第十一章 理想と現実と…… Ⅶ
聞けば相当に戦意は高いという。
格で言えばシェラネマーレが上だが、負けが込み調子が悪いのは否めない。対するファセーラは格は下とは言え、勝ちを重ねて波に乗って勢いがある。
入れ替え戦ではそれらの要因により、格下が格上に勝ち立場が入れ替わるということがたびたび起こったものだった。
さて、クラブ側が必死に入れ替え戦に備えている時。サポーターたちもだまって待つだけではなかった。
「シェラネマーレなんか応援して楽しいのか?」
「どうせ応援するなら強いところを応援しなよ」
などなど言われながらも、
「やっぱりシェラネマーレが合うんだ」
と、懸命な応援をするサポーターたち。
自分たちができることはなんだろうと、自問自答してもいた。
「ねえ、今度の入れ替え戦、行く?」
ある学校で、ひとりの少女が同級生に語り掛けた。語り掛けたのは、長い黒髪の、おとなしそうな印象のテンシャンという14歳の少女だった。
そこは13歳から15歳までの少年少女が通うマーレの中等学校。
未来の人材育成のために、マーレ王国が多大な投資をして建造した、壮麗な石造りの2階建ての立派な学校だった。
教室では高座の教師の教えを説き。十数名の生徒たちが床に座ったり椅子に座ったりして自由な格好で聞き。時には質問を投げかけるなどの論議もする自由な雰囲気だった。
授業がひとつ終わっての休み時間。
語り掛けられた短い栗色の髪に栗色の目の少女、ローセスは笑顔で、
「うん。行くよ」
と応えた。
ふたりは学校の同級生であり、シェラネマーレを応援するサポーター仲間でもあった。
「シェラネマーレなんか応援して面白いのかよ」
意地の悪い男子が茶々を入れるが、ふたりは、
「人生には良い事や悪い事、色々あるけど、それに振り回されたり負けたりしちゃだめって、教えてもらったでしょう」
そう応えて。茶々を入れた男子はつまらなさそうに、
「ちぇ。いい子ぶりやがって。センコーの奴隷かよ」
と離れた。
「ああいうのがサポーターになると、問題を起こすんだよね」
「そうだね。どこまでも着いて行くなんて言って。負けが込んだら怒って、問題起こして。みっともないわ」
「こういう時こそ応援してのサポーターだよね」
ふたりの会話に熱がこもる。
試合で負けるのは悔しいが。仲間であるはずの人たちがあらぬ行為に及んで問題視されることは、もっと悔しかった。そして悲しかった。
だからこそ、こんなことに負けないようにと、ふたりで励まし合った。
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