第十一章 理想と現実と…… Ⅱ
「こら、やめんか!」
警備の兵士が無理くり引きはがし、シェラネマーレのサポーターに槍の穂先を突きつける。その間にギュスノーヴのサポーターは足早に逃げ去ってゆく。
「これ以上騒げば、逮捕する!」
「ちぇ、やってらんねえよ!」
気が立ったサポーターは捨て台詞と唾を吐きながらさっさと立ち去ってゆく。
コロッセオ周辺は、そんな、気が立ったサポーターたちがどうしようもない気持ちを抱えて、さながら亡霊のように彷徨い、雰囲気を悪くしていた。
「いやだねえ、またサポーターが暴れているよ」
「まったく、何様のつもりだ」
近所の人々や通りすがりの人々は、眉をしかめて一連の出来事を眺めていた。
先に仕掛けた方も、仕掛けられた方にも、同じように軽蔑の念がはっきりと出て。サッカーやサポーターそのものに悪い印象を持っているようだ。
「大王さまにお願いして、サッカーなんかやめてもらおうよ」
「その大王さまが好きなくらい人気があって人も集まるんだが……、いくらなんでも調子に乗りすぎだよ」
「それに、サッカーばかりえこひいきされて、他の競技がないがしろにされている。これはいかがなものか」
などなど、そんなことを言う人々も多々あった。
それを聞きつけたサポーターが、
「素人が勝手なこと抜かしてんじゃねえ!」
「お前らにオレたちの気持ちがわかってたまるか!」
「サッカー馬鹿にしてんじゃねえ、謝れ! こら、謝れ!」
そんな感じであちこちに噛みつき怒鳴り散らし。
それを眉をしかめながら、人々は避けて遠ざかったのだが。そこで終わらない人もおり。
「まるで自分が神であるかのような傲慢さ。もう許せん!」
と、大王に直訴するのだと城に向かう人も数名見受けられた。
馬車の列はコロッセオを離れて、中にいる者たちにはそれらの言葉は届かなかった。が、雰囲気は感じ取っていた。
大王一行は城に帰り。シェラネマーレの馬車はシェラーンの屋敷にゆく。すでに伝令により出迎えるよう言伝されており。
屋敷の召使いさんたちはよく働き、出迎えの支度が出来上がっていた。
大広間は宴席のように大勢の人間が食事ができるようになっている。馬車から降りて、導かれた面々はそれぞれ席に着く。
龍介も力なく、椅子に座る。目の前には長いテーブルに置かれた豪華な料理が置かれているのだが、見えているけど見てない状態だった。
ちなみに酒はない。酒を飲ませない方がいいと助言を受けてのことだったが。雰囲気を感じ取れば、確かに酒はない方がよさそうだった。
シェラーンは座らず、立って選手たちを見つめた。
「これは、私からの、せめてもの心づくしよ。お腹いっぱい食べてちょうだい」
「では。ありがたく、いただきましょう」
レガインとドドパは先にフォークとスプーンを手にして、料理を口にし。それに選手やスタッフメンバーが続き。
龍介も、ちびちびとだが料理を口にした。




