第六章 マーレの休日 Ⅴ
「お食事中に失礼。今日は試合の翌日なので休みじゃ。ゆっくり休めと、監督は言っておった」
「あ、ありがとうございます」
ガルドネがレガイン監督の言葉を伝えたが、それが本来の目的ではあるまいとシェラーンは思いながら、召使いさんに椅子を持ってくるように言えば。すぐに用意されて、ガルドネはそれに腰掛ける。
「それで、何のご用でしょうか? 大魔導士さま自らお越しになられて」
「ふふ。立場がある者は、こうして何かあると思われる。ただ日常会話をしにきた、ではいかんかな?」
「いえ……、ご無礼を」
「よい」
言いながらガルドネは鞄から水晶玉を取り出し、テーブルに置いた。
それは妖しく光っている。しかも、転がらない。シェラーンはそれを見てはっとする。
「見なさい」
水晶玉の中に何か浮かんでくる。それはコロッセオの中のピッチだった。
「……あ!」
龍介は言葉を失った。
水晶玉には、担架で運ばれる自分が映し出されているではないか。しかし、周囲の選手たちは手を叩いて龍介の健闘を称えている。冷ややかな者はいなかった。
しかもこの水晶玉、音も出る。コロッセオは喝采に包まれていた。
龍介はそれをまじまじと見やった。言葉も出ず。自分が倒れたときに、そんな風になっていたなど思いもしなかったので驚きは大きかった。
「龍介君、君は本当に、サッカーが好きなのだな」
「え?」
「異世界に来れば、まず戸惑いサッカーどころではない。しかし君は異世界の試合でも健闘した。まず私はそれを讃えたい」
「……」
龍介はこの異世界のマーレ王国に来て、正直に言えば戸惑いは今もあるのだが。目の前にサッカーがあると、じっとしていられなかった。身体が勝手に動くというか。
映像と音の出る、魔法の水晶玉があるような世界なのだ。が、異世界から人を召喚し、受け入れ態勢も整えるなど、よくできた世界でもある。
(今まで召喚した者の中には、まったく使えぬ者もおり、魔法で記憶を消して帰したが。彼はその必要はなさそうじゃな)
ガルドネはいつの間にか真剣なまなざしで水晶玉を見据える龍介に好もしい印象を抱いていた。
それはシェラーンも同じだった。
「大魔導士さま、龍介は私の屋敷で預かりますが。よろしいでしょうか」
「ふむ。召喚選手は原則城にいてもらうのだが……。よいであろう」
「ありがとうございます。責任をもって彼を預かります」
(オレを目の前にしてオレ抜きで話を進めてるよ)
龍介は平静を装いながら心の中で苦笑するが、悪い気はしなかった。




