謁見の間に
「申し訳ありませんがこの国の身分証もしくはこの国への通行証を見せてください」
王都へと着き、門をくぐろうとしたとき門の前に立っている番兵に声をかけられた。基本的にはどの国でもこのやり取りはある。いわゆる空港でパスポートを見せるようなものだ。
はぁ、いつも思うけどこれってすげぇ面倒なんだよな。おれたち、ここの王子様なんだよーって言わなきゃいけないとかどんな罰ゲームだよって……
「はい、これでいいー? ゼットはいつも嫌がってるけどなんでなの?」
「ゼットも面倒くさがっていないで早く見せろ。時間がもったいない」
何やってんの?何そんな堂々と出してるの。あぁ、もうこの二人は本当にもおぉぉぉぉ!!
なんで普通に出しちゃってるのかな?自覚ないのかな?この世界ではこれが常識なのかな?二人に詰め寄りたいのを必死に抑え、「はぁ」とため息をついて身分証を番兵さんに見せる。
すると、その番兵さんは身分証を見るなり顔を青ざめさせていき体が石のように硬直してしまった。
「あれあれ? 固まっちゃたよー。逆を見せちゃったわけじゃないよね?」
「そんなことはないはずだが。一体どうしたんだ? なにかおかしなところでもあったのか?」
このバカどもはやっぱり自覚ないのか。
身分証明書には二種類あり一つ目は名前や自分がどの国に所属しているのかが書かれているもの。もう一つは先ほどの者に加えて自分が六階級のどこかも書かれていたりする。普通、人に見せるときは階級の書かれていないものを見せる。色々と生活するに面倒なことになるから見せないのがマナーだ。
「普通この国を支えている家の息子たちが急に自分の前に現れたら固まるだろ」
一人は王子だし、二人だって王子として扱われているわけだし。何でこんな簡単なことが分かってないんだ。
あぁ、なんか頭痛くなってきたな。ほんとにこいつらはそこら辺の当たり前な感覚が抜けている。ここら辺が日本で生きていた時の感覚の名残なんだろうな。
「ふむ、そういうものなのか?」
全然納得できてないソロモンと。
「うーん、そんなもんなのかなー」
と番兵の顔や腹をつつくイサム。おい、バカやめろ!?
そんな風におれが頭を悩ませていると、固まっていた番兵さんがハッ!と目を覚ましたと思うと「た、大変申し訳ございませんでした!!!」と言って勢いよく土下座をしてきた。
「いや、いいから、いいから」
ほんとそういうのやめてよ。後ろに人いるしそう騒がれると困るんだよなぁ。なんかひそひそ話てる人いるし。
「で、ですが……」
そんなに気にしなくていいのに。元はこのバカどものせいだしな。
「ほんと大丈夫だから。もう通っていいか?」
うん。早く帰りたい。だから通してくれないかな。
「は、はい! どうぞお通りくださいませ!!」
そう言って門を開けてくれた。
門を通り、数時間ぶりに帰ってきました王都へ!!
いつ見ても綺麗な街並みだな。初めて母さんに連れられてきたとき、めちゃくちゃ感動したのを今でも覚えている。石畳の道路にコンクリートやレンガなど、元の世界でお馴染みのものばかり。しかし、日本とは違いヨーロッパ風の街になっている。この国の王都ということもあり人もたくさん居る。そして、街の中央にある巨大な城こそがおれの家でもある。
「やっと、王都に帰って来れたねー。それでも一番早く帰ってこれたんだけどさ」
「それでも思った以上に時間がかかってしまったからな。早く行かねばな」
そう、あの城で父であるヴォルケム・シフォンベルクがイライラしながら待っているはず。さっきから胃が痛いんだよ。あの人はおれのことを嫌ってるから、今回のこともなに言われるか分かったもんじゃない。
『あなたの父親は、ただ怖がってるだけよ。ゼット・シフォンベルクという規格外の存在に』
『お前は異世界転生者ならではの感性や知識があり独自の魔法を生み出している。父親も自分の考え方や思想が全く違うからこそ恐怖でしかないんだろう』
おれの中で二人がそう言ってくる。成程な、そういうことか。だから姉さん達や兄さんではなく、おれが目の敵にされるのか。あの二人だって常人とはかけ離れたものを持っているはずなのに、嫌われてるのはおれだけなのは。
確かに、前を歩いてる二人ともおれの考え方や思考回路は違う。だからこそ親友となれた部分も多くあるが、父親からすれば子供ではありえない異常なまでの理解力や応用力。この世界の常識とは違う考え方。そして、オリジンと言われる独自の魔法にこの年齢ではありえないほどの魔力と力。恐怖して当然か。
異端視されてもおかしくはない、か……
「それにしても、ゼットはなんの転生なんだったの? さっきは急いでて聞けなかったけどさー」
早く教えろってか。どうやって誤魔化そうか。
「もう家に着くだろ。だから報告の時ちゃんと見せてやるよ」
ここじゃ人目がありすぎるし力を抑えるのがまだ難しいからな。万が一騒ぎになったら大変だ。
「それじゃあ、早くいこっ! 早く見たくて見たくててウズウズしてるんだよねー」
「それに関してはおれも同意だな。何でだろうな、なぜだかさっきから震えが止まらないんだ」
どれだけ見たいんだ。二人からの圧がすごいな。
二人に急かされて、駆け足で家まで戻ってきました。
「「おかえりなさいませ、若様。そしてお二人も卒業試験お疲れ様でございました」」
門のところでは執事一同、メイド一同がおれたちの帰りを待っていてくれた。
「出迎えご苦労。それで父上はいるか?」
城へと入りながら、王子モードで対応する。ぶっちゃけ普通の喋り方よりこのモードの方が評判はいい(一部を除いてだが)。
だけどめっちゃ疲れるんだよね、これ。だから個人的にはあまり使いたくない。
「ヴォルケム様は謁見の間で皆様をお待ちです」
執事の一人が答えてくれた。
おれたちは出迎えてくれた執事やメイドたちを仕事に戻し通路を進む。少し歩き、ようやく謁見の間に着いた。
あぁ、目の前まで来ると胃の痛みがピークに達した。ほんと、なんで自分の父親に卒業試験の報告をするだけでこんな思いをしなきゃいけないんだろうか。
「さて、いくか」
胃の痛みを耐えながらおれは二人に声をかける。二人は苦笑いをしながらおれの肩に手を置くと頷いた。
そしておれは扉を開けた。
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