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第十一章 理想と現実と…… Ⅲ

 最初はお通夜のように重く沈んだ雰囲気で、咳ひとつもないような静けさの中での食事だったが。徐々にだが、人の声がしはじめる。

 やはり人間黙りっぱなしは無理なようで、まず試合に負けた悔しさから会話がはじまり。そこから、なにがいけなかったのか、次はどうすればよいのかと、話は進んで。


 そこから、たわいもない日常会話に話が広がってゆき。徐々にでも、重く沈んだ雰囲気がやわらいでいった。

 龍介もとなりのリョンジェといろいろと話をし。聞けば幻想冒険小説が好きでよく読んでいると、そんな趣味の話まで聞き出していた。


「ポテーレアタッコ文庫の幻想冒険小説はいいぞ」

「なるほど……!」

 龍介の世界で言うところのラノベが好きなのかと、うんうん頷きながら話を聞いていた。

 そんなたわいもない会話をしても、やはりサッカー選手、話はすぐに試合のことに戻る。


「今日の試合ほど、負けることがこんなに悔しいと思ったことはなかったよ」

「オレも……。なんとか残留を決めたいと思っていたけど、厳しいな」

 ちらりとシェラーンに目配せした。席について静かに食事を口に運んでいるが。それ以外のことができなさそうなほどに、動作がぎこちない。


 シェラーンも、色々と悩んでいるんだろが。それを出すまいとしているのはわかるだけに、見ていて心が痛い。

 召使いさんはそれぞれの杯や皿を見て回り。おかわりはいりませんか? と声をかけたりする。ギャロンは勢いよく料理を平らげて、

「おかわりをお願いします」

 と、皿を差し出し。召使いさんは笑顔でそれに応えていた。


 人間腹いっぱいになれば、どんなに機嫌が悪くても、いくらかは直るもので。悔しさは晴れないものの、落ち着きは取り戻して行けたようだった。

「皆、聞いてくれ」

 レガインは立ち上がって、皆に視線を向ける。


「いつもの通り、試合翌日は休みだ。それどころではないと思うだろうが、焦ってはかえってよくない。ゆっくり休んで、心身ともに落ち着けてくれ」

 選手たちはそれを聞いて、「わかりました」と頷いた。気の強い競技選手ともなれば、監督の意見に楯突くやつはいるのだが。このクラブにはいなかった。


(いいことなのか、よくないことなのか)

 ドドパは選手たちを眺めて。彼らは真面目でもあるが、優しすぎるとも思った。それが今日の結果の一因であろうと思わざるを得なかった。

 しかし、人の性格はすぐに治せるものではない。


 今いるメンバーでどのようにして戦うのか。あさってからよく打ち合わせをして、入れ替え戦に臨まなければと、頭の中はフル回転をしている。

 龍介も、もう落ち着きを取り戻し。お腹もいっぱいに食べて。くつろいでいる。

「ああ我ら誇りも高きマーレの戦士なり……♪」

 ディフェンスのサニョンが突然声を出して歌い出した。それを聞いて、他の選手たちも口をそろえて、突然の熱唱、合唱がはじまった。

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