第一章 異世界に呼ばれて Ⅵ
見た目は簡素だが大きさは一軒家と同じくらい、サーカスのテントって感じだった。が、中に入って龍介は身を引き締めた。
幕舎の中は太陽の光が入らないため、燭台のランプで中を灯しているが。それがまたやけに明るい。
ガルドネ曰く、
「魔力によりひときわ明るい火を灯すことができる」
とのことで、
「すげーうちのシーリングライトより明るいかも」
などととぼけたことをつぶやく。
ともあれ、ランプの火は中をよく灯して明るい。
そしてやはりここはサーカスのテントかと言いたくなるというか、鎧姿の武人にマントフードの魔導士などが左右に数人立ち並んでいる様は、まさにファンタジーでサーカスの催し物がおこなわれると言われても疑わないだろう。
その向こうに、簡素ながら造りのよさそうな椅子に腰かけた人物がいるが。
いずれも目つき鋭く、まるで「魁!男児塾」という漫画の中に放り込まれたような緊張感を禁じ得なかった。
頭には何かヘアバンドをしているように見えたが、それは葉のついた木の枝を丸めて頭に載せているものだった。
月桂樹の枝で作った月桂冠のようだ。
マントのついた鎧を身にまとっている。その少し後ろには召使いか小姓の少年が数名立って控えている。さらにその後ろ、素人目に見ても豪奢なこしらえの剣を持つ男がいる。これもうやうやしそうにたたずんでいる。
ガルドネに導かれて、その椅子の前まで来ると、肩をつかまれて一緒に跪かされる。
「バジョカ大王さま、異世界より源田龍介君を召喚いたしました。……これ、ご挨拶しなさい」
「は、はい。源田龍介です……」
龍介は跪きながらも顔を上げて、椅子に座る様も堂に入っているバジョカ大王に挨拶をしたが。こんな挨拶の仕方は初めての事なので、ぎこちないのはどうしようもなかった。
それはバジョカ大王も見て分かったようだった。
大王と呼ばれるにふさわしい鋭い目つきで龍介を見据えていたが、
「よい、楽にせよ。……この者に椅子を、飲み物も用意してあげなさい」
「お心遣い、ありがとうございます」
緊張しっぱなしで身も心もカチカチの龍介に代わり、ガルドネが礼を言う。
召使いか小姓らしき少年ふたりが椅子をもってきて、座るよううながされて腰掛ければバジョカ大王と向き合う形となり。その間に小さめの円卓が置かれ、その円卓に水の入った木の器が置かれた。
「喉も乾いただろう。飲みなさい」
バジョカ大王が龍介に言えば、「はい」と、か細い声で返事をして水を飲み干し。すぐさま小姓の少年がおかわりをもってくるが。一杯の水がこんなにも美味く、ありがたいものなのかというありがたみを噛みしめて、二杯目はすぐに飲まずにとっておいた。




