第九章 裏天王山 Ⅳ
「まだまだ、1点取られただけだ。オレたちは2点、3点とるつもりで試合してるんだろうが!」
そう叫ぶのはギャロンだった。褐色の肌の、筋骨たくましく巨塔のような大柄なミッドフィルダーは沈もうとする気持ちを長い腕でもって引き摺り出そうとするように、仲間たちを鼓舞した。
「そうだ、まだ逆転の機会はあるぞ!」
それぞれでそう言い合い。ボールはセンターに置かれて。龍介が蹴り出し、ジェザに渡して試合は再開された。
「守備重視の布陣の守りの堅さに手こずり、そこから一瞬の隙を突かれて失点か。いやはや何とも、情けない」
レガインもドドパも忸怩たる思いだった。なるほどあのテンザーの得点力あればこそ、守備に人数を割けるというわけか。
そんな展開を、小さな太陽の周囲を鳥のように宙を舞いながら見下ろし観戦するのはガルドネだった。
大魔導士だけあって空を飛ぶ魔法の術の心得もあった。この術はマーレ王国ひろしといえどもガルドネの他にふたりしか心得ていない。
「ふむ……」
何を考えているのかわからない、無表情な面持ちでコロッセオを見下ろす。
得点されたのは、試合開始から17分のことであった。
コロッセオに置かれる試合用の45分刻みの機械式の時計は振り子を揺らしながら無情に時を刻む。
シェラネマーレの選手たちは互いに視線を交えて頷き合い、ギュスノーヴのゴールに迫る。
ギュスノーヴの選手たちは今度は9人のフィールドプレーヤーがゴール前に詰めて守備に専念し、フォワードのテンザーはセンターに位置している。
テンザーは守備をしない攻撃専門のフォワードだった。そこの役割分担はしっかり分けられているようだ。
そんなわけで、もしものためにジョンスとサニョンの最後尾の真ん中のふたりがテンザーの近くにいて、すぐに戻れるように身構えて。攻撃は8人でやることになった。
ギュスノーヴの選手たちはペナルティエリア内に詰めているので、左右のスペースは空いている。
ジェザと龍介、ギャロンは相手の9人の選手の中に紛れ込み。他の選手が左右の長い横パスでボールを入れ替えながら、得点の機会をうかがうが。
ギュスノーヴの選手たちは必死になってテンザーが獲った1点を守っていた。
人が密集しているのでピッチを転がすようなパスはできず、上に蹴り上げて背の高いギャロンやジェザがヘディングでシュートをする、あるいは――
ボールはギュスノーヴのペナルティエリアの周囲を巡り行ったり来たり、たまにゴール前に行ってもすぐ掻き出されてリジルなどのシェラネマーレの選手が拾ってまたペナルティエリア周辺を……。
こういったことの繰り返しだった。




