第十章 神は試練を与え給う Ⅳ
そしてついに、アディショナルタイム2分のボードが掲げられた。
「なんでこんな時に限って短いんだよ!」
思わず愚痴が出る。
シェラーンはもろ手を握り合い、祈るようにピッチの選手たちの健闘を見つめていた。
「なんとかしないと……!」
右から、左から、ペナルティエリアに詰めたギュスノーヴの選手に紛れ込む龍介やジェザに向けてボールをパスする。
「ままよッ!」
埒が明かない! と、右端のスペースからリョンジェは自らドリブルし、ペナルティエリアの”人ごみ”に向かって突っ込む。
ハッとして、龍介はリョンジェのもとへと駆けた。
「頼むぞ!」
林立する相手選手の妨害をどうにかくぐり抜け、ペナルティエリア内でボールがリョンジェから龍介に託された。
「頼むわよ」
シェラーンも強い祈りを込めて龍介を見つめた。
龍介はジグザグのスラロームのドリブルを見せて、相手選手をかわし、ゴールに迫った。
「いけえーー!」
「PKに持ち込むんだ!」
シェラネマーレのサポーターも強い祈りを込めて龍介にすべてを託した。
が、しかし。
ギュスノーヴの選手たちも必死である。龍介の視界に、あらぬ影が飛び込んできた。
「テンザー!」
攻撃専門のフォワード、テンザーがこの期に及んでまたも後ろに下がり守備にくわわってきたのである。
リョンジェがドリブルでペナルティエリア内に飛び込み、龍介にボールを託すのを見て、急ぎ駆け付けたのであった。
「離れろ、テンザーに任せろ!」
ゴールキーパーが叫んだ。集団で過密状態では、かえってテンザーの邪魔になってしまうからと、他の選手を下がらせ。
これにより、ゴールの手前で龍介とテンザーのマッチアップ(1対1の勝負)となった。
龍介はテンザーを避けようと右にゆく、振りをして左にゆき。しかしテンザーはひっかからず、上手く龍介の前に立ちはだかり続ける。
(だからって、馬鹿正直にマッチアップし続けると思うなよ!)
ジェザやリョンジェ、ギャロンらが妨害をくぐり抜けて駆けつけてくる。これはサッカーの試合であり、選手は勝利のためにあらゆる手を尽くす。一騎打ちにこだわるような真似はしない。
龍介は後ろに近づいたジェザに後ろにかかとでパスを送る。
「小癪な」
テンザーはボールを追おうとするが、それを龍介が妨害し。その隙にジェザはふたりから離れて、ゴールの右隅に迫り。
「いけえ!」
シュートを放った。
だがしかし。
ゴールキーパーは必死の思いでボールの前に立ちはだかって、全身で食らわんがばかりにボールにしがみつくように受け止めた。




