第十一章 理想と現実と…… Ⅵ
入れ替え戦のための準備をせねばならない。コロッセオの手配、必要な資材の輸送と搬入、それをこなす人材の確保、費用の算出などなど。
この世界では、入れ替え戦の段取りは、上部リーグ側がすることが決められていた。
いざという時に備えての警備の強化も加えなければならなかった。費用がかさむが、やむをえない。しかし、気が立ったサポーターの目に、警備兵の威嚇はどのように写るだろうか。
喧嘩をした者は警告を受けても反省せずに、捨て台詞を唾と一緒に吐いて立ち去ったというではないか。
それを思えば、警備兵が目をいからせても怖じずにかえっていきり立つことも考えられた。
「……でも、何があろうとクラブと選手たちは守らないと」
悲壮な決意を胸に秘めて、自分の仕事に打ち込む。
一方、龍介は自分の部屋でゆっくり休んでいた。
余計なことを考えたくないので、読書にふけっていた。
シェラーンは屋敷に帰らずに打ち合わせのために入れ替え戦を開催する第5コロッセオにいた。
第5コロッセオはマーレ市街地の西のはずれの郊外にある。5つのコロッセオのうち一番離れた場所にあり、規模も小さい。
交通の便もよくなく、離れたところにあり、かつ入れ替え戦ということで観客は少ないだろう。
条件の良いコロッセオはすでに抑えられており、この一番条件の厳しい第5コロッセオしか選択肢がなかった。
そこでシェラーンはコロッセオ詰めの役員とあれこれと話し合っていた。
そこで、警備の話がよく出た。サポーターの狼藉の話は役員も知っていたから、神経をとがらせているのは見て分かる。
「シーズンの終盤はどこもそうなんですがね」
と苦笑しながらシェラーンに同情しているようだった。
「いえ。私も問題が起こらないように尽力します」
打ち合わせを終えて第5コロッセオを後にして、以後、入れ替え戦の日までシェラーンは段取りのために忙しく働くことになった。
龍介も試合の翌々日から練習に加わり、皆と一緒に入れ替え戦に備えた。
幸い変な悲壮感はない。しかし、今まで感じたことがないほどの真剣さはあって。龍介もその真剣さについてゆくのに必死だった。
相手は2部のセカンドリーグで優勝をしたファセーラというクラブだという。
セカンドリーグには、1部のトップリーグから降格した降格組のクラブもいて、復帰のために入れ替え戦を戦うこともあるが。
ファセーラは降格組ではなく、一番下の5部ローカルリーグからこつこつと上がってきた叩き上げの新興クラブだった。
ファセーラにとって入れ替え戦は、負けて仕方なく試合をするシェラネマーレと意味合いが違う。下からコツコツと上がってきて、夢にまで見たトップリーグが目の前にまで迫った、夢を懸けた試合だった。




