少女を
あの家を出る宣言の夜。
あの後みんなで家に帰り、おれは親友たちや両親、親友の両親と家の使用人全員、そして兄と姉たちに日本で暮らしていたときのことを話した。魔法のない世界で学校や仕事。兵器や機械などのテクノロジー、漫画やアニメといったサブカルチャーなどおれの体験したことや知ってることを話した。みんな、未知の異世界のことだったので興味津津だった。
創造魔法で銃や刀、携帯やパソコンなどこの世界にはない兵器や機械はできる限り創って見せた。二年間の修行のおかげで大抵のものは創れるようになった。でも、ここにあるのは全部創っただけで使えないんだけど。兄さんは武器関連には目もくれずに携帯やパソコンに興味津々のようだ。
まあ、姉さんたち二人はおれが家を出るということを知った時に大号泣してしまい、抱きついて離れてくれなくてしまい、それが原因で母さんに睨まれておれとしては正直話しどころじゃなかったんだけどね。
この世界ですら異世界転生者は珍しいものだから、ほとんど記録がなく噂話や都市伝説敵扱いになっている。
「そういえば、ゼット。たしか隣国に行く予定だと言っていたが、お前はまだ学生だ。こちらの学校に通わないにしろ向こうで学校に通うのであれば、わたしから話しておこうか?」
異世界話で盛り上がっているところ、父さんがそう言ってきた。
「それは、助かるけど……でもいいの?」
おれは自分のわがままで家を出るのだ。それなのに、そんなことを甘えていいものなんだろうか。
「子供が遠慮するんじゃない。たしかに今まで父親らしいことなんか何一つしてないのに父親面されても困るだろうが……最後くらいは父親らしいことさせろ」
父さん……
やばい、また泣きそう。
「ありがとう。ほんと助かるよ」
最後の最後で親子らしいこともできた。こうして、ところどころで涙を流しながら、それでも笑顔で楽しくこの家で過ごす最後の夜を過ごした。
次の日、おれは必要なものを異空間に全て入れて玄関を出る。
外に出ると、そこにはみんなが待っていた。
「「「ゼット、いってらっしゃい!!!」」」
はは、ほんとおれは幸せ者だな。
「いってきます!」
笑顔でそう返す。
門を出て、馬車に乗り込む。この馬車で、隣国のグランファスト王国へと向かう。馬車は爺やが御者の役をしてくれるみたいだ。道中は、爺やと楽しく話をしながらのんびりと過ごした。
数時間後、目的地のグランファスト王国へ着いた。
「爺や、ここまでありがとう。また、何かあったら呼んでくれ」
そう言って、おれは昨日の夜創った携帯電話をこちらの世界でも使えるようにした小型の通信機を渡した。元々設計はしていたし動力源となっている魔力板はなんとか創ることができた。創造魔法だけでは完成しなかったから昔洞窟で見つけた特殊な魔力を溜めることのできる鉱石を使った。
(この魔鉱石も創れるようになったらいいんだけどな。でも、創るのにはある程度の構造とか能力を知ってないといけないし)
一応、父さんや母さん、ソロモンやイサムにも通信機を渡してある。この世界には、通信機や電話といった地球に普通にあった文明の利器が無いのだ。魔法があるから、そういった物を作る必要がなかったのかもしれないが、やっぱりないとふべんだからなぁ。だから創った。魔力を通して、かけたい相手に電話をするだけという使う側には楽な代物である。創るのはめっちゃ大変だけど……
まあ、といっても、渡したものはおれにしか通信をかけれないんだけどね。
「こんな珍しいものをわざわざ、ありがとうございます。大事に使わせていただきます。坊っちゃま、お気をつけて。爺はいつまでも坊っちゃまの味方ですぞ。なにかあったらいつでも頼ってくだされ」
そう言って来た道を戻っていった。
さて、爺やを見送ったことだしそれじゃ行くか。てかこの国は人がすごい入っていくんだな。門の前には入国審査に並ぶ長蛇の列。数十分待ってようやくおれの番が来た。門の前に居る警備兵さんに通行証を見せる。一応、父さんのサインが入ったちゃんとしたものだ。ここまで来て門前払いみたいなことにはならないと思うけど……
「中を拝見させていただきます……拝見させていただきました。ようこそグランファストへ。どうぞ、中へお入りください」
そう言われ、中へと入る。この国では騒がないんだな。騒がれると面倒だから全然いいんだけど。
おー、これはまた凄いな。シフォンベルクの都市よりも人の数が多い。
通りを埋め尽くすほどの、人、人、人。祭りなんじゃないかってくらい賑わっている。周りを見れば、人間族はもちろん、亜人と呼ばれる獣人族や竜人族、悪魔や妖怪、妖精など様々な種族が居る。中には感知したことのない魔力も感じるけど。
『へぇ、この国は中々面白そうじゃないの。いろんな種族がいるし待ちもお祭り騒ぎみたいで楽しそう。これなら当分は退屈しないですみそうね』
『そうだな。感知した感じではなかなかに強そうな奴らもちらほら居るし、ここなら刺激的な毎日になりそうだ』
アンとラディーがそんな事を言ってきた。なんで、お前ら二人はそんなに好戦的なんだよ。もっと平和的にいこうじゃないか。喧嘩はよくないよ、うん。
『『誰が言ってんだ、誰が』』
そう二人に言いながら歩いていると、いかにもチンピラみたいな男たちがニヤニヤしながら路地裏に入っていくのが見えた。
『あら? なにかしらね? あの男たちとは別の弱々しい魔力が一つあの路地裏にあるわね。誰かいるみたいよ』
みたいだな。はぁ、しょうがない。なんでこの国に着いて早々に荒事に巻き込まれなきゃいかないんだ。二人して「「ゼットなら仕方ない」」とかあほなこと言ってるし……
「あのー、そこの怪しい、顔面偏差値低いお兄さんたちー? そんなとこで、こそこそとなにしてるんですかー?」
後をつけ路地裏に入りチンピラたちに声をかけると、そいつらは体をビクッとしさせてこちらを振り向いた。ビクビクしながらこちらを見てきたが、相手が子供だとわかると、またあのニヤニヤ顔で話しかけてきた。
「おいおい、ボクちゃん。ここは君みたいな子供が来る場所じゃないんだよ」
「そうそう、早く出て行きなよ」
「それとも、痛い目見せられないとわからないかなー?」
そう言ってモヒカンのチンピラAが肩に触れようとしてきたので、その手を掴みそのまま顎に掌底をくらわす。それを見た、少し小太りなチンピラBが殴りかかってきたので悠々と躱す。
遅っ。ここまでスローだと躱すのも大変だな。躱したまま相手の首に手刀をいれ気絶させる。
最後の如何にもチャラい格好をしたチンピラCは近距離戦がダメだとわかると魔法を発動させようとしてきた。こんなとこで魔法を使うなよ・・・・・・
一瞬で相手の懐に入り拳を腹に突き刺すと、チンピラⅭはくの字に曲がり倒れてしまった。
あれ?強くやりすぎた?
まあいいか。そう思い、倒れるチンピラ三兄弟の奥に目をやる。そこにはボロボロの服を着て、首にはアニメとかでよく見る奴隷などがよく付けている大きい首輪をつけた少女が死んだ魚のような眼をしながらこちらを見ていた。
あぁ、これって結構やばめのやつかも。簡単に首突っ込んだの失敗だったかなぁ……
王都に居るみんな、おれはグランファストに着いて早々、事件に巻き込まれそうです。
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