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第十章 神は試練を与え給う Ⅴ

「ああー」

 という落胆の声がサポーターから漏れた。

 同時に。

 ぴーーー、ぴーーー、ぴーーー。

 という、長い笛の音がし。


「やめッ!」

 と審判が試合の終了を告げる。

「ああ、神さま。あなたはなぜこのような試練を我らにお与えになるのですか」

 思わず天に向かって囁いた。


 龍介は思わず崩れ落ち、尻もちをついてしまった。他に数人、膝をつき無念さを噛みしめる者もいた。

 負けた。

 負けたのだ。これによりリーグ最下位が決まり、入れ替え戦を戦うことになった。


 サッカーが大好きで、ひとつでも多く試合に出られたら嬉しいはずなのに。こればかりは、どうにも、試合ができると喜べなかった。

 選手と審判たちで整列し、観客に一礼し、握手してゆく。

 シェラネマーレの選手たちは無念さを押し殺し、それを見たギュスノーヴの選手たちはこの時ばかりは勝利の喜びを控えて握手した。


「我らも苦しめられた。あのシュートが決まったのは奇跡のようなものだ」

 テンザーはジェザにそう言う。

 同じリーグで戦う選手同士、クラブが違っても顔見知りである。中には堅い友情で結ばれていることもある。

「ああ、まあ、次も頑張るさ」

 ジェザは気丈に振る舞う。その次が龍介だった。テンザーは同じように、

「君はよくやった」

 握手のあと肩に優しく触れて、健闘を讃えた。


「ありがとうございます」

 龍介も礼を言いい、気丈に振る舞った。

 選手審判の握手が済んだあと時計回りでコロッセオを一周し観客に挨拶して回る。ギュスノーヴは反時計回りで回る。

 それぞれのサポーターの反応は、陰と陽のごとく対照的なものだった。

 ギュスノーヴ側は安堵し、喜びを分かち合っていた。それに対して、シェラネマーレは……。


「顔を上げろ!」

「次で勝てばいいじゃないか!」

 という激励の声もあったが、やはり、

「何負けてるんだよ!」

「ブー! ブー!」


 というブーイングの声もあった。

「異世界人の役立たず!」

「お前なんかいらない、異世界に帰れ!」

 龍介に厳しい声が飛ばされる。


「……!」

 こんな厳しいことを言われたのは初めての事だった。

 高校選手権ではさすがに罵声は飛ばないし。地域リーグは連戦連勝の首位だから、ブーイングを飛ばされることはなかった。

 Jリーグは外国に比べてサポーターはおとなしい方だと言われるが、それでもフーリガンまがいな奴は残念ながらいる。


 それらは試合に負けた場合容赦ない罵声を選手たちに浴びせることもある。

 が、そうでなくとも、負ければ、ことに降格だの入れ替え戦決定だのとなると、雰囲気が悪くなり。それに嫌気がさして離れる人もあるという。

 Jリーグでない異世界となれば、なおさら、というところはあるのだろう。

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