昔話と
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最近よく夢を見ている。まだおれが日本に居た頃。神道祥也だった頃の記憶の断片。その夢を毎晩のように見てる。
今日もまた変わらず同じ夢。
「祥也。愛してるよ」
「おれもだ」
とても幸せな日々だった。
ある仕事で出会った女性。最初は話もしなかった。少しずつ仲良くなって気づけば付き合うまでになっていた。彼女のことを世界で一番愛してるとさえ思った。この日々を守るために、彼女のためにと毎日必死になって頑張った。昔からある程度運動も勉強も出来ていたから努力なんてしたことのなかった。そんなおれが唯一努力して手に入れようとしたもの。
だけど……
「祥也、ごめんなさい。別れて欲しいの。もうあなたの思いには応えられない」
「なんで、なんでそんなこと言うんだ?おれはそれこそ、自分の時間さえ捨てて尽くしたのに・・・・・・」
「本当にごめんなさい。あなたの気持ちは嬉しかった。でも…… 正直重い。あたしにはあなたの気持ちは重すぎるよ。とてもじゃないけどあたしには耐えられない。今までありがとうね。今度はちゃんと幸せになってね。バイバイ」
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「待ってくれ!!」
目を開けるとそこには彼女は居なく、目に映るのはシミ一つない天井だった。
また見たのか……
これで何度目だ。本当に最近はこの夢をよく見る。あの頃の懐かしい、本当に夢のような時間。あの日々が続けばと何度思ったか。
だからだろうか。何度も見るのは。忘れなければ、今はこの日々を楽しく生きなければ。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
そう言って声をかけてきたのはあの時助けた女の子。この娘を助けたあと、ステルス魔法を使い誰にもバレることなく、この家まで来た。ここは、父さんに頼んで借りた家で一人で住むには大きすぎる豪邸のような家だった。ここの国王とは旧知の仲らしく学校や住む場所、更にはおれの身分のことまで協力してもらってるらしい。
「ああ。大丈夫だ」
「ほんとに?うなされてたし、それに目が……」
目?なんだ?
触ってみると濡れていた。どうやら泣いていたみたいだ。
「あ、ああ。大丈夫。ちょっとだけ嫌な夢を見たけどリミの顔見たら平気だ」
そう言って、リミの頭を撫でる。そうするとリミは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
あー、可愛いなぁ。
リミ・シフォンベルク。この名前はおれがつけた。おれにとっては世界で一番大切な名前でおれの大切な人。この名前を付けて彼女と家族のように一緒に暮らすようになったのはちゃんと理由がある。
それは彼女を助けた次の日まで遡る。
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皆さん、ゼットです。このグランファストに着いてから数分が経ちました。なんと、この数分でチンピラたちに絡まれる美少女を助けるという漫画のような出来事に遭遇しております。その美少女は、今は気を失っていておれの背中で眠っています。とりあえず、ここで生活するためにこの国の国王様に用意してもらった宿?家?のようなところを目指してます。
『ほんと、あなたって何かしら持ってるわよね。変な運っていうか普通に考えたら起きるはずのないことが全部起きてる感じ? 一緒に居てこれほど飽きない存在はいないわね』
そう言ってケラケラとバカみたいな笑いをしているロリババア。前までは頼れるお姉さん的な奴だったのに……
『誰がロリババアですって? また本気で相手してあげましょうか? それに今でもあなたは事あるごとに泣きついてくるじゃない。甘えん坊なんだから』
アンはそう言いながらニヤニヤとしているんだろう、ラディーに軽く怒られている。はっ、ざまぁ。
『ゼット、あとで覚えておきなさい……って分かった、分かったからそんなに怒った顔しないでよ! 私とゼットの仲でやってることなんだから。あれ? まさか嫉妬かな? あぁ、羨ましかったのね、それならそうと言ってくれれば————————』
そのあとの言葉は続かず聞こえてきたのは、ぎゃんっ!って言うアンの悲鳴だけだった。バカなアンめ、いつもおれをからかいすぎるからその罰が当たったんだ。
『お前もあまりアンを煽るな、ゼット。あれは昔から煽り耐性がついてないいのだから』
おれまで怒られてしまった。ちぇ、まあラディーのいう事だから仕方ないか。そんなことをアンやラディーに話しかけながら、目的地に到着した。
そこは人がひとりで済むには広いなんて言葉では足りないほどの豪邸があった。これ、あっちの世界で見たなんたら宮殿とかそんな感じのするやつじゃん。でかすぎるだろ……
でも、まぁせっかく用意してくれたんだから少し使用人とか雇ったり、アンやラディーをリミット・バースで呼んでおくって手もあるな。今はこの子の事を聞きに行くのが先だな。とにかく服を用意して、傷も治してあげないとな。
屋敷の中に入り、ベッドのある部屋まで行きベッドに彼女を寝かせる。首輪が邪魔そうだけど仕方ない。とりあえず創造魔法でこの傷を治すための魔道具を創る。イヤリング型魔道具を創り、付けてるだけで傷を治癒するという我ながら自信作である。それを彼女の耳に付ける。
すると傷も治っていき、彼女の寝ている表情も少し楽になったように見えた。おれもそれを見て少し安心したので食料や服など必要なものを買いに行った。数時間後、街の様子や地理を覚えながら買い物から帰ってくると彼女は目を覚ましていた。
まだ、精神的にも落ち着いてないみたいで、少し会話をしてた時にある会話をきっかけに泣かせてしまった。ただ、今までがどんな状況だったのか分からないけど、会話の端々からあまり人を信じられなくなっているのが分かった。だから泣くという感情を出せたのは良かったのかな?今は泣き疲れてまた寝ちゃってるし。
おれも色々とここら辺一帯を調べたり、面倒見たりで疲れたな。この子もこんな感じだし城に向かうのは明日でいいか。そう思いおれは彼女の手をしっかりと握って眠りについた。
次の日の朝、国王のもとに彼女を連れて向かった。理由はお礼と彼女のことを調べてもらうためである。彼女は最初ずっとビクビクしていて、触れることすらできなかった。連れて行く時もどうにかこうにか、説得してようやく服の裾を掴むくらいは許してくれて連れていけた。
城へ着き父さんから渡されたこの国の国王への面会状のようなものを門番に見せる。門番は、その面会状を見ておれを通そうとするが後ろにいたこいつを見て「彼女はここで待たせるよう」にと言ってきた。理由を聞くと、彼女の首に付いてるのはやっぱり奴隷の証らしく国王の前には出せないとのことだった。
しかし、おれにもこいつのことで聞きたいことがある。だから、なんとか一緒に行けないかとお願いして渋々ではあったけどOKをもらった。
「怖くないからな。安心してろ」
そう言って彼女の頭にポンと手を置いた。体をビクッとしさせたが嫌がることはなく、小さく頷き受け入れてくれた。
少し城の中を歩き、グランファスト国王の私室へと通された。部屋の中に入ると男性が椅子に座って軽く仕事をしながら待っていた。目の前の男性からは父さんなんかよりも威厳があるんじゃないかってくらいオーラが出ている。その男性は書類を机の端に置き顔を上げ挨拶をしてくれる。
「この国の国王、マハト・グランだ。初めましてでいいかな? ゼットくん。一応は君がまだ幼い頃に会ったのだが」
「そうなんですか? 申し訳ありません。そのことは覚えていなくて……」
「よいよい。小さかった頃の話だ。それに儂にとって君は親友の息子。自分の家族のように思っているよ。あまり堅苦しくしないでくれると嬉しい」
なんだこのおっさん物分り良すぎだろ!
この柔軟な考え方を少しは父さんにも見習って欲しかった。うん、マジで。
「それで今日はどうしたのかね? 本来は一昨日に到着してそのままここに来る予定だったはずだが?」
「それはすみません。少し面倒ごとに巻き込まれてしまって」
そう言って後ろをチラッと見る。見ると明らかにビクビクと怖がっていた為、頭を撫でて落ち着かせる。
「ふむ。その子は? 見たところ奴隷の首輪をしているようだが……」
「実は二日前にチンピラに襲われていましてさすがに見捨てるわけにもいかなかったので助けました。怪我の具合があまりにもひどい状態だったんで回復魔法で治癒はしました。今日は自分のわがままを受け入れてくれたお礼と、少しこいつのことを調べてもらいたくて」
まぁ回復魔法ではなく創造魔法で創った治癒のアーティファクトだがな。
「うむ、わかった。そういうことなら儂も力になろう。それにしてもこの国に来てすぐに問題に巻き込まれるとはな。君はもしかしたらそういう星の下に生まれたのかもしれないな」
そう言って、ガハハハと高笑いをしている。
いや、笑い事じゃないから……
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