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第九章 裏天王山 Ⅶ

「相手を動かすんだ!」

 意図を察したリョンジェは真っ先に戻り。他の選手たちも続く。

 相手が引けば、行かぬわけにもいかずとギュスノーヴの選手たちが前に進み出てくる。


 ここぞとばかりにテンザーにボールがパスされる。リジルがその前に立ちはだかり、ボールを奪おうとするも、足を引っかけてしまった。

 テンザーは転倒し、足をしばし抑えてうずくまる。


 ぴー! と笛が鳴る。

「やめッ!」

 悪質な妨害があったとして試合は一旦止められた。リジルは謝罪し手を差し伸べ、テンザーはその手を借りて立ち上がった。

 それから、審判は胸ポケットからイエローカードを取り出してリジルに向けて掲げた。


 その間にシェラネマーレの選手たちはゴール前に戻って、守備を固める。

「やられたな」

「すまないね」

 テンザーを転倒させたのはもちろん意図的ではないが、転倒させカードを食らうリスクを負ってでも止めなければ守備を整えることはできなかった。


 だがリジルは今シーズン通算3枚目のイエローカード。あと1枚食らえば退場処分になってしまう。

 イエローカードは通算4枚受ければ退場処分になり。加えて次の試合出場停止。他に、ひと試合で2枚受ければ退場となる。この場合も次の試合に出られない。


 ボールがテンザーの転倒した位置に置かれて、試合は再開された。

 ボールは他の選手が蹴り、テンザーは前に進み出る。

 しかしゴール前にはシェラネマーレの選手たちが集まり、防御態勢を整えている。龍介もゴール前にいた。


 テンザーはゴール前のシェラネマーレの選手たちの中に紛れ込むようにゴール前に来た。ギュスノーヴの他の選手も数人、同じように紛れ込んで。

 外からのパスの奪い合いの様相を呈していた。


「あ、やばい!」

 どうにかボールを奪おうとするシェラネマーレの面々だったが、ここでもテンザーは巧みに動き回り、つまり自分をおとりにして相手を翻弄して動かし。いつの間にか、スペースを作っていた。


 そこにギュスノーヴのモルゾンというミッドフィルダーの選手がいて、ボールを持っていて。シュートを放った。

「なにくそッ!」

 ルーオンは咄嗟に、必死に身を挺してゴールを守り。軌道を読んで、胸で受けて抱き着くようにして腕を回しボールを持った。


「あぶねーあぶねー。これぞまさに間一髪ってやつだぜー!」

 ピエロDJは囃し立てて、

「ほんとあぶねー!」

「ルーオンやるー!」


 と、観客席のシェラネマーレのサポーターたちは安どのため息を漏らして。ギュスノーヴのサポーターたちは、

「惜しいー!」

「あとちょっとだったのに!」

 と、シュートが決まらなかったことを悔しがった。

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