第五章 セカンドハーフ Ⅲ
ボールは右の角に置かれて、リョンジェが蹴った。
ボールは浮いて、ゴール前に集まった選手たちは押し合い揉み合いしながらボールを奪い合い。
やはりここでは長身の選手が強く何名か一斉に跳躍した。ゴールキーパーも跳躍し、腕を伸ばした。が、ボールは掌の間をすり抜けるように落ちてゆき。龍介の目の前に来た。
咄嗟に頭で合わせて、ヘディングシュートを放った。ボールはゴール目掛けて飛んだが、その前にすかさず相手選手が飛び出て、ライン直前で蹴り出した。
そのボールはまたヴァゼッラの選手に拾われて、ドリブルで抜け出し、カウンターをしかけられる。
「くそ、もう少しだったのに!」
龍介たちは急いで自陣に戻ろうと駆けるが、いつの間にか相手選手の方がだいぶ前に出ていて。少し距離はあったが、長めのパスでつなげられる。
ゴール前にはルーオンしかおらず、このままいけばオフサイドになるが。それがわかっていたか、遠目からシュートが放たれた。
ボールは空を突き抜けるように勢いよく飛び、ルーオンは真正面に立ってそれを受けようとするが。少し前で微妙に時空がゆがんだかのようにボールは曲がろうとし。
ルーオンは咄嗟に腕を伸ばしたが、間に合わず。
ボールはネットを揺らした。
観客席から大喚声が上がった。
「やられた……!」
龍介たちは歯噛みして悔しがり。シェラーンもまた頭を抱えて。ヴァゼッラは得意げにガッツポーズをする。
ピエロたちはヴァゼッラの3得点目を、さっきのシュートを過剰に「すげえすげえ!」と喚いて囃し立て。観客たちも騒然。コロッセオの雰囲気はヴァゼッラ寄りになってゆく。
バジョカ大王は「ふむ」と無駄口をたたくことなく、試合を見守っていた。
「ああ、あのヘディングが決まっていたら」
龍介は悔しさをあらわにする。あれが決まっていたら同じ2得点の同点に追いついたのに。そうなるどころか、シュートが防がれたところからカウンターに持っていかれて、しっかり点を決められた。
「さすが我がクラブの誇り、ザフォロだ」
さっきゴールを決めたのはザフォロというヴァゼッラのフォワードの選手だった。微妙な角度を描いてゴールキーパーを避けるようなシュートを放つことのできる手練れの選手なのは、よくわかった。
それ以前に2点も取られたのだ。シェラネマーレの選手たちも必死になって闘っているが、どうにも相手に及ばない。
シェラネマーレを熱心に応援するコアなサポーターたちは、
「なにやってるんだよー!」
と怒りをあらわにする者や、
「まだまだ! 最後まで戦い抜け!」
と叱咤激励をする者と様々だった。




