いざ王都へ
ゼットが魔法陣に入ってからどれだけの時間が経ったんだろう。俺たちの目の前には未だに漆黒の魔力に覆われたゼットが立っている。
目の前の魔法陣は俺たちの時とは違い、全くと言っていいほど輝きを放っていない。ただただ、膨大な魔力がドームのような形でゼットを覆っているだけ。この黒い魔力は一体何なのだろう。魔法陣や魔力の輝きは自分の過去を表している。
それなら……
混ざる前の輝きと混ざってからのどこまでも続く闇のような漆黒の輝きは何なんだ?
それにしても遅い。まだなのかまだなのかと、少しイラつきながら待っているととゼットを覆っていた魔力が一気にあいつの中に入っていった。そして漆黒の魔力が消えると魔法陣の中からいつもと変わらぬ様子で俺たちのリーダが出てきた。
「わりぃ、待たせたか?」
そう言ってゼットは軽く右手を上げ悠々とこちらに歩いてきた。
--------------------------------
精神世界から戻り、目を開けるとそこには何故かぽかんとした顔の三人が待っていた。なんであんな顔してるんだ?
まあとりあえずは。
「わりぃ、待たせたか?」
と言って、三人のもとに歩いていく。するとその言い方が気に入らないのか三人は先ほどまでぽかんとした顔を若干の呆れた顔に変えていった。
「待たせたか、じゃないよー! めちゃくちゃ待ったんだから!!」
「ああ、流石に長すぎて何かあったのかとヒヤヒヤしたぞ」
へらへらとした態度で行ったせいで、ソロモンとイサムから軽く怒られてしまった。何を怒っているのか聞くとおれが魔法陣に入ってから三十分も経っていたようだ。まさかそんなに時間経ってたなんて分からなかったな。
それにしても心配しすぎだろ。なにかあるのは分かってるんだしもう少し信用して待っていてくれてもいいんじゃないか?
「まあまあ、お二人共。そのくらいで。それにしても流石はシフォンベルクの若ですな。数十年、ここでいろいろな人たちを見ていますがあんな現象初めて見ましたぞ」
二人の様子を見かねてサンタロスがそう言ってきた。最後の方はなんか興奮した感じだったけど。まあ転生していたのが伝説上の魔王様にドラゴンだからな。こっちの世界でも面白いことになっていたに違いない。
おれにはどんな現象か分かってないんだが、三人曰く。
何色もの魔力が混ざり合って漆黒となり、ドーム状におれを覆ったらしい。まさかのとんでも展開だな。普通にイサムのときやソロモンのときとは全然違うんだな。
そりゃそんなの見たら焦るし、心配するな。それならあんな感じで出っていたのは悪かったな。
「でも、あんまり見た目には変化ないんだな。俺やイサムのように変化しなかったのか?」
「だよね、だよねー。普段のゼットって感じでなんかつまんなーい」
そうなのだ、二人の言うように見た目に変化はなく魔力の質が変異したわけでもない。いたって普通。
なんでだ?あの光景は夢や幻だったか?
おれ自身あまり理解できていない。生まれてから頭を働かせることが多いな。そのせいか最近は自分の考えとは別の考えが思い浮かぶようになってきたんだよなぁ。
『それはね、私たちある程度あなたの魔力をこちら側から抑えてるからだよ』
どこからかアンの声がする。周りを見回しても姿が見えない。どこだ?
こちら側からって言っていたけど・・・・・・まさかっ!
『そうだよ。精神世界からあなたに話しかけてるの。あっ! 他の人たちにはあたしたちの声は聞こえてないから安心してね』
やっぱりか。つまりこの儀式を行うと本来は前世の自分と二人三脚のような形で生活していくのか。
『そうよ、この転生魔法はそのためのものだから。それと、私たちのことやさっき教えたことはまだ他の人たちには教えないでね。そもそも並大抵の努力じゃここまでの力は得られないし、あなたみたいに異世界転生者っていう規格外でもなきゃ無理なことなんだから』
普通に今のままでも十二分に強い人たちはいっぱい居るしね、アンはそう言う。そうだな、目の前のサンタロスや爺やは人としての最強の位置に居るし。姉さんたちはおれより二つ上だけど、それでも同世代の女子たちに比べたら圧倒的な魔力や力を持っている。兄さんは武力でいえば飛びぬけて強くはないが頭脳がずば抜けている。高等部の勉強を十三歳の時に終わらせているほどの天才児だ。
まあ、でも、母さんや爺やあいつら二人に隠し事するのはあんまり気が進まないけど・・・・・・
それでも確かにおれほどの規格外でもなければ潰れる可能性もあるのか。てか、改めて自分が規格外なのを思い知らされたな。
「どしたの? やっぱどこか変な感じがするの? ゼットは昔から難しい顔するときはあんまり頼ってくれないけど、今なら少しは役に立てると思うよ」
「そうだな。急に黙り込んだりして、どうしたんだ。なにかあるならすぐに言ってくれ、俺たちで出来ることは手伝うぞ」
アンと話していると二人が心配したように話しかけてきた。頼りないなんて思ってねぇよ。照れてそんなこと言えないけどな。
「悪い、悪い。ちょっと記憶の整理をしてただけだ」
そう言ってごまかす。アンも言ってるように親友たちを危ない目に合わせるわけにはいかないからな。こんなに心配してくれてる親友たちに嘘をつくのは気が引けるけどな。
「そっか、それならいいけどねー。それよりゼットはどんな力だったのさ? もうずっと気になって仕方なかったんだよね!」
「そうだな、それは気になるとこだ。あんなに大掛かりな演出だったんだからとんでもないものだったんだろ?」
やっぱ二人ともそこが随分と気になってるみたいだな。
「それは帰りながら話す。さすがに後続のやつらがここに着いたみたいだし。面倒ごとになる前に帰るぞ」
そう言って扉の方へ向かって歩いていく。
「あー、もう待ってよー。ねぇ、絶対教えてよ! ねぇったら!」
「はぁ、それじゃあ、サンタロスさん。なにかとお世話になりました」
「それじゃあ、また。爺やにはよろしく伝えとくよ」
おれたちはサンタロスに挨拶をして、ゼーレン・ヴァンデル大聖堂をあとにする。
さてと、この二人にはどうやって説明しようかな。
読んでいただきありがとうございます。
加筆修正をいたしました。
感想、ご意見、誤字脱字報告お待ちしてます。




