到着
ゼーレン・ヴァンデル大聖堂を出ると、第二陣、第三陣の生徒たちがおれたちの目の前の草原を走ってくるのが見えた。
「仕方ない、少し道から外れたところで〝あれ〟を使うよ。ここじゃ他の奴らに見られる危険があるからな」
「そうだな。それなら面倒ごとにはならなそうだしな」
「まあ確かに、こいつらと顔合わせたり話したりするの嫌だしね」
そう言いながら、おれたちは他の生徒の目に付かないところまで移動することにした。ある程度大聖堂から離れたところに移動すると、おれはある魔法陣を展開する。
「流石はゼットだな。いつ見てもこの魔法は凄いな。いくら能力が上がったとはいえ理解できないし、理解できたとしても使えそうにもないな」
「ほんとだよねー。たしか、この魔法を使えるのってゼットを含めてもこの世界に数人しかいないんだよねー」
この魔法ってそんなに凄いのか?元の世界の知識(アニメやゲーム、ラノベが主)では普通なんだがな。
「そんなことはいいから早く転移するぞ。早く来ないなら置いていくぞ?」
そう、おれが使ったのは転移魔法。今いる場所から任意の場所へと移動する魔法だ。しかしこの魔法はおれのオリジナルであり、一度行った所にしか行くことが出来ず、何より魔力の消費がエグい。その為、あまり乱用は出来ないし、そもそも使えるのはおれだけしかいない。この世界の転移魔法とは根本が違うからな。
「「分かったから、置いてかないで!!」」
二人がおれの肩に慌てて捕まったのを確認して魔法を発動させる。魔法陣が輝き、行き先を思い浮かべる。そうすると、あら不思議、さっき思い浮かべたところに着いているではありませんか。
とまあ、魔法を発動させて行き先を思い浮かべれば一瞬で転移できる。
「よし、無事に着いたな」
「いやー、ほんとゼットが居ると色々と楽できるよね。今夜のおかずに! 的なポジションだよね」
「最後のボケは意味わからんが。まぁそうだな、魔法の原理を教えてもらってもコイツの魔法は理解しにくいものが多いからな」
そうなんだよな。おれの説明が下手なのか、そもそも思考回路が違うのか分からないが、おれの魔法はほとんど理解してもらえない。だから、爺やからは 〝オリジン〟 いう唯一魔法と言われている。
おれのように自分で魔法を作る人は少なくはないがこの年で色々な新魔法を創造しているおれはどうしても恐怖の目で見られることが多い。怖がらないで褒めてくれるのがこの二人と父さん以外の家族と爺や、それにソロモンやイサムの両親も驚きながらも褒めてくれる。父さんは、おれが物心ついたころからの言動が怖かったみたいで姉さんたちを助けたあの日を境に嫌われてしまった。
まぁ、それでも転移くらいは覚えてもらえると助かるんだけどな。
「それにしても、門よりだいぶ前に転移したんだな。てっきり王都の中まで入るのかと思ったぞ」
ソロモンよ、そんなことしたら父さんに何言われるか分からないだろ。
「てか、ゼットの部屋に転移すればいいのにー。どうせ学院に報告する気ないんでしょ?」
バカだろ、お前は。そんなことしたら絶対に母さんが飛んでくる。
「そんなに文句言うなら、次からお前らだけは歩けよ」
そう言っておれは二人を置いて門まで走っていく。すると「「絶対やだ!!」」と叫びながら二人が追いかけてきた。
それにしても転移を使ったのに魔力の減りがほぼない?いつもなら半分くらいは無くなるはずなのに。
『それはね! 私やラディーが居るからよ。魔力なんてほぼ無尽蔵に近い状態にあなたは変化したの。その程度の魔法なら何度でも使えるわよ』
まじか!流石は伝説の魔王様に最強のドラゴンだぜ!
『あ、でもあなたの体はまだあだ子供なんだから無理に使うとひどい目に遭うからね? いくら常人離れしてるとはいっても私たちの力はそう簡単には扱えないわよ』
『そうだな。せめてもう少し体力をつけて肉体を強化しないと意味ないぞ。嫌いだった筋トレや体術のトレーニングをやってもらわないとな』
ここにきて、昔のサボリがきいてるのかよ。仕方ない、あの計画を少し遅らせてあと二年間は体を鍛えることにしよう。中等部を卒業と同時に、でいいな。
そうこうして話しながら走っていると門に着いた。
「やっと帰ってきたな。ゼットの転移があったとはいえだいぶかかったな」
「そうだねー。意外と時間経ってるよねー。やっぱ最後の人が時間かかってるのかな?」
はぁ、こいつらは文句しか言わんのか。イサムに関してはおれのことだし。でも、二人だって軽口叩いてはいるが濃密な体験をしたんだ。二人ともかなり疲れてるな、普段は見せないが表情に出ているし。
「それにしてもゼット走るのめっちゃ早かったよね。最初のフライングはあったけど最後まで追いつけなかったし」
「俺たちも追いつくように必死だったんだけどな。身体強化の魔法も使っても無理だったのがおれ的にはかなりショックだな」
ふむ、おれだって身体強化は軽くしてた。でも、普通の身体強化の魔法だしそこまでじゃないはずなんだけど。これもアンたちの影響なのか?
『えぇ、気づかれないようにしてるけどかなり変化してるわ。今のあなたでも、さっきの神官と同じレベルよ?』
『そもそも、魔王と竜が同時に居るなんておかしいことだしな。災禍級という人が到達できると言われている最高位にその年でたどり着けたぞ』
それを自分で言うか、ラディー。でもそうなのか、感知されないだけでおれの身体もめちゃくちゃな変化をしてるわけか。それにおれが災禍級?そこまでバグってるのか。
これ以上は勘弁してほしいな。
「おーい。ねぇ、話聞いてるー?」
アンたちと話をして立ち止まっていたら目の前で手をブンブン振ってるバカがいた。できる限りアンたちと話すのは人前ではやめよう。慣れないとこんな風に不審がられる。
「あぁ、聞いてるよ」
そう言ってイサムの頭にチョップをかます。
「痛っ! 何すんのさー」
うるせえ、バカ。バカは放っておいて、とりあえず王都へ入るか。
「ほれ、説明してやるからさっさと行くぞ」
面倒だけどあの人へ儀式の結果を報告しないといけないしな。
はぁ、ため息が出る…………
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