第五章 セカンドハーフ Ⅵ
龍介だった。
急いでのことでふんばりが効かない体勢のまま蹴り上げたため、ボールが跳ねてゴールネットの上に落ちた時には、尻もちをついていた。
「龍介……」
シェラーンは手に汗握る思いだった。龍介はフォワード、最前線の選手、攻撃が主な仕事なのだが。必要とあれば後ろの守備にも回る。
審判が何か字の書かれた盤を掲げた。楔形文字っぽいので龍介は読めないが。
「アディショナルタイムは3分だ!」
と他の選手が言うのが聞こえた。
45分のレギュラータイムが終わり、アディショナルタイムに入ったのだ。
「あと3分もあるぞ!」
リョンジェとジェザは叫び、どうにかボールを前に進めようと足掻く。
アディショナルタイムは試合が途中で空費された時間のことをいい。それがレギュラータイムが過ぎた後に追加される。それは好機でもあるが、場合によっては危機でもあった。
この場合シェラネマーレにとっては好機だが、リードしているヴァゼッラにとっては危機だった。アディショナルタイムで追いつかれ、挙句逆転された事例などごまんとある。
「まだ3分もある」
「あと1点、あと1点」
シェラネマーレの選手たちは呪詛のように唱え続けた。
龍介がボールを掻き出した後のコーナーキックをどうにか防いで、ゴール前の混戦の中ジョンスはどうにかボールを捕まえて。
「こっちだ!」
前に進み出たトゥーシェンにパスを放つ。
パスされたポールは近くにいたギャロンに、またリジルにパスされ、順調に前に進む。カウンターだ。
「なにをやっとるんだ!」
ヴァゼッラは思わず叫んでしまった。リードをしているのに相手が善戦するのでまるで追い込まれたような気持にさせられる。
だが、それがサッカーというものだ。と、バジョカ大王は考えた。そしてそれがサッカー、ひいてはスポーツの醍醐味であった。
時計は淡々と、刻々と進む。あとどれほどプレーできるのか。ヴァゼッラの選手たちも急いで戻ろうとする。ゴール前にはゴールキーパーしかいない、このまま進めばオフサイドを取られてしまう。
「ほらよ、魔法に選ばれた力でやってくれ!」
オフサイドを警戒し前進速度を落とした龍介にリジルからパスが回される。
「ありがとう!」
あれだけ龍介のことを悪く言っていたリジルが。変わったものだ。しかし今は感慨に浸る暇はない。龍介は遠くからながらシュートを打ち放った。
打ち上げられたボールは大きく弧を描き真っ直ぐにゴール向かって落下してゆく。ゴールキーパーは身構えて、至近距離まで来たときに飛び出て跳躍して受け止めようとするが――。




