第七章 やっぱり…… Ⅱ
「安堵しているようね。私も安心したわ」
「はあ。色々と気を遣わせちゃって」
「その分の働きを期待してるからよ」
「……うん、頑張る」
龍介の笑顔がややこわばって。シェラーンは「うふふ」と微笑んだ。こうして見れば、キュートな女の子だ。
ふと、窓の外を見た。
マーレの都がどんなところなのか気になるけれど、観光どころではないと、ふと思った。
「帰ろうか」
「え?」
「今日は十分楽しんだ。やっぱり……。屋敷に戻って、試合に備えて身体を休ませた方がいいと思うんだ」
「まあ」
こわばった笑顔から一転、真剣な顔つきになった龍介を、シェラーンは思わずまじまじと見つめてしまった。
「そうね。じゃあ、出ましょうか」
「あ、ここの払いは……」
「自分の分は自分で出しましょう。変なところで貸し借りをつくるのは、よくないわ」
「そうだね」
ということで、自分の分は自分で出したが。そういうことに堅さを見せるのも、若いながらも貴族らしいと思った。
馬車の停留所に戻れば、御者さんと召使いさんがあれこれ世間話をしていたが。戻ってきたふたりを乗せると、屋敷に向かって馬車を進ませた。
屋敷に帰ってからは、静かに憩いのひと時を過ごした。
この世界にはテレビもラジオも、インターネットもない。本はあるが、文字が読めない。そのことに気付いて、どう時間を過ごしてよいのか戸惑いを覚えた。
休むと言っても何もしないでぼーっとし続けるのもそれはそれで苦痛だった。
それはシェラーンもわかっていて、帰ってしばらくしてから手押し車に乗せられた十数冊の本を持ってきてくれた。
「シェイクスピア!?」
渡された本を色々見て、うちひとつの著者名を見て驚く。
わずかながら、龍介の世界の、日本語の本が城に保管されており。バジョカ大王の手配で屋敷に届けられたという。
異世界間を人が行き来するのだから、本の行き来もあって当然といえば当然ではあった。
が、その本のジャンルが少々お堅いものだった。
シェイクスピアは言わずと知れた中世の劇作家であるが、他の本も歴史や哲学系で、そういうものを選んで保管していたあたり、やはりバジョカは大王であり、雲の上の存在という感じが増した。
「気候もいいから、庭で読んでもいいわよ」
「ありがとう」
正直に言えば漫画が読みたいところだったが、好意を無下にもできず。シェラーンに言われた通り庭に出て、そこにある椅子に腰かければ。隣の椅子にシェラーンも座った。
「いい天気だしね」
とそっけなく言うも、そばにいてくれるのが嬉しいのはごまかせなかった。
こうして二人並んで読書となった。
まずシェイクスピアのマクベスを手に取って読んだ。




