第六章 マーレの休日 Ⅰ
はっ、と目が開く。
そこは試合前に休んだシェラーンの屋敷の部屋だった。
「オレは……」
試合をしていたはずだ。
「あ、そうか」
そうだ、試合は同点になってPK戦にもつれ込んで。
最後の自分がバーに当ててしくじって、それで試合に負けてしまったんだ。
そこから、意識がなくなって……。
見れば服も着せ替えられている。Tシャツにジーパンではなく、現地の綿製の服だ。
それでも貴族の屋敷にあるものだから、程よい薄さと軽さで着やすく、ベッドで横になるのに合っているから、寝間着か。
(っていうか、裸見られた!)
意識を失っている間にコロッセオから屋敷に移されたのみならず、汗もかいていたからユニフォームから寝間着に着せ替えられ、ベッドに横たえられたと思うと。
やむを得ないこととはいえ、恥じらいを禁じ得なかった。
部屋は暗い。スイッチを探し壁をまさぐれば、突起があり、それを押した。
そうすれば、天井からぶら下がる小さなシャンデリアに魔法の火が灯って、部屋が明るくなる。
(魔法かあ)
自分の世界みたいな機械化はなく昔の古代や中世っぽい世界だが、魔法のおかげで不便をせずには済んでいる。
ともあれ――。
ドアを開けて顔を出し、
「誰かいませんかー?」
と声を出せば。
「はいはい、ただいま」
と召使いの女性がやってきて。
「ああ、お目覚めになられましたか」
と、にこやかに対応する。
「もうご気分はよろしいのですか? まだ具合の悪いところは?」
「いえ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「それはよかった。お食事もできますが、どうなさいますか?」
「ああ、そうですね……。シェラーンさんは?」
召使いの女性の笑顔がやや微妙な反応を示した。
(ま、彼ったらお嬢さまに気があるのかしら!?)
などと思わないでもない。若い者同士、心の変化や化学反応があっても不思議ではないと、微笑ましさを感じないでもない。
だが。
「今は夜も深いですし」
そう言われて、はっとする。
試合は、夜の7時に開始されて、終わったのは9時半くらいか。そこから意識をなくして、コロッセオから屋敷に移されて。
ふと、部屋の中に掛けられた機械式の時計を見れば。なんと深夜の2時を針は差している。
「ああ、もうこんな時間ですか。すいませんこんな時間に」
龍介は悪いことをしちゃったと召使いの女性に詫びる。
「いえいえ、これも仕事ですからねえ。でも、お腹すいてるんじゃないですか?」
言われたとたんに、ぐう~、と腹が鳴った。




