを出している背や体が大きく怖い男の人が居た。その人が国王様だと分かってからも、怖いという気持ちは変わらず終始ビクビクしてしまった。二人が何か色々と話しているが何も会話が入ってこない。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
そう思っていると不意に頭にポンと手を置かれた。隣を見ると少し困った顔をしながら。
「大丈夫だから。そんなビクビクするなって」
そう言ってまた頭を撫でてくれた。わたしはなんて単純なんだろう、こんな些細なことで今まで不安だったことや怖いと思ってたことが何でもなくなった。
それから少し会話を聞いていると隣の彼はゼット・シフォンベルクといって隣国のシフォンベルクの王子様だったらしい。王子様なら首輪を見ただけでわたしが奴隷だってことを分かってておかしくないはず……なのに、なんでわたしが奴隷だって知らなかったんだろ?
疑問がますます浮かんできた。彼について知らないことだらけだ。もっともっとゼットさんの事、知っていきたいなぁ……
そして、そんなことを考えていたらゼットさんと、国王様の側にいた女の人が言い合いを始めてしまった。なんでも彼女はゼットさんの国王様に対しての喋り方や態度が気に入らなかったらしい。
たしかに、わたしから見ても絶対に国王様に対しての言葉遣いではなかったけど……それでも国王様が許していたのだからいいんじゃないのかなと思っていたら、どうやらわたしのことも嫌だったらしく、奴隷がなぜ居るんだと言われてしまった。
(そう、だよね。なにを昨日から浮かれてたんだろう……こんなこと分かり切っていたことなのに……こんな奴隷のわたしがこんな場所に居るなんておかしいことだよね)
そんな風に思った瞬間、隣から魔力が漏れ出したのが分かった。今まで生きてきて感じたことのないような、とても一人の男性が放てる魔力じゃないと思った。だけど、不思議とその魔力は怖いと感じなかった。国王様にはビクビクしたけど、ゼットさんにはそんな風にはならなかった。
彼が怒っている。わたしなんかのために怒ってくれている。そのことが、ただただ嬉しかった。こんなわたしのために怒ってくれて、感情を出してくれて、一緒に居てくれることがたまらなく嬉しかった。国王様や、リタといった彼女はゼットさんの魔力に恐怖の顔を浮かべていたけど、わたしにはそんな風には思えなかった。
ゼットさんとリタさんの喧嘩が遂に魔力合戦になりそうになったところでやっと国王様が止めてくれて、その件は一旦、保留となった。
リタさんは部屋から出ていってしまったが、ゼットさんと国王様はわたしのことについて話を進めていた。二人でというよりはゼットさんが無理やりな感じでだけど……話を進めていきながら、この国の奴隷たちのことが書かれている資料を見ていたゼットさんの手が止まり、その資料の一ページをわたしに見せてきた。
その資料を見た瞬間、嫌な汗と震えが止まらなかった。そこに書かれていたのは、わたしを買ったあのギーリッヒ様だったからだ。
(嫌、嫌、嫌、嫌!)
思い出したくない記憶が蘇る。わたしはたまらず資料を床に投げ捨てその場で蹲ってしまった。
そんな、わたしの表情や震えを見たゼットさんは、先ほどよりも魔力を溢れさせていた。わたしはその彼の表情を見て驚いた。
なぜなら、その彼の顔は、先ほどのリタさんのときとは比べ物にならないほどに魔力を溢れさせ憤怒の表情をしていたから。
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