第六章 マーレの休日 Ⅶ
「支払いは皆私もちよ」
「いいの?」
「いいのよ。あなたを信じているわ」
「……ありがとう」
自分を信用して、お金はシェラーンもちと聞いて。龍介は恐縮し、無駄な買い物はしないでおこうと決意するのであった。
(といっても、買い物ったって、何を買うんだろう)
と思ったりもするが、ここで生活をするうちに買い物もできるようになるだろう。多分……。
ともあれ、話は理解できた。
残りの試合は、結果次第で1試合になり、2試合にもなる。
ガルドネは「それでは」とその場を辞し。龍介とシェラーンは朝食を食べ終わって、召使いさんの持ってきてくれたコーヒーを飲みながら満たされた腹を落ち着ける。
シェラーンはこの世界と龍介の世界のサッカーの違いを尋ねて、
「そうだなあ。レベルが高くて、大変だったよ。昨夜はまぐれみたいなもんだ。また同じようにできるかどうか、心配だね」
と、龍介は自信なさげに答えて。
「審判の笛も、そういえばオレの世界ほど吹かずに流すことも多いね。まあ日本は笛をよく吹くとは言われてるから、外国の試合はあんな感じかな」
とも答えた。
シェラーンは微笑みながら、
「そう」
と相槌を打ち、龍介の言葉に聞き入ったが。丁度コーヒーも飲み干し。
「色々と話したいこともあるけど。執務があるから。じゃあまたね」
と、立ち上がって。召使いさんをひとりともなって広間を出てゆく。その後ろ姿は、同い年の19の女の子ではなく。立場ある貴人の趣があり、やはり威厳を感じさせて。
(すごいなあ)
と、感心させられた。
残された龍介はコーヒーを飲み干し。別の召使いさんに、
「もう一杯いかがですか?」
と言われて、
「あ、はい。お願いします」
と咄嗟に応えて、おかわりが運ばれて。それをすすりながら、窓の外の景色を眺めた。
窓から見える庭は立派な庭園で、様々な草花に木が植えられて趣があった。
(どうしよう)
ひとりぽつんと残された心細さを覚えた。この、まだ慣れない異世界で、ひとりどう過ごせというのか。
コーヒーを飲み干すと、
「ごちそうさまでした」
丁寧に言って、自分の部屋に帰って行った。




