第八章 最終節に臨む Ⅲ
この試合は夕方、時間にして午後4時のキックオフとなる。
季節も進み涼しくなってきたが、動けば汗ばむ。が、夜は冷える。それを考慮しての夕方キックオフであった。
龍介は自室に控えて、本を読む気も起らずベッドで横になっている。
目を閉じればいつの間にか眠りについて。
「時間ですよ」
というノックの音と宿の人の呼びかけで目が覚め。はっと目を見開き、身繕いをして部屋を出て。
他の選手たちと一緒にコロッセオに向かい。入口で警備の兵に一礼をされながら中に入る。
途中、サポーターたちが期待を込めたまなざしで選手たちを見つめていた。
「頼むぞ」
「頑張れよ」
という声援も飛んだ。
ロッカールームでユニフォームに着替え。レガイン監督とヘッドコーチのドドパらとが輪になって。
「いま我々は崖っぷちにいると思い、全力で戦い抜け!」
「おう!」
団結は言うまでもなく、堅くなって。皆が戦い抜くことを誓い合った。
(やるしかねーじゃん)
あらぬ形で異世界のサッカーリーグの助っ人になってしまったが、龍介も戦意は高い。
なによりも、シェラーンのあの凛々しい顔が浮かび。その次に、笑顔になるのが浮かぶ。
19で多くのものを背負うシェラーンのために、今日の試合はなんとしても勝ちたかった。
(あ……)
心の底から勝利を渇望していることに気付いた。こんな気持ちは久しぶりだった。単に自分のためにではない、自分以外のなにかのために、である。
自分にこんな心があったのかとも驚く。
「行くぞ!」
皆がそう叫んで、ピッチに出て試合前練習に入った。
ギュスノーヴも一緒に入り。コロッセオの観衆は、
「うおおおーーー!」
とどよめいて。太鼓の音も轟いて。声援とチャントの歌声が響く。
それを全身で受け止め、手を振って挨拶はしたがそれから愛想を振りまくことも忘れてボールを追うことに専念していた。
この第3コロッセオも、第1と同じように王侯貴族用に貴賓席としての特別スペースがあり、そこにバジョカ大王もいればシェラーンもおり、対戦相手のギュスノーヴのオーナー、ヴァサンもいる。整えた口ひげが印象的なスマートな紳士風情の壮年で、バジョカ大王とシェラーンと握手を交わした。




