第一章 異世界に呼ばれて Ⅶ
両脇に居並ぶ武人や魔導士たちはしわぶきひとつせずに、静かにたたずみ。相当な訓練を積んできたことを無言で語る。
「楽にしなさい、と言っても無理そうだな。やむを得まい、突然異世界に召喚されてはな」
龍介の様子を見て、バジョカ大王はいたわるように言う。そのまなざしも優しげで、心がほぐれるのを覚えて。
「はあ」
と、思わず安どのため息をついた。
(こやつ、大王の御前で!)
武人が目をいからし龍介を睨むが、察したバジョカ大王はその武人を睨んで、目で制した。それから表情をほぐすように笑顔になった。
「少しは気が楽になったかな」
「は、はい。おかげさまで……」
心はほぐれて、バジョカ大王は信用してもよいと思えるようになった。
「大王、話は私がいたしましょうか」
「いや、予がしよう。すべては予の望みからだからな」
「わかりました」
ガルドネは口を閉じて静かに伏し目がちに視線を落とした。
それと入れ替わりに、バジョカ大王は痛いほどの視線を龍介にそそぐ。
「予はマーレ王国を治めるバジョカである。単刀直入に言おう。私の国でサッカーをしてほしい」
「はあー?」
思わぬことを聞かされて、龍介は素っ頓狂な声を上げてしまい。臣下や小姓らは不敬だと怒りの視線をそそぐ。
その気配を察して、龍介は口をつぐんで姿勢をただした。
ガルドネは無表情だが、バジョカ大王は苦笑する。
「驚いたか、無理もない」
「でも、どうしてですか?」
「うむ……。魔法が開発されて一千年。言語の障壁を取り除くのみならず、様々な場面で魔法は有効活用されるようになった。そしてついに、異世界を覗き見て、人の行き来ができるまでになったのだ」
バジョカ大王は得意そうに力説し、龍介は
「な、なんだってー!」
と、大きな驚きを隠せなかった。
「君の世界の、スポーツというものは面白い。見ていて興奮する。まさにエンジョイ&エキサイティングだ!」
「……」
驚きが大きすぎて、もう声も出ずただ呆然とするしかなかった。
「大王さま、選手の召喚も出来たのですから、帰り支度を……」
「うむ、都に帰るか。者ども、支度せよ」
バジョカ大王の命令が下り、臣下たちは「はっ」と返事をして幕舎から出て兵士たちに命令を下す。
龍介はガルドネが預かることになり、魔導士と行動を共にすることになった。
帰り支度は素早く進められて、1時間後にはバジョカ大王擁する先発隊が出発した。馬に跨る騎士に槍を立てる歩兵、その軍隊の様を見て龍介は、
「うわー、まじダレイオス戦記みたい」
と、ひとりごちた。




