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第十二章 守るべきもの Ⅰ

 ふたりがシェラネマーレのサポーターになったきっかけは、もっと幼いころに親に連れられて観戦に行ったことだった。

 その試合は負けたが。選手たちの懸命な戦いに胸を打たれて、気が付けばサポーターになっていた。


 不思議なものである。親は観戦に行けども特定のクラブを応援することはないが、ふたりはシェラネマーレに興味を示した。成績は関係なかった。

 そこがガルドネの言う、人は摩訶不思議というところであろうか。

 そんな、ふたりのようなサポーターは、勝利を祈りながら入れ替え戦の日を待った。


 龍介たちも練習に励んだ。

 選手や監督コーチたちとで戦術論議もよく交わした。

 カージェンという選手がいる。

 右フォワードの選手なのだが、龍介が来てからはベンチで控えの選手となった。この場合はふてくされることもあるのだが、カージェンはそんなことはなく、サポート役に徹していた。


 普段あまり話さないが、練習時は龍介によくついて様々な助言をしていた。

 クラブには試合に出る選手のみならず、出られない選手もいる。それらの選手は交代要員としてベンチに控えたり、ベンチ入りできなくとも裏方としてサポートに回る。

 全ての事はそんな、皆の協力なくしてなしえなかった。


「まあ、試合に出たいと思うよ、正直言ってね」

 カージェンは言った。

「かと言っていじけてもはじまらないし。サポートでもなんでも、自分ができることをするまでだよ」

 それを聞いて、龍介は感謝の念を覚え、頭が下がったものだった。


「ファセーラもそんな感じなんでしょうか」

 休憩時間の時にカージェンと話し合う機会があったので、ふと質問をした。

 シェラネマーレは皆が団結し、必死になって入れ替え戦に備えている。が、それはファセーラも同じなのかと、ふと、龍介は気になり。カージェンは微笑んで応えた。


「そうだな。必死も必死だろうな。夢に向かい、上へ上へとゆく力というものは、想像を超えるものだからね」

「なるほど……」

 思えば、龍介も地域リーグからJリーグへの昇格のために戦っているのだ。ファセーラには、にわかに親近感も覚えた。


「僕は、自分の世界では地域リーグからの昇格を目指しているんで。ファセーラが昇格してきたのは、凄いと思うんです」

「そうだったか。ある意味では仲間だな」

「そうですね。自分も、元の世界に帰ったらファセーラみたいに昇格を目指して、頑張らないといけませんから」

「そうか。なら、これだけは覚えておいてくれないか。一言で勝負の世界と言っても、いわば夢と夢のぶつかり合いだからね。一方の夢がかなう時、一方の夢が破れる。だから、過剰に憎まない、尊敬の精神が求められることを」

「わかりました」

 人によってはきれいごとだの脳内お花畑だのと言って否定するが、やはりこれなくしては勝負の世界は成り立たないとカージェンは結論付けた。

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