味方が
なんと、おれの前世は破滅のドラゴンさんと始まりの魔王様でした。どんだけチート能力保持すればいいんだよ。なに、おれこれから最低最悪の敵とでも戦うの?いやだよ、自由気ままに異世界ライフしたいんだから。
異世界転生者で、こっちでの転生は魔王とドラゴンって……
『ねえ、ねえってば! 返事してよ。聞こえてるの? ほんとに大丈夫?』
若干現実逃避しているとアンがおれの肩を揺らしながら心配そうにこちらをを見つめていた。紅くきれいな瞳を潤ませながら申し訳なさそうにしている。
『ふむ、やはり十二歳の少年にはまだ早すぎたか。すまないな、急にこんな風に出てきてしまって』
そう言って少し申し訳なさそうな顔をするラディー。イケメンが申し訳なさそうにシュンとした顔をするとこっちまで気を使ってしまうな。
この表情……
二人共、おれのことが本気で心配なんだ。この感じ、母さんや爺やがおれのことを見ているときの感じに似てる。それならおれがすることは一つだな。
『二人ともごめん。流石に展開が急すぎて頭がフリーズしたよ。でも少し落ち着いたから大丈夫だよ』
もう大丈夫。うん、受け入れてしまえばなんてことはない。おれがそう言って笑いかけると二人とも安心した表情を見せてくれた。
やっぱ、二人とも笑ってる表情のほうがいいな。二人とも美男子と美少女って感じだから、あんな暗い顔をよりも笑顔でいてくれるほうがいい。
『そっか。そうだよね。急にこんな風に出てきてごめんね。びっくりしたよね?』
『すまないな、おれたちは随分と昔に死んでから一度も転生したことがなくてな。魂の世界でうろうろとさまよい続けていたのさ』
だから少しはしゃいでしまった。とそう言いながら反省している二人。依代となる身体がないやつら転生できなくて魂の世界と呼ばれるところにさまよい続けると。へぇ、二人とも一度も転生したことがないのか。
…… …… ……?
ん?一度も転生したことがない?どういうことだ?
今、おれの頭には大量のクエスチョンマークが出現している。頭に大量のクエスチョンマークを思い浮かべつつ質問すると二人が説明してくれた。
『なあ、なんで一度も転生できなかったんだ? だいぶ昔の存在だっていうなら少なくとも一度や二度転生しててもおかしくはないだろ?』
『ああ、それはな。おれたちはこの力の性質上、転生してもその依代が耐えられなくて死んでしまうんだ。だから、おれやこいつは待つしかなかったんだ。おれたちの依代となれるであろう器を持ったやつを』
とラディーが説明してくれる。
『そう、私たちはあなたが異世界から来てくれたから転生できている。異常なまでの精神と肉体と知識を持って異世界からこの世界に現れ転生したあなただからこそ器になりえたの。まぁ、あなたは私たちの予想以上の規格外みたいだけどね』
アンがラディーの説明を補足してそう言う。
『————ッッ!! なんでそれを知ってるんだ?』
それは母さんと爺やにしか伝えてないぞ!?どこでそれを————
『そんなに警戒しないで頂戴。私たちはあなたが産まれた時からあなたのことを知ってるの。この世界のみんな知らないだけ。だって輪廻転生って産まれた時からその人の中にいるのよ? この魔法陣や儀式によって過去の魔力を刺激してこの世に出してくれているだけ。そのおかげで私たちはこちらの世界に干渉できるようになるの』
こちらの世界に干渉できるようになることというのが即ちソロモンの見た目の変化でありイサムの炎の翼なのだろう。魔力の質が変化したこともそのためか。おれの身に起きている精神世界への干渉もその一つと見るべきか。それにしても驚きの新事実だな。なんでこの世界のみんなは知らないんだ?普通に考えたらこんなこと世間の常識になっていてもおかしくないことじゃないか。
『このように精神世界に干渉できるほどの力は普通の人間たちには備わってはいないからな。だが、この力を鍛錬して深く入ることができれば知ることが出来るはずなんだがな。おれたち魂だけの存在である〝ゼーレン〟は意識はずっとこの精神世界にあるんだからな。』
『ならどうして……』
『多分なんだけど、昔私たちが死んで何年かした頃に大きな戦争があったの。その時にこの魔法に関する文献とか、情報を知る者たちが全ていなくなったんだと思うわ。私たちもこの魔法のことはこれ以上詳しくは知らないのよ』
なるほど。アンの言ったことはきっと間違っていないだろう。歴史の中から消されてしまった真実。だからこそ誰一人としてそのことを知らない。本当の意味でこの魔法のことを知っているのは誰もいないってことか。
しかし、まだ色々と謎があるな。これから色々と調べていく必要があるな。
だけど今は——————
『まあ深く考えても仕方ないわ。それは今度ゆっくり考えていきましょう。私たちも力になるから
『そうだな。それにゼットはそろそろ戻らねばならないからな。もうすぐこの魔法陣の効力も切れる』
二人はそう言っておれから少し距離をとった。先ほどまでとは少し違い真剣な眼差しでおれを見つめる二人は大事な宝物を守るかのように言葉をかけてくれた。
『また会いましょう。ゼット、私たちはこれから先、何があってもどんな選択をしてもあなたの味方よ。教えなきゃいけないことがまだまだたくさんあるんだから』
『ああ、おれたちがずっと一緒だ。なにも心配することはない。お前のことは必ず守ってやるからな』
『——————ッ。ありがとう、二人共』
二人にそう言われ、自然と目頭が熱くなり返す声が震えてた。
味方。その言葉はおれにとって何よりもかけがえないものだから。きっとこれから先何が起きても大丈夫だ。
おれには頼れる幼馴染や家族、相棒がいるのだから。
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