第六章 マーレの休日 Ⅸ
魔法で上空からコロッセオに降臨するように降りてくるとか、考えてみればとんでもない話だが、この世界では普通なのだ。
馬車は進む。よくできた造りなのか馬車の中は静かだった。窓から見える昔っぽい景色が流れてゆき。その景色の中で人が行き交い、生活があることをうかがわせた。
シェラーンは腕と足を組み、男装もあってやはり威厳に溢れたたたずまいだった。ふたりは向き合い、話と言えば昨日の試合の事だった。
昨日の試合に関する細かいことを時間をかけてじっくりと話し合った。
やがて馬車は市街地に着き、馬車の停留所にとまって。龍介とシェラーンは下車した。
「わあ」
市街地に来てみれば、やっぱりまったく違う世界にいることを改めて感じた。
「行くわよ」
シェラーンは龍介の手を引き、どんどんと歩き出す。いってらっしゃいませと、御者さんと召使いさんは手を振って見送った。
(教科書や歴史の本で見た絵と同じだ)
石造りや木造りなど様々な工法で建てられた建物が立ち並び。昔の格好をした人々が行き交う。しばらくして市場に着く。幌を立てた小さな店が並び、
「らっしゃいらっしゃい」
と威勢の良い声で客寄せをし。あるいは立ち寄った客とやりとりをしていて、活気があった。
いつの間にか手は離れているが、ここで迷子になったら大変だとシェラーンにくっつくのがやっとだ。
すると、
「あー!」
と、変に大きな声がしたと思えば、誰かが龍介を指差して、
「昨日の試合に出てた異世界人じゃねーか!」
と寄ってくる。
他の人たちも気付いたようで、「ほんとだ」と寄ってくる。
「え、え、え?」
龍介はいつの間にか人々に囲まれて、戸惑うばかり。シェラーンは、
「あらら……」
と、苦笑する。
軽い気持ちで龍介を外に連れ出したが……。
人々の視線が龍介に集中し、わらわらと集まってくる。もちろん隣のシェラーンもとばっちりだ。
「行くわよ」
そう言うと手を握り、人の波をかき分けながら龍介を引っ張りながらずかずか歩く。
「わ、すいません、わわ」
肩が人に触れるたびに龍介は謝って、シェラーンはそれを好もしく思い微笑みつつも。
「そんなに謝ったら変な人と思われるわよ」
と言った。
「そんなこと言ったって」
引っ張られ戸惑いながらも、龍介はどこか上の空で夢の中にいるようだった。




