第九章 裏天王山 Ⅸ
ゴール前に集まった選手たちはボールを見据えながら押し合い圧し合いしながら跳躍する。
龍介も小柄なハンディキャップがありながらも、少しのチャンスに懸けて跳躍した。
だがギュスノーヴのゴールキーパーもさるもので、彼もまた思いっきり跳躍してボールを分捕るようにして掴んで、堅く抱きしめた。
と同時にギュスノーヴの選手たちは駆け出し、シェラネマーレの選手たちもカウンターに備えて駆け戻る。
ゴールキーパーがボールを蹴り上げて、きれいな弧を描いてギュスノーヴの選手がそれを胸で受け、ピッチに落とすと同時に、なんとセンターラインから少し出た位置で相手ゴール目掛けて思いきり蹴り上げて、ロングシュートを放った。
ルーオンはゴールの少し前に出ていて、宙を飛び弧を描きながらこちらに迫るボールを見て急いで戻りながら跳躍すれば。
掌でボールを弾き飛ばし、ゴールの後ろに転がして。
勢い余って背中から転んだ。
「いちち」
幸いどこも強く打ち付けておらず、すぐに立ち上がった。
今度はギュスノーヴのコーナーキックだ。
ボールは左端に置かれて、蹴り上げられた。
ゴール前に集まった選手たちは押し合い圧し合いしながら落下するボールを奪い合おうと跳躍したが、ルーオンも思いっきり跳躍し腕を伸ばしてボールをつかんでこれも強く抱きしめ、さっきの再現みたいになった。
そこで、長い笛の音がして。前半が終了した。
「やれやれ。どうにか、だな」
レガインとドドパは、ひとまず安堵し後半に望みをつなげられた。硬直した状態を変えようと相手をわざと動かし、冷やりとした場面もあったが。それはある程度でも上手くいったように思えた。
自分のペースで動くことができれば、試合を制御でき、得点の機会も得られるだろう。
「ふうー」
思わず龍介は長く息を吐き出した。なかなかハードな試合だ。
そうかと思えば強く背中をたたかれて、驚いて誰かと見てみれば、リョンジェだった。
「後半も頼むぜ、異世界の助っ人さんよ!」
「う、うん。がんばるよ」
龍介は親指を立てた。
選手たちは後半こそと意気込みながら奥に引っ込んでゆく。
シェラーンにヴァサン、バジョカ大王も、冷たい飲み物の入った杯を渡されて、ひと息つく。
シェラーンはアイスコーヒーでバジョカ大王ははるか東方よりもたらされた緑茶という飲み物で、ヴァサンはオレンジジュースだった。
「なかなかやりますな。1回目の試合とは大違いだ」
ギュスノーヴとシェラネマーレの1回目、龍介の世界風に言えば第1レグの試合は、ギュスノーヴが1対0で勝っている。
それは第4節で、シェラネマーレは開幕から4連敗し、さらにそこから3連敗し。あろうことか、開幕7連敗を喫してしまったのだった。
8戦目にしてようやくPKによる勝ちをつかんだが、不調から抜け出せず、最終節で最下位争いの試合をすることになった。




